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犯罪の不成立及び刑の減免

犯罪の不成立及び刑の減免の条文と、裁判所が付した判示事項から整理しています。

原文解釈このページは論点を軸に条文と判例を横断して整理したものです。論点の名称と構成は当サイトの整理であり、条文上の区分ではありません。リード文・要点・比較表も当サイトによる解釈です。条文原文と判例の判示事項・裁判要旨は転記です。

刑法35条から42条までの規定で、一定の行為について犯罪が成立しない場合や、成立しても刑を減軽・免除できる場合を定めています。正当行為・正当防衛・緊急避難のように行為の違法性が問題となる場面と、故意・責任能力・刑事未成年のように行為者の側の事情が問題となる場面、さらに自首による減軽までを含みます。実務担当者は、どの条文がどの効果(不処罰か、減軽・免除が「できる」にとどまるか)を定めているかを区別して把握する必要があります。

犯罪の不成立及び刑の減免
制度要件効果
正当行為(35条)法令・正当業務行為罰しない
正当防衛(36条1項)急迫不正の侵害への防衛罰しない
過剰防衛(36条2項)防衛の程度を超えた行為減軽・免除できる
緊急避難(37条1項)現在の危難を避ける行為罰しない
過剰避難(37条ただし書)避難の程度を超えた行為減軽・免除できる
故意(38条1項)罪を犯す意思がない行為罰しない
事実不知(38条2項)重い罪の事実を知らない重い罪で処断不可
法律の不知(38条3項)法律を知らなかった減軽できる
心神喪失(39条1項)心神喪失者の行為罰しない
心神耗弱(39条2項)心神耗弱者の行為刑を減軽
刑事未成年(41条)十四歳に満たない者罰しない
自首(42条1項)発覚前の自首減軽できる
準自首(42条2項)告訴前の犯罪事実申告減軽できる
  • 緊急避難(37条)は業務上特別の義務がある者には適用されない
  • 過剰防衛・過剰避難の減軽・免除は「情状により」判断される
  • 故意がない行為の不処罰は、法律に特別の規定がある場合は適用されない
  • 準自首は告訴がなければ公訴を提起できない罪が対象
  • 第40条は削除されている
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犯罪の不成立及び刑の減免

犯罪の不成立及び刑の減免について、条文は何を定めているか。

第35条正当行為法令に基づく行為・正当業務は罰しない1項判例 53件
  • 法令上の行為は不処罰
  • 正当な業務による行為も不処罰
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第36条正当防衛正当防衛は不処罰、過剰なら減免できる2項判例 28件
  • 急迫不正の侵害への防衛でやむを得ない行為は不処罰
  • 防衛の程度を超えた行為は情状により減軽・免除できる
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第37条緊急避難緊急避難は不処罰だが過剰・特別義務者は別2項判例 10件
  • 現在の危難を避ける行為で生じた害が超えなければ不処罰
  • 程度を超えた行為は情状により減軽・免除できる
  • 業務上特別の義務がある者には適用されない
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第38条故意故意がない行為は罰しない(例外あり)3項判例 36件
  • 罪を犯す意思がない行為は不処罰(特別規定を除く)
  • 重い罪の事実を知らなければ重い罪で処断されない
  • 法律の不知は故意を否定しないが情状により減軽できる
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第39条心神喪失及び心神耗弱心神喪失は不処罰、心神耗弱は刑を減軽2項判例 21件
  • 心神喪失者の行為は罰しない
  • 心神耗弱者の行為は刑を減軽する
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第40条1項判例 1件
第41条責任年齢14歳未満の行為は罰しない1項判例 2件
  • 十四歳に満たない者の行為は不処罰
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第42条自首等自首・準自首で刑を減軽できる2項判例 12件
  • 捜査機関に発覚する前の自首で刑を減軽できる
  • 親告罪で告訴前に事実を告げ措置に委ねても同様
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論

主要な論点と判例

原文ママ

論点の見出しと結論は、裁判所が付した判示事項・裁判要旨をそのまま転記しています。文中の〈 〉内は条文の見出しを当サイトが補ったものです。

論点1第35条刑法

マジツクホンと称する電気機器を電話回線に取り付けた行為につき違法性が否定されないとした事例

裁判要旨マジツクホンと称する電気機器を加入電話の回線に取り付けた行為は、たとえ同機器を取り付けた者がただ一回通話を試みただけでこれを取り外した等の事情があつたとしても、違法性が否定されるものではない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和61年6月24日 昭和58(あ)555
登載
刑集 第40巻4号292頁
参照法条
刑法35条,刑法233条,有線電気通信法21条(昭和59年法律87号による改正前のもの)
論点2第35条刑法

一 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)八五条三号の規定と憲法一四条一項、三一条、三二条

二 独禁法八五条三号の規定と憲法七七条一項

三 石油製品の値上げの上限に関し通産省の了承を得させることとする行政指導がある場合と石油製品価格に関する不当な取引制限行為の成否

四 不当な取引制限行為が事業者団体によつて行われた場合と事業者の処罰

五 独禁法二条六項にいう「相互にその事業活動を拘束し」にあたる場合

六 独禁法二条六項にいう「公共の利益に反して」の意義

七 法人の従業者が法人の業務に関して独禁法八九条一項一号違反の行為をした場合と右従業者及び法人の処罰

八 独禁法八九条一項一号の罪の既遂時期

九 石油製品価格に関する行政指導の許される範囲

一〇 適法な行政指導に従つて行われた行為と違法性の阻却

一一 独禁法九六条二項所定の告発状の方式

一二 刑訴規則五八条違反の瑕疵のある告発状の効力

一三 清算の結了による株式会社の法人格消滅の要件

一四 株式会社の吸収合併が不成立ないし不存在とはいえないとされた事例

一五 会社の吸収合併と刑事責任の承継

裁判要旨一 独禁法八九条から九一条までの罪に係る訴訟につき二審制を定めた同法八五条三号の規定は、憲法一四条一項、三一条、三二条に違反しない。

二 独禁法八九条から九一条までの罪に係る訴訟の第一審の裁判権を東京高等裁判所に専属させた同法八五条三号の規定は、憲法七七条一項に違反しない。

三 石油製品の値上げの上限に関し通産省の了承を得させることとする行政指導が行われており、右行政指導が違法とまではいえない場合であつても、石油製品元売り会社の従業者等が、値上げの上限に関する通産省の了承を得るために右上限についての業界の希望案を合意するに止まらず、その属する事業者の業務に関し、通産省の了承の得られることを前提として、了承された限度一杯まで各社一致して石油製品の価格を引き上げることまで合意したときは、右合意は、独禁法三条、八九条一項一号、九五条一項によつて禁止・処罰される不当な取引制限行為にあたる。

四 独禁法上処罰の対象となる不当な取引制限行為が事業者団体によつて行われた場合であつても、これが同時に事業者団体を構成する各事業者の従業者等によりその業務に関して行われたと観念しうる事情があるときは、右行為に対する刑責を事業者団体のほか各事業者に対して問うことも許される。

五 各事業者の従業者等が、事業者の業務に関し、その内容の実施に向けて努力する意思をもち、かつ、他の事業者もこれに従うものと考えて、製品の価格をいつせいに一定の幅で引き上げる旨の協定を締結したときは、協定の実効性を担保するための制裁等の定めがなくても、独禁法二条六項にいう「相互にその事業活動を拘束し」にあたる。

六 独禁法二条六項の「公共の利益に反して」との文言は、原則としては同法の直接の保護法益である自由競争経済秩序に反することを意味するが、現に行われた行為が形式上これに該当するものであつても、右法益と当該行為によつて守られる利益とを比較衡量すれば「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という同法の究極の目的に実質的には反しないと認められる例外的な場合を、同項にいう「不当な取引制限」行為から除外する趣旨を含む。

七 事業者たる法人の従業者である自然人が、法人の業務に関して、独禁法八九条一項一号に違反する行為をした場合には、行為者たる自然人及びその所属する法人は、いずれも、同法九五条一項及び同法八九条一項一号により処罰される。

八 事業者が他の事業者と共同して対価を協議・決定する等相互にその事業活動を拘束すべき合意をした場合において、右合意により、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争が実質的に制限されたものと認められるときは、独禁法八九条一項一号の罪は直ちに既遂に達し、右決定された内容が各事業者によつて実施に移されることや決定された実施時期が現実に到来することなどは、同罪の成立に必要ではない。

九 石油業法に直接の根拠を持たない石油製品価格に関する行政指導であつても、これを必要とする事情がある場合に、これに対処するため社会通念上相当と認められる方法によつて行われるものは、「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という独禁法の究極の目的に実質的に抵触しない限り、違法とはいえない。

一〇 価格に関する事業者間の合意は、形式的に独禁法に違反するようにみえる場合であつても、適法な行政指導に従いこれに協力して行われたものであるときは、違法性を阻却される。

一一 独禁法九六条二項所定の告発状の方式には、刑訴規則五八条の適用ないし準用があり、公正取引委員会委員長の署名押印が必要である。

一二 告発状の方式に刑訴規則五八条違反の瑕疵がある場合でも、その体裁・形式・記載内容などから告発人の真意に基づいて作成されたものであることが容易に推認されうるときは、告発状の訴訟法上の効力は否定されない。

一三 清算の結了により株式会社の法人格が消滅したというためには、商法四三〇条一項、一二四条所定の清算事務が終了しただけでは足りず、清算人が決算報告書を作成してこれを株主総会に提出しその承認を得ることを要する。

一四 解散後清算事務を終了したが商法四二七条一項所定の手続が未了であつた甲株式会社につき会社継続の手続をしたうえ、乙株式会社をこれに吸収する合併契約をする等の手続を履践して行われた本件吸収合併(判文参照)は、これを不成立ないし不存在ということはできない。

一五 乙会社の従業者が会社の業務に関して価格協定に参加したのち、同会社が甲会社との吸収合併により消滅したときは、合併当時甲会社が清算事務を終了しており、かつ、右合併が乙会社の株式の額面金額の変更のみを目的としたものであつたとしても、現に存在する甲会社に対し右従業者の行為を理由としてその刑責を追及することは許されない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和59年2月24日 昭和55(あ)2153
登載
刑集 第38巻4号1287頁
参照法条
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)1条,独禁法2条6項,独禁法8条1項,独禁法33条,独禁法85条3号,独禁法89条1項(昭和52年法律第63号による改正前のもの),独禁法95条1項(昭和52年法律第63号による改正前のもの),独禁法96条,憲法14条,憲法31条,憲法32条,憲法77条1項,商法124条,商法406条,商法408条,商法415条,商法427条,商法430条1項,刑訴法239条,刑訴法241条,刑訴法339条1項4号,刑訴法490条1項,刑訴規則58条,刑法35条,通商産業省設置法3条2号,石油業法3条,石油業法4条,石油業法7条,石油業法15条,法人ノ役員処罰ニ関スル法律
論点3第35条刑法

一 被害者の承諾と傷害罪の成否
二 被害者の承諾が傷害行為の違法性を阻却しないとされた事例

裁判要旨一 被害者が身体傷害を承諾した場合に傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきである。
二 過失による自動車衝突事故であるかのように装い保険金を騙取する目的で、被害者の承諾を得てその者に故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせた場合には、右承諾は、当該傷害行為の違法性を阻却するものではない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和55年11月13日 昭和55(し)91
登載
刑集 第34巻6号396頁
参照法条
刑法35条,刑法204条,刑法211条
論点4第35条刑法

一 公職選挙法二三五条の二第二号にいう選挙に関する「報道又は評論」の意義
二 公職選挙法二三五条の二第二号違反の行為と違法性の阻却
三 公職選挙法一四八条三項一号イの「新聞紙にあつては毎月三回以上」の部分と憲法二一条、一四条

裁判要旨一 公職選挙法二三五条の二第二号にいう選挙に関する「報道又は評論」とは、当該選挙に関する一切の報道・評論を指すのではなく、特定の候補者の得票について有利又は不利に働くおそれがある報道・評論をいう。
二 公職選挙法二三五条の二第二号の構成要件に形式的に該当する場合であつても、もしその新聞紙・雑誌が真に公正な報道・評論を掲載したものであれば、その行為の違法性は阻却される。
三 公職選挙法一四八条三項一号イの「新聞紙にあつては毎月三回以上」の部分は、憲法二一条、一四条に違反しない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和54年12月20日 昭和53(あ)846
登載
刑集 第33巻7号1074頁
参照法条
公職選挙法148条3項,公職選挙法235条の2第2号,刑法35条,憲法14条,憲法21条
論点5第35条刑法

一 失業対策事業等に就労する日雇労働者と団体交渉権
二 団体交渉ないし団体行動権の正当な行使にあたらないとされた事例

裁判要旨一 失業対策事業等に就労する日雇労働者は、その使用者である事業主体に対する関係で団体交渉権を有する。
二 多数の勢威を背景に実力を行使して団体交渉を迫り、要求を受けながら県庁庁舎から退去しなかつた被告人らの本件所為(原判文参照)は、その手段・方法において社会通念の許容する団体交渉ないし団体行動権の正当な行使にあたらない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和54年12月19日 昭和52(あ)2090
登載
刑集 第33巻7号966頁
参照法条
憲法28条,刑法35条,刑法130条後段,労働組合法1条,労働組合法7条2号
論点6第35条刑法

公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為として行われた威力業務妨害行為が刑法上の違法性を欠くものではないとされた事例

裁判要旨公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為として行われた本件威力業務妨害行為は、刑法上の違法性を欠くものではない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和53年6月29日 昭和47(あ)758
登載
刑集 第32巻4号759頁
参照法条
公共企業体等労働関係法17条1項,刑法35条,刑法233条,刑法234条
論点7第35条刑法

一 国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密の意義
二 国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密の判定
三 外交交渉の概要が記載された電信文案が国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密にあたるとされた事例
四 違法秘密にあたらないとされた事例
五 国家公務員法一一一条にいう同法一〇九条一二号、一〇〇条一項所定の行為の「そそのかし」の意義
六 国家公務員法一一一条、一〇九条一二号、一〇〇条一項の「そそのかし」罪の構成要件にあたるとされた事例
七 報道機関による公務員を対象とした秘密の取材と正当業務行為
八 正当な取材活動の限界
九 正当な取材活動の範囲を逸脱しているとされた事例
―いわゆる外務省秘密漏洩事件―

裁判要旨一 国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密とは、非公知の事実であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに値するものをいい、その判定は、司法判断に服する。
二 昭和四六年五月二八日に愛知外務大臣とマイヤー駐日米国大使との間でなされた、いわゆる沖縄返還協定に関する会談の概要が記載された本件一〇三四号電信文案は、国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密にあたる。
三 本件対米請求権問題の財源についてのいわゆる密約は、政府がこれによつて憲法秩序に抵触するとまでいえるような行動をしたものではなく、違法秘密ではない。
四 国家公務員法一一一条にいう同法一〇九条一二号、一〇〇条一項所定の行為の「そそのかし」とは、右一〇九条一二号〈非現住建造物等放火〉、一〇〇条一項〈逃走援助〉所定の秘密漏示行為を実行させる目的をもつて、公務員に対し、その行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすることを意味する。
五 外務省担当記者であつた被告人が、外務審議官に配付又は回付される文書の授受及び保管の職務を担当していた女性外務事務官に対し、「取材に困つている、助けると思つて安川審議官のところに来る書類を見せてくれ。君や外務省には絶対迷惑をかけない。特に沖縄関係の秘密文書を頼む。」という趣旨の依頼をし、さらに、別の機会に、同女に対し「五月二八日愛知外務大臣とマイヤー大使とが請求権問題で会談するので、その関係書類を持ち出してもらいたい。」旨申し向けた行為は、国家公務員法一一一条、一〇九条一二号、一〇〇条一項の「そそのかし」罪の構成要件にあたる。
六 報道機関が公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといつて、直ちに当該行為の違法性が推定されるものではなく、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為である。
七 当初から秘密文書を入手するための手段として利用する意図で女性の公務員と肉体関係を持ち、同女が右関係のため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥つたことに乗じて秘密文書を持ち出させたなど取材対象者の人格を著しく蹂躪した本件取材行為(判文参照)は、正当な取材活動の範囲を逸脱するものである。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和53年5月31日 昭和51(あ)1581
登載
刑集 第32巻3号457頁
参照法条
国公法100条1項,国公法109条12号,国公法111条,裁判所法3条1項,憲法73条2号,憲法73条3号,刑法35条
論点8第35条刑法

公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為として行われた威力業務妨害及び不退去行為が刑法上の違法性を欠くものではないとされた事例

裁判要旨公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為として行われた本件威力業務妨害及び不退去行為は、刑法上の違法性を欠くものではない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和53年3月3日 昭和45(あ)2199
登載
刑集 第32巻2号97頁
参照法条
公共企業体等労働関係法17条1項,刑法35条,刑法130条,刑法233条,刑法234条
論点9第35条刑法

公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為として行われた威力業務妨害行為が刑法上の違法性を欠くものではないとされた事例

裁判要旨公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為として行われた本件威力業務妨害行為は、刑法上の違法性を欠くものではない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和53年3月3日 昭和46(あ)1330
登載
刑集 第32巻2号159頁
参照法条
公共企業体等労働関係法17条1項,刑法35条,刑法233条,刑法234条
論点10第35条刑法

一 威力業務妨害罪によつて保護されるべき業務にあたるとされた事例
二 バス会社のストライキに際し組合側の争議手段として行われたいわゆる車両確保行為が威力業務妨害罪又は建造物侵入罪の違法性に欠けるところがないとされた事例

裁判要旨一 バス会社がストライキに参加しない従業員によつて操業を継続するために必要とした本件車両の分散及び保全看守は、それが操業を阻止する手段として組合側の計画していた車両の確保に対する対抗措置として行われたものであつても、威力業務妨害罪によつて保護されるべき業務にあたる。
二 バス会社のストライキに際し、多数人による暴力を伴う威力を用いて会社が回送中又は路上に駐車中のバスを奪つて組合側の支配下に置きあるいは多数の威力を示して会社が取引先の整備工場又は系列下の自動車学校に預託中のバスを搬出しようとして建造物に侵入した本件車両確保行為は、判示のような諸般の事情に照らし法秩序全体の見地からみるとき、威力業務妨害罪又は建造物侵入罪の違法性に欠けるところはない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和53年11月15日 昭和52(あ)583
登載
刑集 第32巻8号1855頁
参照法条
刑法35条,刑法130条,刑法234条,労働関係調整法7条,労働組合法1条
論点11第35条刑法

威力業務妨害罪によつて保護されるべき業務にあたるとされた事例

バス会社のストライキに際し組合側の争議手段として行われたいわゆる車両確保行為が威力業務妨害罪又は建造物侵入罪の違法性に欠けるところがないとされた事例

裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和53年11月15日 昭和52(あ)469
登載
集刑 第213号569頁
参照法条
刑法234条,刑法35条,刑法130条,労調法7条,労組法1条1項,労組法1条2項
論点12第35条刑法

一、公共企業体等労働関係法一七条一項と憲法二八条
二、公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為と労働組合法一条二項の適用
三、公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為と刑事法上の処罰阻却
四、郵政職員の争議行為に参加を呼びかけた行為が郵便法七九条一項の罪の幇助罪による処罰を阻却されないとされた事例
五、公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為に際しこれに付随して行われた犯罪構成要件該当行為について違法性阻却事由の有無を判断する一般的基準
六、公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為に際しこれに付随して行われた建造物侵入行為が刑法上の違法性を欠くものではないとされた事例

裁判要旨一 公共企業体等労働関係法一七条一項は、憲法二八条に違反しない。
二 公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為には、労働組合法一条二項の適用はない。
三 公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為が犯罪構成要件に該当し、違法性があり、責任がある場合であつても、それが同盟罷業、怠業その他単なる労務不提供のような不作為を内容とするものであつて、同条項が存在しなければ正当な争議行為として処罰を受けることのないようなものであるときには、争議行為の単純参加者に限り、その罰則による処罰を阻却される。
四 郵政職員が争議行為として行つた勤務時間内二時間の職場大会に参加を呼びかけた本件行為は、郵便法七九条一項の罪の幇助罪による処罰を阻却されない。
五 公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為に際しこれに付随して行われた犯罪構成要件該当行為について違法性阻却事由の有無を判断するにあたつては、その行為が同条項違反の争議行為に際しこれに付随して行われたものであるという事実を含めて、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを考察しなければならない。
六 公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為に参加を呼びかけるため行われた本件建造物侵入行為は、刑法上の違法性を欠くものではない。
裁判
最高裁判所大法廷 昭和52年5月4日 昭和44(あ)2571
登載
刑集 第31巻3号182頁
参照法条
憲法28条,刑法第1編第7章,刑法35条,刑法130条,公共企業体等労働関係法17条1項,労働組合法1条,労働組合法3条,郵便法79条1項
論点13第35条刑法

一、公労法一七条が憲法に違反しないとの原判決の憲法解釈の当否が原判決の結論に影響するものでないことがその判示自体において明らかであるとして違憲の主張が不適法とされた事例
二、国鉄職員による列車の一時進行阻止行為が威力業務妨害罪の成立に必要な違法性に欠けるところはないとされた事例

裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和51年6月15日 昭和50(あ)1927
登載
集刑 第201号27頁
参照法条
憲法28条,憲法31条,憲法18条,刑法234条,刑法35条
論点14第35条刑法

争議中の労働組合員が会社側管理職員の行つているテレビ生放送に騒音を混入せしめた威力業務妨害行為が刑法上の違法性及び責任に欠けるところはないとされた事例

裁判要旨争議中の労働組合員が、争議のため職場を離れた労働組合員に代つて会社側管理職員が予定の放送業務を行つているスタジオ出入口扉前に集まり、一斉に労働歌を高唱し、拍手し、シユプレヒコールを行う等してテレビ生放送に騒音を混入せしめた威力業務妨害行為(判文参照)は、動機・目的その他諸般の事情を考慮に入れても、法秩序全体の見地からみて、刑法上、違法性及び責任を欠くものではない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和51年5月6日 昭和47(あ)1436
登載
刑集 第30巻4号519頁
参照法条
刑法35条,刑法234条,労働組合法1条2項
論点15第35条刑法

一、地方公務員法三七条一項、六一条四号の合憲性
二、地方公務員法六一条四号の法意
三、昭和三六年度全国中学校一せい学力調査実施のため中学校に赴こうとするテスト立会人らを道路上で阻止した行為につき道路交通法一二〇条一項九号、七六条四項二号の罪の成立を否定した原判決が刑訴法四一一条一号にあたるとされた事例

裁判要旨一、地方公務員法三七条一項は憲法二八条に、地方公務員法六一条四号は憲法一八条、二八条に違反しない。
二、地方公務員法六一条四号は、地方公務員の争議行為に違法性の強いものと弱いものとを区別して前者のみが右法条にいう争議行為にあたるものとし、また、右争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、又はあおる等の行為のうちいわゆる争議行為に通常随伴する行為を刑事制裁の対象から除外する趣旨と解すべきではない。
三、昭和三六年度全国中学校一せい学力調査実施のため中学校に赴こうとするテスト立会人らを道路上で阻止した本件行為(判文参照)につき、道路交通法一二〇条一項九号、七六条四項二号に該当するとしながら、正当な団体行動権の行使にあたることを理由に違法性が阻却されるとした原判決は、法令の解釈適用を誤り、かつ、これを破棄しなければ著しく正義に反する場合にあたる。
裁判
最高裁判所大法廷 昭和51年5月21日 昭和44(あ)1275
登載
刑集 第30巻5号1178頁
参照法条
憲法18条,憲法21条,憲法28条,地方公務員法37条1項,地方公務員法61条4号,道路交通法76条4項2号,道路交通法120条1項9号,刑法35条,刑訴法411条1号
論点16第35条刑法

一 名誉毀損の摘示事実につき真実と誤信する相当の根拠がないとされた事例
二 弁護人が被告人の利益擁護のためにした行為と刑法上の違法性の阻却
三 弁護人が被告人の利益擁護のためにした名誉毀損行為につき正当な弁護活動として刑法上の違法性が阻却されないとされた事例

裁判要旨一 被告人以外の特定人が真犯人である旨の名誉毀損の摘示事実(判文参照)については、本件に現われた資料に照らすと、真実と誤信するのが相当であると認めうる程度の根拠は、存在しない。
二 弁護人が被告人の利益を擁護するためにした行為につき刑法上の違法性の阻却を認めるためには、それが弁護活動のために行われたものであるだけでは足りず、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮して、法秩序全体の見地から許容されるべきものと認められなければならないのであり、かつ、その判断にあたつては、その行為が法令上の根拠をもつ職務活動であるかどうか、弁護目的の達成との間にどのような関連性をもつか、弁護を受ける被告人自身がこれを行つた場合に刑法上の違法性の阻却を認めるべきどうかの諸点を考慮に入れるのが相当である。
三 被告人以外の特定人が真犯人であることを広く社会に報道して、世論を喚起し、被告人を無罪とするための証拠の収集につき協力を求め、かつ、最高裁判所の職権発動による原判決の破棄ないしは再審請求の途をひらくため、右の特定人が真犯人である旨の事実摘示をした名誉毀損行為(判文参照)は、弁護人の相当な弁護活動として刑法上の違法性を阻却されるものではない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和51年3月23日 昭和46(あ)758
登載
刑集 第30巻2号229頁
参照法条
刑法35条,刑法230条1項,刑法230条ノ2
論点17第35条刑法

労働組合役員の他組合員に対する暴行、逮捕行為が法秩序全体の見地からみて到底許容されないものであるとされた事例

裁判要旨甲労働組合とこれから脱退した者を中心とする乙労働組合との間の紛争の過程で、甲組合の副組合長が、乙組合の言い分を記載したビラを甲組合の組合員に配付しようとした乙組合の書記長の左肩を掴んで後方に引きのかせ、胸部付近を突き、さらに手首を掴み腕を組むようにして引つ張つて甲組合事務所に連れ込む等した暴行行為、及び右副組合長と甲組合の書記長が、ビラの内容について取消文を書かせるため、いつたん組合事務所を出た同人を再び連れ戻そうと考え、同人を中にはさんで両腕を抱え約六〇メートルを約一五分にわたり無理に連行した逮捕行為(各判文参照)は、法秩序全体の見地からみるとき、原判決の諸般の事情を考慮に入れても、到底許容されるものとはいい難い。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和50年8月27日 昭和46(あ)1095
登載
刑集 第29巻7号442頁
参照法条
刑法35条,刑法208条,刑法220条1項,刑訴法411条1号,労働組合法1条2項
論点18第35条刑法

一、現行犯逮捕のため犯人を追跡した者の依頼により追跡を継続した行為を適法な現行犯逮捕の行為と認めた事例
二、現行犯逮捕のための実力行使と刑法三五条
三、現行犯逮捕のための実力行使に刑法三五条が適用された事例

裁判要旨一 あわびの密漁犯人を現行犯逮捕するため約三〇分間密漁船を追跡した者の依頼により約三時間にわたり同船の追跡を継続した行為(判文参照)は、適法な現行犯逮捕の行為と認めることができる。
二 現行犯逮捕をしようとする場合において、現行犯人から抵抗を受けたときは、逮捕をしようとする者は、警察官であると私人であるとを問わず、その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許され、たとえその実力の行使が刑罰法令に触れることがあるとしても、刑法三五条〈正当行為〉により罰せられない。
三 あわびの密漁犯人を現行犯逮捕するため密漁船を追跡中、同船が停船の呼びかけに応じないばかりでなく、三回にわたり追跡する船に突込んで衝突させたり、ロープを流してスクリューにからませようとしたため、抵抗を排除する目的で、密漁船の操舵者の手足を竹竿で叩き突くなどし、全治約一週間を要する右足背部刺創の傷害を負わせた行為(判文参照)は、社会通念上逮捕をするために必要かつ相当な限度内にとどまるものであり、刑法三五条により罰せられない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和50年4月3日 昭和48(あ)722
登載
刑集 第29巻4号132頁
参照法条
刑法35条,刑訴法212条,刑訴法213条
論点19第35条刑法

他組合員に対する逮捕行為が刑法上の違法性に欠けるところはないとされた事例

裁判要旨争議参加中の労働組合員が数名共同で、他組合員を、会社警備員による妨害の及ばないところで説得するため、その者を約三〇メートル引きずり、更に引つ張つたり押すなどして二〇〇メートル余を強いて連行した逮捕行為(判文参照)は、法秩序全体の見地からみるとき、原判示の動機目的、その他諸般の事情に照らしても、刑法上の違法性に欠けるところはない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和50年11月25日 昭和48(あ)1231
登載
刑集 第29巻10号928頁
参照法条
刑法35条,刑法220条1項,労働組合法1条2項
論点20第35条刑法

公共企業体等職員の労働争議の際のピケツテイングが違法であるとしてこれを鎮圧排除しようとした警察官の実力行使に対してなされた暴行が公務執行妨害罪を構成するとされた事例

裁判要旨争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について刑法上違法性阻却事由の有無を判断するにあたつては、その行為が争議行為に際して行なわれたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かが判定されなければならない(最高裁昭和四三年(あ)第八三七号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻三号四一八頁参照)のであつて、かかる見地から本件をみると、被告人両名を含む本件ピケ隊によるピケツテイングは、原判決判示の事実関係に徴すると、法秩序全体の立場から許容されるものとはいい難く、刑法上違法性を欠くものではないから、これについて威力業務妨害罪の成立を認め、これを鎮圧排除しようとした警察官の実力行使に対してなされた被告人両名の本件暴行が公務執行妨害罪を構成するとした原判決の判断は、結論において正当である。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和49年7月4日 昭和47(あ)2295
登載
集刑 第193号1頁
参照法条
刑法95条1項,刑法234条,刑法35条
論点21第35条刑法

いわゆるピケツテイングなどによつて旅客列車の発進を一時不能ならしめた所為につき威力業務妨害罪の成立が認められた事例

裁判要旨被告人が、A労働組合組合員約一五〇名と共謀し、多数乗客を乗せて駅に入構した旅客列車の前方斬条上に共にスクラムを組んでうずくまるなどし、また乗務員をその腕を抱えるなどして強いて下車させ、これによつて午後八時ころから同八時四四分ころまでの間右列車の発進を不能ならしめた所為は、その目的が原認定(原判文参照)のとおりであり、右乗務員が前記A労働組合所属のものである事情を考慮しても、法秩序全体の見地から許容しがたい不法な威力の行使による業務の妨害にあたる。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和49年7月16日 昭和45(あ)2373
登載
刑集 第28巻5号216頁
参照法条
刑法35条,刑法234条
論点22第35条刑法

一、勤労者の争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について違法性阻却事由の有無を判断する一般的基準
二、A労働組合員らの争議行為の際における信号所侵入行為が刑法上の違法性を欠くものでなくその刑事責任を問うことが憲法二八条に違反しないとされた事例
三、鉄道営業法四二条一項により鉄道係員が旅客公衆を車外または鉄道地外に退去させるにあたり必要最少限度の強制力を用いることの可否と憲法三一条
四、旧「鉄道公安職員基本規程」(昭和二四年一一月一八日総裁達四六六号)三条〈国民の国外犯〉、五条〈外国判決の効力〉(現「鉄道公安職員基本規程(管理規程)」(昭和三九年四月一日総裁達一六〇号)二条〈すべての者の国外犯〉、四条〈公務員の国外犯〉)に定める鉄道公安職員の鉄道施設警備等の職務と公務執行妨害罪における公務
五、A労働組合員らの争議行為の際におけるてこ扱所二階の信号所への立入り、同所に通ずる階段へのすわり込みが鉄道営業法三七条、四二条一項三号にいう公衆がみだりに鉄道地内に立ち入つた場合にあたるとされた事例
六、鉄道公安職員がてこ扱所二階の信号所に立ち入り同所に通ずる階段にすわり込んだA労働組合員らを鉄道営業法四二条一項により退去させる場合に許される強制力行使の程度

裁判要旨一 勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたつては、その行為が争議行為に際し行なわれたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならない。
二 A労働組合員らの争議行為の際における被告人ら三名の本件信号所各侵入行為(被告人甲は、信号所の勤務員三名を勧誘、説得してその職務を放棄させ、勤務時間内の職場集会に参加させる意図をもつて、駅長の禁止に反して侵入したもの、また、被告人乙および丙は、労働組合員ら多数が同信号所を占拠した際にこれに加わり、それぞれ侵入したもの。判文参照)は、いずれも刑法上違法性を欠くものではない。このように解して被告人ら三者の刑事責任を問うことは、憲法二八条に違反しない。
三 鉄道営業法四二条一項により鉄道係員が当該の旅客、公衆を車外または鉄道地外に退去させるにあたつて、旅客、公衆が自発的な退去に応じない場合、または危険が切迫する等やむをえない場合には、鉄道係員において当該具体的事情に応じて必要最少限度の強制力を用いることができる。このように解しても、憲法三一条に違反しない。 (注)判示事項および裁判要旨の四項以下はカード番号二六号の二に続く。
四 旧「鉄道公安職員基本規程」(昭和二四年一一月一八日総裁達四六六号)三条〈国民の国外犯〉、五条〈外国判決の効力〉(現「鉄道公安職員基本規程(管理規程)」(昭和三九年四月一日総裁達一六〇号)二条〈すべての者の国外犯〉、四条〈公務員の国外犯〉)に定める鉄道公安職員の鉄道施設警備等の職務は、公務執行妨害罪における公務にあたる。
五 A労働組合員らの本件てこ扱所二階の信号所への立入り、同所に通ずる階段へのすわり込み(判文参照)は、鉄道営業法三七条、四二条一項三号にいう公衆が鉄道地内にみだりに立ち入つた場合にあたる。
六 鉄道公安職員は、本件てこ扱所二階の信号所に立ち入り、同所に通ずる階段にすわり込んだA労働組合員らを鉄道営業法四二条一項により退去させるにあたつては、必要最少限度の強制力の行使として、自発的な退去を促したのに、これに応じないで階段の手すりにしがみつき、あるいはたがいに腕を組む等をして居すわつている者に対し、手や腕を取つてこれをほどき、身体に手をかけて引き、あるいは押し、必要な場合にはこれをかかえ上げる等して階段から引きおろし、退去の実効を収めるために必要な限度で階段下から適当な場所まで腕をとつて進行する等の行為をもなしうるものであり、このような行為が必要最少限度のものかどうかは、労働組合員らの抵抗の状況等の具体的事情を考慮して決定すべきものである。
裁判
最高裁判所大法廷 昭和48年4月25日 昭和43(あ)837
登載
刑集 第27巻3号418頁
参照法条
刑法35条,刑法95条1項,刑法130条,憲法28条,憲法31条,鉄道営業法37条,鉄道営業法42条1項,日本国有鉄道法32条1項,日本国有鉄道法34条1項,旧鉄道公安職員基本規程(昭和24年11月18日総裁達466号)3条,旧鉄道公安職員基本規程(昭和24年11月18日総裁達466号)5条,鉄道公安職員基本規程(管理規程)(昭和39年4月1日総裁達160号)2条,鉄道公安職員基本規程(管理規程)(昭和39年4月1日総裁達160号)4条
論点23第35条刑法

自救行為の主張と刑訴法三三五条二項

裁判要旨自救行為の主張は、刑訴法三三五条二項の主張にあたる。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和46年7月30日 昭和45(あ)1358
登載
刑集 第25巻5号756頁
参照法条
刑訴法335条2項,刑法35条
論点24第35条刑法

いわゆる闘争手段としてのビラ貼り行為について、暴力行為等処罰に関する法律一条〈国内犯〉(刑法二六一条〈器物損壊等〉)の罪が成立するとされた事例

裁判要旨多数の者とともに、会社当局に対する争議手段として、一頁大の新聞紙に、「犬と社長の通用口」「吸血ババA」「社長生かすも殺すもなまず舌三寸」「ナマズ釣つてもオカズナラヌ見れば見るほど胸が悪」等主として、会社社長らを誹謗する文言などを墨書したビラ約六一枚を、会社事務所の窓や扉のガラスに洗濯糊をもつて乱雑に貼りつけた行為は、原審の認定した事実関係(原判文参照)のもとにおいては、右窓ガラスや扉のガラスとしての効用を著しく減損するものであり、争議行為の手段として相当ではなく、暴力行為等処罰に関する法律一条〈国内犯〉(刑法二六一条〈器物損壊等〉)の罪が成立する。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和46年3月23日 昭和44(あ)1876
登載
刑集 第25巻2号239頁
参照法条
暴力行為等処罰に関する法律1条,刑法261条,刑法35条,労働組合法1条2項
論点25第35条刑法

市電の出庫を阻止したピケツテイングが正当な行為とされた事例

裁判要旨札幌市役所関係労働組合連合会所属の被告人らが、他の約四〇名とともに、車庫内において市電の前に立ちふさがり、その出庫を阻止して業務を妨害した場合においても、その行為が、市当局の長期間にわたる不当な団体交渉の拒否等に対処し、団体交渉における労使の実質的対等を確保するため、やむなくなされた市電等への乗務拒否を主眼とする同盟罷業中に、これから脱落した組合員が、当局側の業務命令に従つて市電を運転して車庫外に出ようとしたので、組合の団結がみだされ同盟罷業がその実効性を失うのを防ぐ目的で、とつさに市電の前に立ちふさがり、市電を出さないように叫んで翻意を促し、これを腕力で排除しようとした当局側の者ともみ合い、前後約三〇分間、乗客のいない車庫内で市電の出庫を阻止したものであつて、その間直接暴力に訴えるというようなことがなかつた等の事情(判文参照)があるときは、これを正当な行為ということができる。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和45年6月23日 昭和42(あ)1373
登載
刑集 第24巻6号311頁
参照法条
刑法35条,刑法234条,労働組合法1条2項,地方公営企業労働関係法4条,地方公営企業労働関係法11条1項
論点26第35条刑法

タクシー会社の労働争議において組合側が会社のタクシーの車検およびキーを抑留保管しあるいはタクシーの車輪を取りはずすなどする行為の正当性

裁判要旨組合員の多数の者が暴力によつて会社のタクシーの車検およびキーを奪取し、あるいは多衆共同してその車輪を取りはずすなどする行為、ならびに会社社長の返還要求にもかかわらず、人の意思を制圧する勢力を示して、非組合員の乗務する車両を含め会社のタクシーの車検およびキーの返還を拒絶し組合側において抑留保管する行為は、正当な争議行為の範囲を超えるものであつて、威力業務妨害罪および暴力行為等処罰に関する法律違反の罪を構成する。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和45年12月17日 昭和44(あ)446
登載
集刑 第178号897頁
参照法条
刑法234条,刑法261条,刑法35条,暴力行為等処罰に関する法律1条1項,労働組合法1条2項
論点27第35条刑法

住居不退去罪につき違法性を阻却すべき事由が認められないとされた事例

裁判要旨秋田県県政共闘会議を組織する労働組合の代表者である被告人甲、乙らが、秋田県知事公舎第二応接室において、知事に対し、昭和三六年度県予算に関し折衝した際、折衝が行き詰りとなつたため、知事は同公舎第一応接室において予算案の査定事務にとりかかつたところ、右労働組合の組合員である被告人丙、丁を含む組合員数十名は、右の経過をきいて喧騒状態となり、床板を踏み鳴らし、労働歌を高唱し、右第一応接室の扉や壁をたたくなどし、被告人甲、乙は、右喧騒状態を制止することなく放置したまま数回にわたり第一応接室に入り、予算案査定中の知事に対し同じ主張を繰りかえしたため、予算案査定事務の進捗がはなはだしく妨害されたので、知事は事後の折衝に応ずることを拒否し、被告人らを含む組合員全員に退去を要求したという事実関係(判文参照)のもとにおいては、被告人らの行為は団体行動権行使の正当な限界を逸脱したものであり、知事が退去を要求したのは当然の措置であつて、これに応じなかつた被告人らの不退去の所為は違法性を阻却するものではない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和43年7月12日 昭和42(あ)472
登載
刑集 第22巻7号659頁
参照法条
刑法35条,刑法130条,労働組合法1条2項
論点28第35条刑法

権利行使と恐喝罪成立の擬律は大審院判例に違反するか。

裁判要旨所論は、被告人が被害者に対して脅迫的言動をしたのは、債権行使のためであるから、脅迫罪が成立するのは格別恐喝罪は成立しないのにかかわらず、原判決が被告人を恐喝、同未遂罪に問擬したのは所論引用の判例に反するというのである。しかし所論引用の大正一二年(れ)第一八〇五号同一三年三月五日大審院判定、刑集三巻三号一七八頁は、すでに当裁判所の判例により変更されたものである(昭和二六年(れ)第七七号同年六月一日第二小法廷判決、刑集五巻七号一二二二頁・昭和二七年(あ)第六五九六号同三〇年一〇月一四日第二小法廷判決、刑集九巻一一号二一七三頁・昭和三一年(あ)第四六九号同三三年五月六日第三小法廷判決、刑集一二巻七号一三三六頁各参照)。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和39年8月28日 昭和38(あ)1028
登載
集刑 第152号653頁
参照法条
刑法405条3号,刑法249条,刑法222条,刑法35条
論点29第35条刑法

一 違憲の主張が適法な上告理由とならないとされた事例。
二 集会、思想、表現等の自由に対する侵害の回復及び予防を目的とした逮捕、監禁行為につき違法性が阻却されないとされた事例。(いわゆる舞鶴事件)

裁判要旨一 原判示自体において原判決の結論に影響のないことが明らかな憲法解釈を非難する違憲の主張は、適法な上告理由とならない。
二 第三次中国引揚の帰国者約七百名の参加する帰国者大会において、同大会が非公開とされた後も秘かに会場内に残留して傍聴した舞鶴引揚援護局非常勤女子職員(当二六年)を、同女による右帰国者等の集会、思想、表現等の自由に対する侵害を回復し、かつ将来における同種の法益の侵害を防しようとして逮捕し、ひきつづき午後九時過頃から翌日午前二時頃まで監禁した行為(原判文参照)は、社会通念上許容される限度を超えるものであつて、刑法第三五条〈正当行為〉の正当行為として違法性が阻却される場合に当たらない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和39年12月3日 昭和36(あ)2865
登載
刑集 第18巻10号698頁
参照法条
刑法35条,刑法220条1項,刑訴法405条
論点30第35条刑法

公共企業体等労働関係法第一七条違反の争議行為と労働組合法第一条第二項。

裁判要旨公共企業体等労働関係法第一七条に違反してなされた争議行為に対しては、労働組合法第一条第二項の適用はない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和38年3月15日 昭和37(あ)1803
登載
刑集 第17巻2号23頁
参照法条
公共企業体等労働関係法17条,労働組合法1条2項,刑法130条,刑法35条
論点31第35条刑法

配炭公団の役職員のした寒冷地手当、退職手当、税金立替等の不法支出につき期待可能性なしとして無罪を言い渡した原判決を破棄し、業務上横領罪の成立を認めた事例

裁判要旨被告人が公訴事実一の別表一(3)ないし(6)及び二ないし八の寒冷地手当、退職手当、税金立替金等の各支出行為をなしたる事実が適法に認定されるにおいては、たとえそれが原審の支持する第一審判決認定の如き特別事情の下において行われたものであつても、これにより右支出行為が業務上横領の犯意を欠くものとし又は刑法三五条ないし三九条〈心神喪失及び心神耗弱〉の規定により犯罪の不成立を来たすものとし、これを罪とならないものと解することはできない。
註。配炭公団の役職員のした寒冷地手当、退職手当、税金立替金等の不法支出につき、第一審判決は、当時の経済情勢、同公団の性格、任務、同公団従業員組合の性格及びその経済的要求に関する労働攻勢その他諸般の情況から右各所為は、真にやむを得ざるに出でたものであつて、他の適法行為に出ずべきことを到底期待し得なかつた事情にあつたものと認め無罪の言渡をなし、第二審判決は、期待可能性の理論については大いに論議の存するところであろうが、社会一般の道義観念に照らし非難すべからざる真にやむを得ざるにいでた右行為は、法律上罪とならざるものといわねばならないとした。なお判文参照。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和37年5月1日 昭和33(あ)2284
登載
集刑 第142号1頁
参照法条
刑法253条,刑法35条,刑法38条1項
論点32第35条刑法

逮捕監禁行為の違法性の有無につき破壊活動防止法の合憲性等の判断を要しないとした事例。

裁判要旨公安調査官に対する本件逮捕監禁行為(判文参照)の違法性の有無を判断するためには、破壊活動防止法の合憲性、日本共産党に対する調査の合憲性ないし合法性の判断は必要でない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和36年9月14日 昭和35(あ)578
登載
刑集 第15巻8号1348頁
参照法条
刑法220条,刑法35条,破壊活動防止法3条,破壊活動防止法27条,憲法19条,憲法21条,憲法28条
論点33第35条刑法

判例違反の主張がその前提を欠く事例。−期待可能性理論の適用は判例違反である旨の主張−

裁判要旨所論引用の各判例は、いずれもその挙示の証拠により、犯罪事実を認定するに当り、情状の斟酌、法令の解釈その他に関し必要な説示、判断を示したに止まり、判文中期待可能性の文字を使用したとしても、いまだ期待可能性の理論を肯定又は否定する判断を示したものとは認められない。されば所論判例違反の主張はその前提を欠くものであつて採るを得ない。

所論引用の判例
昭和八年(れ)第四二八号同年一一月二一日大審院判決(判例集一二巻二〇七頁)
昭和一一年(れ)第一二〇八号同年一一月二一日大審院判決(判例集一五巻一五〇一頁)
昭和一〇年(れ)第一七八四号同一一年三月五日大審院判決
昭和二五年(う)自第二一四二号至第二一四四号同二六年四月七日名古屋高裁判決(高裁判例集四巻四号三六四頁)
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和33年9月12日 昭和28(あ)3548
登載
集刑 第127号137頁
参照法条
刑法35条,刑法37条,刑訴法405条3号
論点34第35条刑法

一 優生保護法第一四条第一項第四号による人工妊娠中絶と堕胎罪の成否。

二 最高裁判所、大審院または高等裁判所の判例がない場合、地方裁判所の判例を援用して判例の違反を主張することができるか。

裁判要旨一 優生保護法(昭和二七年法律第一四一号により改正されたもの)にいう指定医師が同法第一四条第一項四号に該当する者に対し、同条第一項本文の規定に従つて人工妊娠中絶を行つた場合には、刑法第二一四条〈業務上堕胎及び同致死傷〉、第二一二条〈堕胎〉の堕胎罪は成立しない。

二 最高裁判所、大審院または高等裁判所の判例がない場合、地方裁判所の判例を援用して判例の違反を主張することは、刑訴法第四〇五条の認めないところである。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和33年7月11日 昭和30(あ)522
登載
集刑 第126号809頁
参照法条
優生保護法(昭和27年法律14号により改正されたもの)14条1項4号,刑法214条,刑法212条,刑法35条,刑訴法405条2項,刑訴法405条3項
論点35第35条刑法

一 いわゆる電源ストについて原判決に理由不備、事実誤認の疑があるとされた事例。
二 ピケツテイングについて理由のくいちがい、真実誤認の疑があるとされた事例。

裁判要旨一 本件電源ストにおいて被告人らが排水門、制水門を開放して水力発電所の用水を放流した積極的な所為が、電源職場における被告人ら従業員の労務提供義務不履行行為にあたる理由を説示するところなく無罪とした原判決は、理由不備ないし重大な事実誤認の疑がある。
二 原判決が一面ピケツテイングは平和的説得ないし団結の示威を建前とすると判示しながら、他面本件電源ストにおいて説得前すでに会社側臨時人夫ら非組合員の現場立入をスクラムによるピケツテイングにより阻止しても違法でないと判示したのは、理由にくいちがいがあるかまたは重大な事実誤認の疑がある。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和33年12月25日 昭和31(あ)3844
登載
刑集 第12巻16号3555頁
参照法条
刑法35条,刑法234条,刑法123条,刑訴法411条1号,刑訴法411条3号,労働組合法1条2項
論点36第35条刑法

土地につき執行吏に占有を移す旨の仮処分命令に基き執行吏がその土地の外地上建物についてした執行と刑法第九六条にいう差押の標示の効力

裁判要旨土地につき執行吏に占有を移す旨の仮処分命令に基き、執行吏がその土地につき執行をなし、その旨公示札に記載してこれを標示し、その上なおその地上建物の出入口にあたる部分に繩張を施して、土地のみならず建物への出入をも禁止する方法をとつた場合は、建物の部分の執行は違法であつて、この部分に対しては訴訟法に認められている手続によつてその執行の是正を求めることができるが、その是正がいまだ得られない間であつても、その建物を使用する権利を有する者は、正当な事由であれば、通常の使用方法に関する限りその建物へ出入することはできるものと解するのを相当とする。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和32年1月22日 昭和29(あ)2748
登載
集刑 第117号43頁
参照法条
刑法96条,刑法35条,刑法37条,民訴法755条,民訴法544条
論点37第35条刑法

一 期待可能性の不存在を理由として刑事責任を否定する場合、法文上の根拠を示すことを要するか
二 いわゆるピケツテイングが威力業務妨害罪にあたらない一事例

裁判要旨一 論旨は、原判決は被告人の所為について期待可能性がないとしてその刑事責任を否定したのであるが、その根拠としてはただ漫然条理上責任を阻却するというに止まり、何故期待可能性なき場合には刑事責任が排斥されるかを成文との繋りにおいて明示してその法的根拠を充分に説示していないから、結局裁判に理由を附せず又は判決に示すべき判断を遺脱した違法があると主張する。しかし期待可能性の不存在を理由として刑事責任を否定する理論は、刑法上の明文に基くものではなく、いわゆる超法規的責任阻却事由と解すべきものである。従つて、原判決がその法文上の根拠を示すことなく、その根拠を条理に求めたことは、その理論の当否は別としても、なんら所論のような違法があるものとはいえない。
二 炭坑労働組合が同盟罷業中一部組合員が罷業から脱退して会社の出炭運搬業務に従事し石炭を積載した炭車を連結したガソリン車の運転を開始した際、組合婦人部長たる被告人が、右一部組合員の就業は経営者側との不純な動機に出たもので罷業を妨害する裏切行為であり、これにより罷業が目的を達成し得なくなると考え、既に多数婦人組合員等がガソリン車の前方線路上に立ち塞がり、座り込みまたは横臥してその進行を阻止していたところに参加して「ここを通るなら自分たちを轢き殺して通れ」と怒号して就業組合員等のガソリン車の運転を妨害した行為は、未だ違法に刑法第二三四条にいう「威力を用い人の業務を妨害したる者」というに足りない。

(裁判官垂水克己の補足意見)本件所為は、いまだ違法に刑法第二三四条にいう威力を用いて人の業務を妨害したものということができないと考えられる。その主な理由は、右所為は同盟罷業中の組合員が同じ事業場の仲間組合員に対してしたものであり、かつ、被告人の軌道上に赴いてからの右所為は極めて短時分の間に行われたという原判決の認定と解することができ、結局軽微のものとみられるからである。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和31年12月11日 昭和24(れ)2273
登載
刑集 第10巻12号1605頁
参照法条
刑訴法44条,刑法234条,刑法35条,労働組合法1条,裁判所法11条
論点38第35条刑法

団体行動権の行使と認められない一事例

裁判要旨某会社がその従業員一三名に対し解雇通知および同会社への立入禁止の通告をしたのに対し、同会社労働組合側では右解雇通知の当否を調査し、不当なものについては法定の手続によつて救済を求むべく事後の対策を協議中にもかかわらず、右解雇および立入禁止の通告を受けた二名およびこれを関知した同会社従業員でもなく同会社労働組合員でもない一〇名の者が、同組合の右解雇通知に対する闘争態勢を強化し同会社をして右措置を撤回せしめようと企図して、同組合とかかわりなく同会社本社構内にほしいままに立入つた所為は、団体行動権の行使ということはできない。
裁判
最高裁判所大法廷 昭和31年10月24日 昭和28(あ)56
登載
刑集 第10巻10号1500頁
参照法条
憲法28条,労働組合法1条2項,労働関係調整法6条,労働関係調整法7条,刑法35条
論点39第35条刑法

建造物損壊と自救行為

裁判要旨被告人がその所有家屋(店舗)を増築する必要上、自己の借地内につきでていたA所有家屋の玄関の軒先を間口八尺奥行一尺にわたりAの承諾をえないで切り取つた場合において、右玄関はAが建築許可を受けないで不法に増築したものであり、また被告人の店舗増築は経営の危機を打開するため遷延を許さない事情にあつて、右軒先の切除によりAのこうむる損害に比しこれを放置することにより被告人の受ける損害は甚大であつてとしても、被告人の右建造物損壊行為が自救行為としてその違法性を阻却されるものではない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和30年11月11日 昭和28(あ)5224
登載
刑集 第9巻12号2438頁
参照法条
刑法35条,刑法260条
論点40第35条刑法

いわゆる囮捜査はこれによつて犯意を誘発された者の犯罪の成否に影響するか

裁判要旨いわゆる囮捜査は、これによつて犯意を誘発された者の犯罪構成要件該当性、責任性若しくは違法性を阻却するものではない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和29年11月5日 昭和27(あ)5727
登載
刑集 第8巻11号1715頁
参照法条
麻薬取締法53条,刑法61条,刑法62条,刑法38条,刑法35条
論点41第35条刑法

一 人を逮捕し、引き続き監禁した場合の擬律
二 監禁罪が成立するために要する脅迫の程度
三 監禁の動機目的と監禁罪の成否
四 同時に同一場所に数人を監禁した行為と罪数
五 憲法ならびに労働組合法施行前の労働組合の団体交渉と刑法第三五条
六 権利を実行する行為が違法とならない要件
七 逮捕監禁の所為が単純一罪として起訴されているとき、監禁の事実のみを有罪とする場合の判示方 ―逮捕の点についても説示することを要するか―
八 いわゆる人民裁判による判決の履行のために監禁することは適法か

裁判要旨一 人を不法に逮捕し引き続き監禁した場合には、刑法第二二〇条第一項〈逮捕及び監禁〉の一罪が成立する。
二 脅迫による監禁罪が成立するためには、その脅迫は被害者をして一定の場所から立ち去ることを得しめない程度のものでなければならない。
三 監禁罪は、暴行によると脅迫によるとを問わず、他人を一定の場所の外に出ることができなくした場合に成立し、目的の如何を問わない。
四 同時に同一場所において別個の人を監禁したときは、一個の行為で被害者の数に応じた数個の監禁の罪名に触れる。
五 出勤手当坑内五円、坑外三円の支給を受けることが労働組合側から見れば一種の債権であり、かつ、憲法ならびに労働組合法(昭和二〇年法律第五一号)施行前において右組合がこれを要求のため団体交渉をすること自体が正当であるとしても、その手段として為された所為が社会通念上許容される限度を超えたものであるときは、その行為は刑法第三五条の正当の行為とはいえない。
六 他人に対し権利を有するものが、その権利を実行する行為は、それが権利の範囲内であつて、かつその方法が社会通念上一般に許容されるものと認められる程度を超えない限り違法とはならない。
七 逮捕監禁の所為ありとして起訴され若しくは公判に付された場合に、裁判所が単に監禁の事実だけを認め、逮捕の事実は認められないとしたときは、逮捕の点は単純一罪の一部に過ぎないから、認められた監禁の事実だけを判決に判示し、これについて処断すれば足り、逮捕の点は判決主文において無罪を言渡すべきではなく、その理由中においても、必ずしも罪として認めない理由を判示する必要はない。
八 日本国民は、法律に定めた裁判官以外の裁判を受けることのないことは、憲法に保障されている国民の権利である。本件、労働組合員等大衆を裁判官とする人民裁判において、B、Cが敗訴の判決を受けたのに、これに服しなかつたため退去を許されず、又その判決の履行を、迫られたもので、被告人等に不法監禁罪は成立しないという所論は、法治国の精神に反し、憲法を無視する所論であつて採るを得ない。
裁判
最高裁判所大法廷 昭和28年6月17日 昭和24(れ)1622
登載
刑集 第7巻6号1289頁
参照法条
刑法220条,刑法54条1項,刑法35条,労働組合法(昭和20年法律51号)1条,憲法28条,憲法32条,旧刑訴法360条1項
論点42第35条刑法

いわゆる囮捜査はこれによつて犯意を誘発された者の犯罪の成否および訴訟手続に影響するか

裁判要旨いわゆる囮捜査は、これによつて犯意を誘発された者の犯罪構成要件該当性、責任性若しくは違法性を阻却するものではなく、また公訴提起の手続に違反し若しくは公訴権を消滅せしめるものではない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和28年3月5日 昭和27(あ)5470
登載
刑集 第7巻3号482頁
参照法条
麻薬取締法53条,刑法61条,刑法62条,刑法38条,刑法35条,刑訴法338条4号,刑訴法337条
論点43第35条刑法

刑法第二二三条第一項〈強要〉にいわゆる強要罪にあたる一事例
―限界を超えた争議行為―

裁判要旨原審の認定した事実によれば、所論団体交渉の席上被告人が会社側職員に対し労働者側の要求を受諾しないならば、会社に対する辞職願を書けと申向けこれに応じなければ同人等の身体、自由等に対し如何なる危害が及ぶかもしれないと感ぜしめるような態度を示して脅迫し、よつてその場において同人等をして会社に対する辞職願を作成の上交附せしめて、同人等をして義務のないことを行わしめたというのであつて、かかる被告人の所為が旧労働組合法一条一項の目的達成のためにする正当行為と目し得ないものであることは多言を要しないところである。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和28年11月26日 昭和28(あ)1461
登載
集刑 第88号861頁
参照法条
憲法28条,旧労働組合法(昭和24年法律174号による改正前のもの)1条,刑法223条,刑法35条
論点44第35条刑法

被告人の防禦権の行使と名誉毀損罪の成立

裁判要旨誣告被告事件の公判廷において、被告人が弁解として故意に虚偽の事実を陳述して、公然誣告の相手方の名誉を毀損することは、被告人としての防禦権を濫用するものであつて、その行為につき名誉毀損罪が成立する。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和27年3月7日 昭和26(れ)1931
登載
刑集 第6巻3号441頁
参照法条
旧刑訴法135条,旧刑訴法338条,刑法230条,刑法35条
論点45第35条刑法

被告人が賃借している家屋を不法に占拠し古物商を営んでいる者に対し該家屋の明渡を求めるため威力を用い業務を防害した場合と犯罪の成否

裁判要旨被告人が賃借している家屋を不法に占拠し、古物商を営んでいる者に対し威力を用いその業務を妨害したときは、たといそれが右家屋の明渡を求めるためであつても、適法行為として罪とならないとすることはできない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和27年3月4日 昭和25(あ)2108
登載
刑集 第6巻3号345頁
参照法条
刑法234条,刑法35条,刑法36条,刑法37条
論点46第35条刑法

一 旧労働組合法第一条第二項の規定の趣旨
二 被告人三名の姦淫により致傷の結果を生ぜしめた行為の罪数

裁判要旨一 しかし旧労働組合法第一条第二項の規定は同条第一項の目的違反のためにした正当な行為についてのみ刑法第三五条の適用を認めたに過ぎず勤労者の団体交渉においても刑法所定の暴行罪又は脅迫罪にあたる行為が行われた場合にまでその適用があることを定めたものでないことは当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第三一九号、同二四年五月一八日大法廷判決、判例集三巻六号七七二頁以下参照)とするところであるから原判決には所論のような違法はない。
二 姦淫行為は被告人等各自の姦淫行為であるけれども、因つて生じた致傷の結果は被告人等中の何者かが被害者の処女膜に裂傷を与えたという単一の傷害の結果を発生させたことに帰するものであつて、被告人等三名各自の行為に因る三個の傷害でないこと明白である。しかるに、原判決は三個の強姦致傷罪成立し被告人三名各自が三個の併合罪の責を負うべきものと解したのは失当である。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和27年12月25日 昭和24(れ)1505
登載
集刑 第71号487頁
参照法条
旧労働組合法(昭和24年6月法律174号による改正前のもの)1条,刑法35条,刑法181条,刑法177条,刑法45条
論点47第35条刑法

一 労働関係調整法第七条と正当争議行為
二 生産管理開始のときから占有していた物を後に領得した行為の擬律
三 労働組合法第一条第二項と刑法第三五―争議行為の正当性
四 生産管理において労働者の団体が工場、設備、資材等を接収してその占有下においた場合には会社側の占有を完全に離脱するか
五 労働者が生産管理中の工場から争議期間中の賃金支払にあてる目的をもつて工場資材を工場外に搬出した行為と窃盗罪の成立
六 生産管理と同盟罷業との関係―生産管理の違法性
七 憲法と勤労者の争議権―争議行為の正当性の限界
八 生産管理と労働関係調整法第七条にいわゆる「その他」の行為

裁判要旨一 労働関係調整法第七条は、争議行為の定義を掲げただけであつて、争議行為の正当性は別個の観点から判断すべきものである。
二 被告人等が本件生産管理開始のときから判示鉄板を占有していたとしても、それは違法の占有であるから、後にこれを領得しても横領罪とはならず窃盗罪となる。
三 労働組合法第一条第二項は、労働組合の団体交渉その他の行為について無条件に刑法第三五条の適用があることを規定しているのではなく唯労働組合法所定の目的達成のために為した正当な行為についてのみ適用を認めているに過ぎない(昭和二二年(れ)第三一九号同二四年五月一八日最高裁判所大法廷判決参照)。如何なる争議行為を以て正当とするかは、具体的に個々の争議につき、争議の目的並びに争議手段としての各個の両面に亘つて、現行法秩序全体との関連において決すべきである。従つて至産管理及び生産管理中の個々の行為が、すべて当然に正当行為であるとの論旨は理由がない。
四 原判決が、生産管理においては労働者の団体が工場、設備、資材等一切のものを接収してその占有下におくと判示し、本件においては被告人が既に生産管理に入つたものであることを認めながら、而も他方において判示鉄板は「会社の占有を完全に離脱したものでない」と判示したのは、生産管理開始により労働者の図体が工場、設備、資材等一切のものを自己の支配下におき占有を取得したと言つても、個々の資材物件等については、それが会社構内に存置せられる以上、会社側にもなお占有が存するという趣旨に解すべきである。
五 論旨は、原判決が、本件鉄板は会社の占有を完全に離脱したものではないので被告人等が壇にこれを工場外に搬出した行為は会社の所持を奪つたものであり、窃盗の罪責を免れない、と判示したことを非難し生産管理の下においては占有の所持は労働者側にあり、会社は観念上間接占有を有するに過ぎないから、所持の奪取即ち窃盗はあり得ないい。被告人等には占有奪取の意思もなく、不正領得の意思もなかつたと主張する。しかし労働者側がいわゆる生産管理開始のとき工場、設備、資材等をその占有下においたのは違法の占有であり、判示鉄板についてもそのとき会社側の占有に対して占有の侵奪があつたというべきであるが、原判決はこれを工場外に搬出したとき不法領得の実現行為があつたものと認定したものである。これを証拠に照らし合わせて考えてみても、被告人等が争議期間中の労働者の賃金支払等に充てるために売却する目的を以て、会社側の許可なくしてこれを工場外に運び出し、自己の事実上の支配内に收めた行為は、正に不法領得の意思を以て会社の所持を奪つたものというべきであつて、原判決が窃盗罪にあたるものとしたのは当然である。
六 論旨は生産管理が同盟罷業と性質を異にするものでないということを理由として、生産管理も同盟罷業と同様に違法性を阻却される争議行為であると主張する。しかしわが国現行の法律秩序は私有財産制度を基幹として成り立つており、企業の利益と損失とは資本家に帰する。従つて企業の経営、生産行程の指揮命令は、資本家又はその代理人たる経営担当者の権限に属する。労働者が所論のように企業者と並んで企業の担当者であるとしても、その故に当然に労働者が企業の使用收益権を有するのでもなく、経営権に対する権限を有するものでもないい。従つて労働者側が企業者側の私有財産の基幹を揺がすような争議手段は許されない。なるほど同盟罷業も財産権の侵害を生ずるけれども、それは労働力の給付が積務不履行となるに過ぎない。然るに本件のようないわゆる生産管理に於ては、企業経営の権能を権利者の意思を排除して非権利者が行うのである。それ故に同盟罷業も生産管理も財産権の侵害である点においては同様であるからとて、その相違点を無視するわけにはゆかない。前者において違法性が阻却されるからとて、後者においてもそうだという理由はない。
七 論旨は、憲法が労働者の争議権を認めたことを論拠として、従来の市民法的個人法的観点を楊棄すべきことを説き、かような立場から労働者が争議によつて使用者たる資本家の意思を抑圧してその要求を貫徹することは不当でもなく違法でもないと主張する。しかし憲法は勤労者に対して団結権、団体交渉権その他の団体行動権を保障すると共に、すべての国民に対して平等権、自由権、財産権等の基本的人権を保障しているのであつて、是等諸々の基本的人権が労働者の争議権の無制限な行使の前に悉く排除されることを認めているのでもなく、後者が前者に対して絶対的優位を有することを認めているのでもない。寧ろこれ等諸々の一般的基本的人権と労働者の権利との調和をこそ期待しているのであつて、この調和を破らないことが、即ち争議権の正当性の限界である。その調和点を何処に求めるべきかは、法律制度の精神を全般的に考察して決すべきである。固より使用者側の自由権や財産権と雖も絶対無制限ではなく、労働者の団体行動権等のためある程度の制限を受けるのは当然であるが、原判決の判示する程度に、使用者側の自由意思を抑圧し、財産に対する支配を阻止することは、許さるべきでないと認められる。それは労働者側の争議権を偏重して使用者側の権利を不当に侵害し、法が求める調和を破るものだからである。
八 論旨は、原判決を以て、生産管理の本質を誤り、生産管理が争議権行使の一方法であることを否認し、争議権行使の方法を制限した違法あるものとして、非難すると共に、生産管理が労働関係調整法第七条にいわゆる「その他」の行為の中に含まれるということを論拠として、労働者が争議方法として生産管理を行うことには何等の制限を受くべきでないと主張する。しかし右の法条は争議行為の定義を掲げただけであつて、争議行為又はそれに伴う諸々の行為がすべて適法又は正当であると言つているのではない。従つて生産管理が右の「その他」の行為の中に含まれるとしても、そのことだけから、生産管理を行う自由があると即断することはできない。具体的争議行為の適法性の限界については、別個の観点から判断されなければならない。
裁判
最高裁判所大法廷 昭和25年11月15日 昭和23(れ)1049
登載
刑集 第4巻11号2257頁
参照法条
労働関係調整法7条,刑法235条,刑法252条,刑法35条,労働組合法1条2項,労働組合法1条,憲法12条,憲法28条,憲法29条
論点48第35条刑法

一 家宅捜索について居住者の不任意の承諾と住居侵入罪
二 予審制度廃止以前に作成された予審訊問調書の証拠能力
三 目的の正否と公共の福祉
四 憲法第二八条にいわゆる団結権等の意義
五 権限を有しない者の隠匿物資摘発行為と違法性阻却の理由

裁判要旨一 A市長夫人Bが被告人C等に対して家宅捜索の承諾を与えたのは、赤旗を擁した多数の威力を背景とする同人等の言動に威圧されたためであつて、その真意から出たものでないことをCも知つていたことは、原判決挙示の各証拠就中Dに対する予審判事の証人訊問調書中同人の供述記載によつて十分に推認することができる。それ故に原判決には所論のように証拠によらずしてCの犯意を認定したという違法はない。
二 予審制度は現在廃止せられているけれども、その廃止以前に適法に作成された予審訊問調書が証拠能力を有することは、当裁判所の判例(昭和二二年れ第三一九号同二四年五月一八日大法廷判決)の趣旨とするところである。
三 市民のため食糧を獲得すること又は市長や食糧営団の職員に反省を促すことが目的として正しいとしても、それだけでその目的を達成するための手段がすべて正当化される訳ではない。その手段は秩序を守りつゝ個人の自由や権利を侵さないように行われなければならない。けだし秩序が維持されることも個人の基本的人権が尊重されることもそれ自体が公共の福祉の内容を成すものだからである。それ故に原判決が被告人等の所為を公共の福祉に反するものとし、正常の行為に非ずと断じたのは当然である。
四 憲法第二八条にいわゆる団結権、団体交渉権等は、単なる一般市民の集合には適用されない。
五 仮りに所論のように、当局者が隠匿摘発物資の励行を怠つていたとしても、本件被告人がしたような方法(赤旗を擁した多数の威力を背景として家宅捜索の承諾を得た)によつてこれを摘発することが不当であつて、違法性阻却の事由とならないことは当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第三一九号同二四年五月一八日大法廷判決)に徴して明らかである。
裁判
最高裁判所大法廷 昭和25年10月11日 昭和24(れ)1601
登載
刑集 第4巻10号2012頁
参照法条
刑法130条,刑法第1編第7章(犯罪ノ不成立及ビ刑ノ減免),刑法35条,旧刑訴法300条,刑訴応急措置法9条,憲法12条,憲法13条,憲法28条
論点49第35条刑法

在留期間更新の申請をした後在留期間を経過した外国人が上記申請を不許可とする決定の通知が発出されたころ以降本邦に残留した行為につき不法残留罪が成立するとされた事例

裁判要旨在留期間更新の申請をした後在留期間を経過した外国人が上記申請を不許可とする決定の通知が発出されたころ以降本邦に残留した行為については,同人において,上記申請に当たり虚偽の申出をしたほか,審査のため入国管理局が求めた出頭要請等にも誠実に対応していないという本件事実関係(判文参照)の下では,上記通知の到達の有無や上記申請が不許可となったことについての同人の認識の有無を問わず,不法残留罪が成立する。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成17年4月21日 平成16(あ)1595
登載
刑集 第59巻3号376頁
参照法条
出入国管理及び難民認定法21条,出入国管理及び難民認定法(平成16年法律第73号による改正前のもの)70条1項5号,刑法35条,刑法38条
論点50第35条刑法

母の監護下にある2歳の子を別居中の共同親権者である父が有形力を用いて連れ去った略取行為につき違法性が阻却されないとされた事例

裁判要旨母の監護下にある2歳の子を有形力を用いて連れ去った略取行為は, 別居中の共同親権者である父が行ったとしても,監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情が認められず,行為態様が粗暴で強引なものであるなど判示の事情の下では,違法性が阻却されるものではない。(補足意見及び反対意見がある。)
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成17年12月6日 平成16(あ)2199
登載
刑集 第59巻10号1901頁
参照法条
刑法35条,刑法224条,民法818条,民法820条
論点51第35条刑法

反目状態にあった男の運転する自動車に意図的に衝突されて自車が転覆したため同人とのけんか抗争等に備える目的で自車のダッシュボード内に入れておいた刃物を護身用にズボンのポケットに移し替えて自車からはい出した後に路上で携帯する行為について違法性が阻却されないとされた事例

裁判要旨反目状態にあった男とのけんか抗争等に備える目的で自車のダッシュボード内に入れておいた刃物を車外に持ち出した後に路上で携帯する行為は,同人運転の自動車に意図的に衝突されて自車が転覆し,車外にはい出す際に護身用にズボンのポケットに上記刃物を移し替えたという事情があることを考慮しても,その違法性が阻却される余地はない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成17年11月8日 平成15(あ)163
登載
刑集 第59巻9号1449頁
参照法条
刑法35条,刑法36条1項,銃砲刀剣類所持等取締法22条,銃砲刀剣類所持等取締法32条4号
論点52第35条刑法

日本人である妻と別居中の外国人が妻において監護養育していた子を母国に連れ去る目的で有形力を用いて連れ出した行為について国外移送略取罪が成立するとされた事例

裁判要旨日本人である妻と別居中のオランダ国籍の者が,妻において監護養育していた2歳4か月の子をオランダに連れ去る目的で入院中の病院から有形力を用いて連れ出した判示の行為は,国外移送略取罪に該当し,その者が親権者の1人として子を自分の母国に連れ帰ろうとしたものであることを考慮しても,その違法性は阻却されない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成15年3月18日 平成14(あ)805
登載
刑集 第57巻3号371頁
参照法条
刑法35条,刑法226条1項
論点53第35条刑法

1 行為者によって頒布された電磁的記録又は電磁的記録に係る記録媒体について,芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の有無・程度をも検討しつつ,刑法175条〈わいせつ物頒布等〉のわいせつな電磁的記録又はわいせつな電磁的記録に係る記録媒体に該当するか否かを判断するに当たっての検討及び判断の方法
2 刑法175条のわいせつな電磁的記録に該当する女性器の三次元形状データファイル又は同データが記録されたCD-Rを頒布した被告人の行為について,正当行為として違法性が阻却されるものではないとされた事例

裁判要旨1 行為者によって頒布された電磁的記録又は電磁的記録に係る記録媒体について,芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の有無・程度をも検討しつつ,刑法175条〈わいせつ物頒布等〉のわいせつな電磁的記録又はわいせつな電磁的記録に係る記録媒体に該当するか否かを判断するに当たっては,電磁的記録が視覚情報であるときには,同記録を視覚化したもののみを見て,これらの検討及び判断をするのが相当である。
2 刑法175条のわいせつな電磁的記録に該当する女性器の三次元形状データファイル又は同データが記録されたCD-Rを頒布した被告人の行為は,女性器に対する卑わいな印象を払拭し,女性器を表現することを日常生活に浸透させたいという思想に基づくものであるということや,同データの頒布が被告人の作品制作に資金を提供する者に対し資金提供という方法で作品制作に参加する機会を与えるものであるということ,同データ又は同CD-Rの頒布がそれらの提供を受けた者に対し同データを加工して創作をする機会を与えるものであるということによって正当行為として違法性が阻却されるものではない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 令和2年7月16日 平成29(あ)829
登載
刑集 第74巻4号343頁
参照法条
憲法21条,憲法31条,刑法175条,刑法35条
論点54第36条刑法

傷害致死につき誤想過剰防衛であるとされた事例

裁判要旨空手三段の在日外国人が、酩酊した甲女とこれをなだめていた乙男とが揉み合ううち甲女が尻もちをついたのを目撃して、甲女が乙男から暴行を受けているものと誤解し、甲女を助けるべく両者の間に割つて入つたところ、乙男が防衛のため両こぶしを胸に前辺りに上げたのを自分に殴りかかつてくるものと誤信し、自己及び甲女の身体を防衛しようと考え、とつさに空手技の回し蹴りを乙男の顔面付近に当て、同人を路上に転倒させ、その結果後日死亡するに至らせた行為は、誤信にかかる急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を逸脱し、誤想過剰防衛に当たる。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和62年3月26日 昭和59(あ)1699
登載
刑集 第41巻2号182頁
参照法条
刑法36条,刑法38条,刑法205条1項
論点55第36条刑法

殺人につき防衛の意思を欠くとはいえないとされた事例

裁判要旨被告人が、自己の経営するスナツク店内において、相手方から一方的にかなり激しい暴行を加えられているうち、憎悪と怒りから調理場にあつた文化包丁を持ち出し、「表に出てこい」などと言いながら出入口へ向かつたところ、相手方から物を投げられ、「逃げる気か」と言つて肩を掴まれるなどしたため、更に暴行を加えられることをおそれ、振り向きざま手にした包丁で相手方の胸部を一突きして殺害した本件事実関係のもとにおいては(判文参照)、被告人の行為は、「表に出てこい」などの言辞があつたからといつて、専ら攻撃の意思に出たものとはいえず、防衛の意思を欠くことにはならない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和60年9月12日 昭和59(あ)1256
登載
刑集 第39巻6号275頁
参照法条
刑法36条
論点56第36条刑法

刑法三六条〈正当防衛〉にいう「急迫不正ノ侵害」にあたるとされた事例

裁判要旨相手方から一方的に暴行を受けた被告人が、帰寮後も憤まん収まらず、いつたんは木刀を手にして相手方と対峙し同人を難詰したものの、同僚の説得に従い、話合いをするため木刀を投げ捨てその場を離れたにもかかわらず、予期に反して相手方がいきなり右木刀を拾い上げ攻撃してきた本件事実関係のもとにおいては(判文参照)、右攻撃は刑法三六条にいう「急迫不正ノ侵害」にあたる。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和59年1月30日 昭和57(あ)648
登載
刑集 第38巻1号185頁
参照法条
刑法36条
論点57第36条刑法

使用者側が団体交渉の申入れに応じない場合と刑法三六条一項にいう「急迫不正ノ侵害」

裁判要旨使用者側が団体交渉の申入れに応じないという単なる不作為が存するにすぎない場合には、いまだ刑法三六条一項にいう「急迫不正ノ侵害」があるとはいえない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和57年5月26日 昭和56(あ)1131
登載
刑集 第36巻5号609頁
参照法条
刑法36条1項,労働組合法1条
論点58第36条刑法

刑法三六条〈正当防衛〉における侵害の急迫性

裁判要旨刑法三六条〈正当防衛〉における侵害の急迫性は、当然又はほとんど確実に侵害が予期されただけで失われるものではないが、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは失われることになる。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和52年7月21日 昭和51(あ)671
登載
刑集 第31巻4号747頁
参照法条
刑法36条
論点59第36条刑法

正当防衛に関する判例の違反を主張する論旨を欠前提で処理した事例

裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和52年7月20日 昭和52(あ)703
登載
集刑 第205号309頁
参照法条
刑法36条,刑訴法405条2号
論点60第36条刑法

防衛の意思と攻撃の意思とが併存している場合と刑法三六条の防衛行為

裁判要旨急迫不正の侵害に対し自己又は他人の権利を防衛するためにした行為であるかぎり、同時に侵害者に対する攻撃的な意思に出たものであつても、刑法三六条〈正当防衛〉の防衛行為にあたる。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和50年11月28日 昭和49(あ)2786
登載
刑集 第29巻10号983頁
参照法条
刑法36条
論点61第36条刑法

一 刑法三六条〈正当防衛〉にいう「急迫」の意義
二 刑法三六条の防衛行為と防衛の意思
刑法三六条の防衛行為と防衛の意思」

裁判要旨一 刑法三六条〈正当防衛〉にいう「急迫」とは、法益の侵害が現に存在しているか、または間近に押し迫つていることを意味し、その侵害があらかじめ予期されていたものであるとしても、そのことからただちに急迫性を失うものと解すべきではない。
二 刑法三六条の防衛行為は、防衛の意思をもつてなされることが必要であるが、相手の加害行為に対し憤激または逆上して反撃を加えたからといつて、ただちに防衛の意思を欠くものと解すべきではない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和46年11月16日 昭和45(あ)2563
登載
刑集 第25巻8号996頁
参照法条
刑法36条
論点62第36条刑法

殺人未遂罪につき誤想過剰防衛が認められた事例。

裁判要旨被告人の長男甲が乙に対し、乙がまだなんらの侵害行為に出ていないのに、これに対し所携のチエーンで殴りかかつた上、なお攻撃を加えることを辞さない意思をもつて、庖丁を擬した乙と対峙していた際に、甲の叫び声を聞いて表道路に飛び出した被告人は、右のごとき事情を知らず、甲が乙から一方的に攻撃を受けているものと誤信し、その侵害を排除するため乙に対し猟銃を発射し、散弾の一部を同人の右頸部前面鎖骨上部に命中させたものであること、その他原判決認定の事実関係(原判文参照)のもとにおいては、被告人の本件所為は、誤想防衛であるが、その防衛の程度を超えたものとして、刑法第三六条第二項〈正当防衛〉により処断すべきものである。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和41年7月7日 昭和40(あ)1998
登載
刑集 第20巻6号554頁
参照法条
刑法36条,刑法38条,刑法199条,刑法203条
論点63第36条刑法

公務執行妨害罪における職務としての現行犯人逮捕行為の適法性の判断基準

裁判要旨公務執行妨害罪における職務としての現行犯人逮捕行為の適法性の判断は、逮捕行為当時における具体的状況を客観的に観察して、現行犯人と認められるに十分な理由があつたか否かによるべきものであつて、事後において犯人と認められたか否かによるべきものではない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和41年4月14日 昭和40(あ)2241
登載
集刑 第159号181頁
参照法条
刑法95条1項,刑法36条,刑訴法212条
論点64第36条刑法

警察官による人物確認のためのひそかな写真撮影の対象とされた者と共に撮影された者において、そのフイルム装填の写真機を強取した行為が違法と認められた事例。

裁判要旨警察官が甲に対する収監の必要上、その人物確認の手段として、ひそかに、甲と思われる人物の写真を撮影するにあたり、これと同道していた乙および丙を分離して撮影することが困難であつたため、乙および丙をも同時に撮影したとしても、その撮影行為は違法でなく、被撮影者らにおいて、暴行をもつて右警察官の反抗を抑圧して、自己らの撮影されたフイルムの装填してある写真機を強取することは刑法上許された行為ではない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和38年7月9日 昭和33(あ)2671
登載
刑集 第17巻6号579頁
参照法条
刑法36条,刑法236条
論点65第36条刑法

原判決の判断の通りとすれば第一審判決を破棄自判しなければならない場合に控訴を棄却した誤りがあつても結局同一の刑に処するときは、刑訴第四一一条に当らない

裁判要旨第一審判決は、被告人の本件行為を過剰防衛行為であると認定して法律上の減軽をした上更らに酌量減軽をして被告人を懲役四年に処しているのに、原判決は証拠に基き過剰防衛行為に該当しないことも明らかであるとして被告人の控訴趣意を排斥して控訴を棄却したものであるから、原判決は第一審判決を事実誤認又は判決に影響ある法令違反ありとしてこれを破棄し、ただ被告人のため控訴をした事件であるの故を以て第一審判決の言渡した懲役刑よりも重くない刑を言渡すべきものであつたといわなければならない。それ故、この点において原判決には違法がある。しかし、本件は被告人のために上告した事件であるから、右の違法は原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和29年4月15日 昭和28(あ)5689
登載
集刑 第94号523頁
参照法条
刑法36条2項,刑訴法335条2項,刑訴法380条,刑訴法396条,刑訴法402条,刑訴法411条
論点66第36条刑法

過剰防衛の成り立たない一事例

裁判要旨原判決の認定したように本件の相手方は何等兇器等を所持していなかつたのであるから、ジヤツクナイフを取出し立ち向う必要はなく、また、その場から逃避することも可能であつたにかかわらず、第一審判決の判示したようにA、Bを相手に廻し喧嘩闘争をしようと決意し右ナイフを以て立ち向い、相互に揉み合ううちBに対し判示傷害を加え死に致し、以て被告人の行為が一種の闘争行為の域に達したと認められるがごとき案件では過剰防衛は成り立たない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和29年1月28日 昭和26(あ)4982
登載
集刑 第91号1083頁
参照法条
刑法20条,刑法36条
論点67第36条刑法

一 判決書に契印すべき裁判官
二 喧嘩闘争のための加害行為と過剩防衛

裁判要旨一 原判決には判事全員の契印の契印がないから判決書に刑事の契印を欠いた違法があるというのであるが、判決書は刑事これを作成し(旧刑訴六七条〈法律上の加減と酌量減軽〉)裁判をした判事署名捺印すべきもの(同六八条〈法律上の減軽の方法〉)であるから合議裁判所における裁判書には合議に関与した判事全員においてこれに署名捺印すべきは当然であるが旧刑訴第七一条二項〈酌量減軽の方法〉によれば書類には作成者が毎葉契印すべきことを規定するのみで合議裁判所における裁判書にはその裁判官全員の契印を要求していないのであるから、裁判をなした判事の一名がこれを作成し、契印すれば同条の要件を欠いたものということを得ない。(大正一三年(れ)第一一六七号同年九月六日大審院判決参照)要旨は理由がない。
二 原判決の確定した事実によれば被告人は当時酩酊のため乱暴していた判示AことBから絡まれて何らの理由なく頭部及び頬を殴打されその場は一旦別れたがやがて再び同人と顔を合わせたところ、更らに同人のため股部を足蹴にされたので、憤激の余りその顔面を殴打したところ、Bがなおもその懐中に手を差し入れ立ち向う態度を示したので、これは刃物で危害を加えようとするものと速断し機先を制して所携の西洋剃刀で同人の顔面を斬りつけたというものであるから、被告人の判示所為は喧嘩闘争のための加害行為に他ならぬものであつて、原判決が説示する如く過剩防衛とならない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和26年2月20日 昭和25(れ)1248
登載
刑集 第5巻3号410頁
参照法条
旧刑訴法67条,旧刑訴法71条,刑法36条
論点68第36条刑法

犯罪発生原因上に存する憫諒すべき客観的な情状と期待可能性の有無

裁判要旨本件は期待可能性を欠き責任を阻却し無罪である旨の所論は、原審でその主張がなく従つて原判決もその点について何等判断を与えていなのである。しかのみならず、所論摘示の事情(割当てられた原料は公定価格で買えず製品の公定価格は生産原価を割るので原料の出目で作つた製品を公定価格で売らなければ立ち行かない等)は、いわば貧困で止むなく窃盗をした場合の貧困という状態のように、本件犯罪の主観的責任に関係のない単なる犯罪発生原因上に存する憫諒すべき客観的な情状たるに過ぎないものと認められる。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和26年11月29日 昭和26(れ)1655
登載
集刑 第57号701頁
参照法条
旧刑訴法360条2項,刑法36条
論点69第36条刑法

刑法三六条一項〈正当防衛〉にいう「巳ムコトヲ得サルニ出テタル行為」に当たるとされた事例

裁判要旨年齢も若く体力にも優れた相手方が、「お前、殴られたいのか。」と言って手拳を前に突き出し、足を蹴り上げる動作をしながら目前に迫ってきたなど判示のような状況の下において、危害を免れるため、菜切包丁を手に取ったうえ腰のあたりに構えて脅迫した本件行為は、いまだ防衛手段として相当性の範囲を超えたものとはいえない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成元年11月13日 昭和61(あ)782
登載
刑集 第43巻10号823頁
参照法条
刑法36条,暴力行為等処罰に関する法律1条
論点70第36条刑法

一 刑法三六条一項〈正当防衛〉にいう「急迫不正の侵害」が終了していないとされた事例
二 過剰防衛に当たるとされた事例

裁判要旨一 文化住宅の二階便所にいた被告人を鉄パイプで殴打した上逃げ出した後を追い掛けて殴り掛かろうとしていた相手方を、被告人が二階通路から外側の道路上に転落させる行為に及んだ当時、相手方において、勢い余って二階手すりの外側に上半身を前のめりに乗り出した姿勢となったものの、なおも鉄パイプを握り続けるなどその加害の意欲がおう盛かつ強固であり、間もなく態勢を立て直して再度その攻撃に及ぶことが可能であったと認められるなど判示の事実関係の下においては、相手方の被告人に対する急迫不正の侵害は終了しておらず、なお継続していたということができる。
二 相手方の不正の侵害は、鉄パイプで被告人の頭部を一回殴打した上、引き続きそれで殴り掛かろうとしたものであり、他方、被告人の暴行は、もみあいの最中にいったん取り上げた鉄パイプで相手方の頭部を一回殴打したほか、二階手すりの外側に上半身を乗り出した相手方の片足を持ち上げて約四メートル下のコンクリート道路上に転落させたという死亡の結果すら発生しかねない危険なものであったことに照らすと、被告人の一連の暴行は、全体として防衛のためにやむを得ない程度を超えたものであったと認められる。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成9年6月16日 平成9(あ)152
登載
刑集 第51巻5号435頁
参照法条
刑法36条
論点71第36条刑法

盗犯等の防止及び処分に関する法律一条一項〈国内犯〉の正当防衛の成立要件

裁判要旨盗犯等の防止及び処分に関する法律一条一項〈国内犯〉の正当防衛が成立するためには、当該行為が形式的に同条項の要件を満たすだけでなく、現在の危険を排除する手段として相当性を有するものであることが必要であり、ここにいう相当性とは刑法三六条一項における侵害に対する防衛手段としての相当性よりも緩やかなものを意味する。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成6年6月30日 平成6(し)71
登載
刑集 第48巻4号21頁
参照法条
盗犯等の防止及び処分に関する法律1条1項,刑法36条1項
論点72第36条刑法

複数人が共同して防衛行為としての暴行に及び侵害終了後になおも一部の者が暴行を続けた場合において侵害終了後に暴行を加えていない者について正当防衛が成立するとされた事例

裁判要旨急迫不正の侵害に対し、複数人が共同して防衛行為としての暴行に及び、侵害が終了した後に、なおも一部の者が暴行を続けた場合において、侵害終了後に暴行を加えていない者については、侵害現在時における暴行について防衛行為としての相当性が認められ、侵害終了後の暴行について共謀が認められないという判示の事実関係の下においては、過剰防衛ではなく、正当防衛が成立する。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成6年12月6日 平成2(あ)335
登載
刑集 第48巻8号509頁
参照法条
刑法36条
論点73第36条刑法

一 共同正犯が成立する場合における過剰防衛の成否の判断方法
二 殺人の共同正犯者中の一人に過剰防衛が成立する場合に他の一人について過剰防衛が成立しないとされた事例

裁判要旨一 共同正犯が成立する場合における過剰防衛の成否は、共同正犯者の各人につきそれぞれの要件を満たすかどうかによって判断すべきである。
二 被告人と共謀の上被害者を殺害した甲について過剰防衛が成立する場合であっても、被害者の攻撃を予期し、その機会を利用して甲に反撃を加えさせようとして侵害に臨んだ被告人については、侵害の急迫性の要件を欠き、過剰防衛は成立しない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成4年6月5日 平成2(あ)788
登載
刑集 第46巻4号245頁
参照法条
刑法36条,刑法60条,刑法199条
論点74第36条刑法

侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合における刑法36条の急迫性の判断方法

裁判要旨行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合,侵害の急迫性の要件については,対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべきであり,事案に応じ,行為者と相手方との従前の関係,予期された侵害の内容,侵害の予期の程度,侵害回避の容易性,侵害場所に出向く必要性,侵害場所にとどまる相当性,対抗行為の準備の状況(特に,凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等),実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同,行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮し,緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに私人による対抗行為を許容した刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には,侵害の急迫性の要件を充たさないものというべきである。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成29年4月26日 平成28(あ)307
登載
刑集 第71巻4号275頁
参照法条
刑法36条
論点75第36条刑法

財産的権利等を防衛するためにした暴行が刑法36条1項にいう「やむを得ずにした行為」に当たるとされた事例

裁判要旨相手方らが立入禁止等と記載した看板を被告人方建物に取り付けようとすることによって被告人らの上記建物に対する共有持分権,賃借権等や業務,名誉に対する急迫不正の侵害に及んだのに対し,上記権利等を防衛するために被告人が相手方の胸部等を両手で突いた暴行は,相手方らが以前から継続的に被告人らの上記権利等を実力で侵害する行為を繰り返しており,上記暴行の程度が軽微であるなどの事実関係(判文参照)の下においては,防衛手段としての相当性の範囲を超えるものではない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成21年7月16日 平成20(あ)1870
登載
刑集 第63巻6号711頁
参照法条
刑法36条1項
論点76第36条刑法

急迫不正の侵害に対する反撃として複数の暴行を加えた場合において,単独で評価すれば防衛手段としての相当性が認められる当初の暴行のみから傷害が生じたとしても,1個の過剰防衛としての傷害罪が成立するとされた事例

裁判要旨急迫不正の侵害に対する反撃として複数の暴行を加えた場合において,単独で評価すれば防衛手段としての相当性が認められる当初の暴行のみから傷害が生じたとしても,同暴行とその後の防衛の程度を超えた暴行とが一連一体のものであり,同一の防衛の意思に基づく1個の行為と認めることができる本件事実関係の下では,全体的に考察して1個の過剰防衛としての傷害罪の成立を認めるのが相当であり,傷害が生じた経緯は有利な情状として考慮すれば足りる。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成21年2月24日 平成20(あ)2102
登載
刑集 第63巻2号1頁
参照法条
刑法36条
論点77第36条刑法

正当防衛に当たる暴行及びこれと時間的,場所的に連続して行われた暴行について,両暴行を全体的に考察して1個の過剰防衛の成立を認めることはできないとされた事例

裁判要旨相手方の急迫不正の侵害に対し,正当防衛に当たる暴行(以下「第1暴行」という。)を加えて同人を転倒させた被告人が,これと時間的,場所的に連続して暴行(以下「第2暴行」という。)を加えた場合において,相手方が更なる侵害行為に出る可能性のないことを認識した上,防衛の意思ではなく,専ら攻撃の意思に基づき相当に激しい態様の第2暴行を加えたなどの本件事実関係の下では,第1暴行と第2暴行の間には断絶があって,急迫不正の侵害に対して反撃を継続するうちに,その反撃が量的に過剰になったものとは認められず,両暴行を全体的に考察して1個の過剰防衛の成立を認めるのは相当ではない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成20年6月25日 平成20(あ)124
登載
刑集 第62巻6号1859頁
参照法条
刑法36条
論点78第36条刑法

被告人が,自らの暴行により相手方の攻撃を招き,これに対する反撃としてした傷害行為について,正当防衛が否定された事例

裁判要旨相手方から攻撃された被告人がその反撃として傷害行為に及んだが,被告人は,相手方の攻撃に先立ち,相手方に対して暴行を加えているのであって,相手方の攻撃は,被告人の暴行に触発された,その直後における近接した場所での一連,一体の事態ということができ,被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえるから,相手方の攻撃が被告人の上記暴行の程度を大きく超えるものでないなどの本件の事実関係の下においては,被告人の上記傷害行為は,被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成20年5月20日 平成18(あ)2618
登載
刑集 第62巻6号1786頁
参照法条
刑法36条
論点79第36条刑法

正当防衛の成否及び量刑について補足意見が付された事例

裁判
最高裁判所第三小法廷 平成19年11月5日 平成19(あ)364
登載
集刑 第292号465頁
参照法条
刑法36条,刑訴法411条2号
論点80第37条刑法

緊急避難に関する判例違反の諭旨が事案を異にする主張とされた事例

裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和54年11月13日 昭和54(あ)1323
登載
集刑 第216号351頁
参照法条
刑訴法405条2号,刑法37条1項
論点81第37条刑法

被告人の緊急避難の主張を斥けた原判決には審理不尽、理由不備の違法があるとして破棄された事例

裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和47年6月13日 昭和45(あ)1396
登載
集刑 第184号615頁
参照法条
刑法37条,刑訴法378条4号
論点82第37条刑法

刑法第三七条第一項〈緊急避難〉にいう現在の危難と断定することはできないとされた事例。

裁判要旨被告人Aが原判示のような事情(原判決理由参照)の下において、「民主叛逆者に対する刑事事件臨時処理法」を除く一連のいわゆる革命立法の施行時期が切迫し、保釈も取り消された上いわゆる革命裁判によつて重刑に処せられることを予想していたとしても、これを以て刑法第三七条第一項にいう現在の危難と断定することはできない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和39年8月4日 昭和38(あ)139
登載
集刑 第152号429頁
参照法条
刑法37条1項,出入国管理令70条2号,出入国管理令9条5項,憲法22条
論点83第37条刑法

過剰避難と認められない事例

裁判要旨吊橋が腐朽甚しく、いつ落下するかも知れないような危険な状態にあつたとしても、ダイナマイトを使用してこれを爆破する行為については、緊急避難を認める余地なく、従つてまた過剰避難も成立しえない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和35年2月4日 昭和34(あ)949
登載
刑集 第14巻1号61頁
参照法条
爆発物取締罰則1条,刑法37条
論点84第37条刑法

一 期待可能性がないとした判断が法令の適用の誤または理由不備であるとされた事例。
二 原判決が一部無罪、一部有罪としたとき、上告審が無罪の部分の判断が誤りであるとする場合の措置。

裁判要旨一 労働争議に際し、被告人ら労組員が会社側幹部に暴行を加え且つ引き続き監禁した事件において、原判決が、争議に相当の理由があり、急速な解決を必要としたこと、会社側幹部が逃避的態度を示したこと、被告人等は組合員の勢に引き摺られたものであること、加えた危害が高度でないことなどの理由だけで前半の暴行を期待可能性がないものとして無罪とし、後半の不法監禁のみを有罪としたときは無罪の判断部分について法令の適用を誤つたかまたは理由不備の違法があることになる。
二 右のように原判決が一部無罪、一部有罪とした場合上告審が有罪部分には破棄事由がないが無罪部分について破棄事由があると認めたときは、原判決全部を破棄すべきである。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和33年11月4日 昭和30(あ)1996
登載
刑集 第12巻15号3439頁
参照法条
刑法37条,刑訴法380条,刑訴法378条4号,刑訴法411条,刑訴法413条
論点85第37条刑法

緊急避難と認めたことの違法な一事例

裁判要旨列車乗務員が隧道通信の際、隧道内における熱気の上昇有毒ガスの発生等による身体生命に対する現在の危難を避くるため、争議行為として牽引車輛の三割減車を行わなければならない場合において、昭和二三年政令第二〇一号の実施により、右三割減車行為が同令違反として検挙されることとなつたからといつて、さらに職場を全面的に抛棄することは、緊急避難の程度を超えるものといわねばならない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和28年12月25日 昭和25(れ)1345
登載
刑集 第7巻13号2671頁
参照法条
刑法37条,昭和23年政令201号
論点86第37条刑法

上告審においてはじめて緊急避難である旨主張することの適否

裁判要旨上告審においてはじめて被告人の所為は緊急避難に該当し違法性がない旨主張することはできない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和26年2月22日 昭和25(れ)1759
登載
刑集 第5巻3号418頁
参照法条
刑法37条,旧刑訴法409条
論点87第38条刑法

百円紙幣を模造する行為につき違法性の意識の欠如に相当の理由があるとはいえないとされた事例

裁判要旨甲、乙がそれぞれ百円紙幣に紛らわしい外観を有する飲食店のサービス券を作成した行為につき、甲において、事前に警察署を訪れて警察官に相談した際、通貨模造についての罰則の存在を知らされるとともに、紙幣と紛らわしい外観を有するサービス券とならないよう具体的な助言を受けたのに、右助言を重大視せず、処罰されることはないと楽観してサービス券Aを作成し、次いで、作成したサービス券Aを警察署に持参したのに対し、警察官から格別の注意も警告も受けず、かえつて警察官が同僚らに右サービス券を配布してくれたのでますます安心して更にほぼ同様のサービス券Bを作成し、また、乙において、甲からサービス券Aは百円札に似ているが警察では問題がないと言つていると聞かされるなどしたため、格別の不安を感ずることもなく類似のサービス券Cの作成に及んだことが認められる本件事実関係(判文参照)の下においては、甲、乙が右各行為の違法性の意識を欠いていたとしても、それにつき相当の理由があるとはいえない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和62年7月16日 昭和60(あ)457
登載
刑集 第41巻5号237頁
参照法条
刑法38条3項,通過及証券模造取締法1条
論点88第38条刑法

一 覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩粉末を麻薬であるコカインと誤認して所持した場合の罪責
二 覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩粉末を麻薬であるコカインと誤認して所持した場合における没収の適条

裁判要旨一 覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩粉末を麻薬であるコカインと誤認して所持した場合には、麻薬取締法六六条一項、二八条一項の麻薬所持罪が成立する。
二 覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩粉末を麻薬であるコカインと誤認して所持した場合における覚せい剤の没収は、覚せい剤取締法四一条の六によるべきである。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和61年6月9日 昭和61(あ)172
登載
刑集 第40巻4号269頁
参照法条
刑法19条1項1号,刑法38条2項,麻薬取締法28条1項,麻薬取締法66条1項,麻薬取締法68条,覚せい剤取締法14条1項,覚せい剤取締法41条の2第1項1号,覚せい剤取締法41条の6
論点89第38条刑法

謀議の内容において被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせていた場合といわゆる共謀共同正犯者としての殺人の故意の成立

裁判要旨謀議の内容において被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせており、犯意自体が未必的なものであつたとしても、実行行為の意思が確定的であつたときは、いわゆる共謀共同正犯者としての殺人の故意の成立に欠けるところはない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和59年3月6日 昭和58(あ)531
登載
刑集 第38巻5号1961頁
参照法条
刑法38条1項,刑法60条,刑法199条
論点90第38条刑法

船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律三六条〈正当防衛〉、五条一項〈外国判決の効力〉と過失犯

裁判要旨船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律三六条〈正当防衛〉、五条一項〈外国判決の効力〉は過失犯をも処罰する趣旨である。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和57年4月2日 昭和54(あ)1756
登載
刑集 第36巻4号503頁
参照法条
船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律(昭和45年法律136号により廃止)5条1項,船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律(昭和45年法律136号により廃止)36条,海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律 附則8条,刑法38条1項
論点91第38条刑法

現実の殺害行為を一定の事態の発生にかからせていた場合と殺人の故意の成立

裁判要旨謀議された計画の内容においては被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせていたとしても、そのような殺害計画を遂行しようとする意思が確定的であつたときは、殺人の故意の成立に欠けるところはない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和56年12月21日 昭和56(あ)1004
登載
刑集 第35巻9号911頁
参照法条
刑法38条1項,刑法60条,刑法199条
論点92第38条刑法

暴行・傷害を共謀した共犯者のうちの一人が殺人罪を犯した場合における他の共犯者の罪責

裁判要旨暴行・傷害を共謀した共犯者のうちの一人が殺人罪を犯した場合、殺意のなかつた他の共犯者については、傷害致死罪の共同正犯が成立する。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和54年4月13日 昭和52(あ)2113
登載
刑集 第33巻3号179頁
参照法条
刑法38条2項,刑法60条,刑法199条,刑法205条1項
論点93第38条刑法

一 営利の目的で麻薬であるジアセチルモルヒネの塩類粉末を覚せい剤と誤認して輸入した場合とその罪責
二 税関長の許可を受けないで麻薬を覚せい剤と誤認して輸入した場合とその罪責

裁判要旨一 営利の目的で、麻薬であるジアセチルモルヒネの塩類粉末を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、麻薬取締法六四条二項、一項、一二条一項〈拘禁刑〉の麻薬輸入罪が成立する。
二 税関長の許可を受けないで、麻薬を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、関税法一一一条一項の無許可輸入罪が成立する。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和54年3月27日 昭和52(あ)836
登載
刑集 第33巻2号140頁
参照法条
刑法38条1項,刑法38条2項,麻薬取締法12条1項,麻薬取締法64条1項,麻薬取締法64条2項,覚せい剤取締法13条,覚せい剤取締法41条1項1号,覚せい剤取締法41条2項,関税法109条1項,関税法111条1項,関税定率法21条1項
論点94第38条刑法

強盗殺人未遂罪といわゆる打撃の錯誤

裁判要旨犯人が強盗の手段として人を殺害する意思のもとに銃弾を発射して殺害行為に出た結果、犯人の意図した者に対して右側胸部貫通銃創を負わせたほか、犯人の予期しなかつた者に対しても腹部貫通銃創を負わせたときは、後者に対する関係でも強盗未遂罪が成立する。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和53年7月28日 昭和52(あ)623
登載
刑集 第32巻5号1068頁
参照法条
刑法38条1項,刑法240条,刑法243条
論点95第38条刑法

無許可の集団示威運動の指導者につき相当の理由に基づく違法性の錯誤があつたとして昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例五条〈外国判決の効力〉の罪の成立を否定した原判決に事実の誤認があるとされた事例―いわゆる羽田空港ロビーデモ第二次上告審事件―

裁判要旨A内国際線出発ロビーにおける参加者約三〇〇名による無許可の集団示威運動を指導した被告人について違法性の錯誤を認めた原判決は、被告人が終始みずからの意思と行動で右集団を指導、煽動していたなど判示の事情のもとにおいては、事実を誤認したものであり、破棄を免れない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和53年6月29日 昭和51(あ)1163
登載
刑集 第32巻4号967頁
参照法条
昭和25年東京都条例1条,昭和25年東京都条例5条,刑法38条3項,刑訴法411条3号
論点96第38条刑法

一 刑法九五条一項〈公務執行妨害及び職務強要〉にいう職務の範囲
二 刑法九五条一項における職務の執行中であるか否かの判断に際しその性質上ある程度継続した一連の職務として把握するのが相当であるとされた事例
三 刑法九五条一項における職務の執行が終了したものではないとされた事例
四 公務執行妨害罪の主観的成立要件としての職務執行中であることの認識の程度

裁判要旨一 刑法九五条一項〈公務執行妨害及び職務強要〉にいう職務には、ひろく公務員が取り扱う各種各様の事務のすべてが含まれる。
二 刑法九五条一項における職務の執行中であるか否かの判断に際しては、日本電信電話公社の電報局長の、局の事務全般を掌理し部下職員を指揮監督する職務及び同電報局次長の、局長を助け局務を整理する職務は、その性質上、その内容及び執行の過程を個別的に分断して部分的にそれぞれの開始、終了を論ずるべきではなく、一体性ないし継続性を有するものとして把握すべきである。
三 本件電報局長の、電報料金の収納等に関する会計書類の点検、決裁の職務及び本件電報局次長の、電報配達業務等に関する上部機関への報告文書作成の職務の各執行が事実上一時的に中断したとしても、その状態が被告人の不法な目的をもつた行動によつて作出されたものである場合には、刑法九五条一項における職務の執行は終了したものではない。
四 公務執行妨害罪の主観的成立要件としての職務執行中であることの認識があるというためには、行為者において公務員が職務行為の執行に当つていることの認識があれば足り、具体的にいかなる内容の職務の執行中であるかまで認識することを要しない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和53年6月29日 昭和51(あ)310
登載
刑集 第32巻4号816頁
参照法条
刑法38条1項,刑法95条1項,日本電信電話公社法18条,日本電信電話公社法35条
論点97第38条刑法

同一の公文書に関する有形偽造と無形偽造との認識の齟齬。

裁判要旨同一の公文書に関する有形偽造と無形偽造とは、罪質を同じくし、その間の認識の齟齬は、実行せられた偽造の結果に対する故意の責任を阻却するものでなく、かつ両者その法定刑を同じくするから、刑法三八条二項〈故意〉の制約を受けるものではない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和37年7月17日 昭和34(あ)1320
登載
集刑 第143号415頁
参照法条
刑法38条1項,刑法38条2項,刑法155条,刑法156条
論点98第38条刑法

重過失致死罪の成立を認めた事例。―放火後の注意義務

裁判要旨原判決の是認した第一審判決は、(註。被告人は材料置場に置いてある油に放火するときは、A方及びその附近の家屋に延焼し、同家屋居住者の生命身体に危害を及ぼすに至る虞のあることは少し注意すれば容易に予見できたのに拘らず……憤激の余り漫然所携のマツチで右油槽内のシンナ、白灯油等に放火した。)被告人は燃えている物に蒲団、砂をかける等臨機の措置をとつて火勢が拡大し被害が他に及ばないよう沈着適切な行動をとるとともに、当時二階に寝ていたBに対し可及的速かに火災の急を告げて同女を屋外に避難させ、或いは他人に救助を頼む等あらゆる方法をこうじ、もつてBの救助に最善の努力を傾ける注意義務があつた旨を判示している。そして被告人の右注意義務は、原判示の是認した第一審判決の確定した事実関係の下においては、一般通常人の注意を払うことにより、よく罪となるべき事実を認識しうべき程度の注意義務と解するを相当とし、また、その注意義務を果すことが期待不可能であつたとは認められない。しからば、被告人が右の注意を怠り、よつてBを死に致した被告人の本件行為を過失犯をもつて問擬したことは正当である。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和37年3月1日 昭和36(あ)465
登載
集刑 第141号377頁
参照法条
刑法38条1項,刑法110条1項,刑法211条後段
論点99第38条刑法

一 法律の錯誤としてたばこ専売法違反の成立を妨げないものとされた事例
二 共同被告人を分離して証人として尋問し、その証言を当該被告人の犯罪を認定する証拠とすることと憲法第三八条第一項

裁判要旨一 繊維製品の販売等を目的とする株式会社の代表取締役たる甲と同会社の取締役にして営業部長なる乙とが共謀の上、右会社が日本専売公社指定の製造たばこ小売人ではないのにもかかわらず、同会社の業務に関し、右公社の製造たばこを他に小売販売した場合には、たとえ甲および乙において、製造たばこの小売人の指定が乙の個人名義でなされていても、同人が右会社の前記のような地域にある関係上、会社において製造たばこの小売販売をなし得るものと信じていたとしても、それは法律の錯誤であつて、故意を阻却するものではなく、本件につきたばこ専売法違反の罪が成立することを妨げるものではない。
二 共犯者にして共同被告人たる甲、乙両名のある場合、甲を分離して乙のために甲を証人として尋問した後、更に併合の上、先に右甲が乙の証人としてなした証言を、甲の犯罪を認定する証拠としても、憲法第三八条第一項に違反しない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和35年9月9日 昭和32(あ)2338
登載
刑集 第14巻11号1477頁
参照法条
刑法38条,刑法60条,たばこ専売法29条2項,たばこ専売法71条5号,たばこ専売法77条,憲法38条1項,刑訴法143条,刑訴法146条,刑訴法313条
論点100第38条刑法

期待可能性がないことを理由とする上告の適否

裁判要旨被告人が判示の所為に出でないことを期待するのは不可能であつたと解すべきであるという主張は単なる法令違反の主張に過ぎず、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和32年2月19日 昭和29(あ)2311
登載
集刑 第117号1079頁
参照法条
刑法38条,刑訴法305条
論点101第38条刑法

犯人蔵匿罪の成立と法廷刑が罰金以上の刑であることの認識の要否

裁判要旨被告人において被蔵匿者が密入国者であることを認識してこれを蔵匿した以上、その刑が罰金以上であることの認識がなくても、犯人蔵匿罪が成立する。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和29年9月30日 昭和29(あ)546
登載
刑集 第8巻9号1575頁
参照法条
刑法103条,刑法38条1項,刑法38条3項,出入国管理令70条
論点102第38条刑法

一 申告事実の虚偽たることの未必的認識と誣告罪の成立の主観的要件
二 軽々になされた告発と誣告罪の成立

裁判要旨一 誣告罪が成立するためには、その主観的要件として申告者が申告した事実につき、その虚偽たることを確定的に認識していたことを必要とするものではなく、未必的な認識があれば足りる。
二 犯罪ありと思料して他人を告発した場合でも、告発者において告発した事実の虚偽たることにつき未必的な認識を有し、且つ右告発が極めて軽々になされたものであつて、その適法性を認めることができない以上、誣告罪の成立を妨げるものではない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和28年1月23日 昭和25(あ)475
登載
刑集 第7巻1号46頁
参照法条
刑法172条,刑法38条1項,刑訴法239条1項
論点103第38条刑法

一 犯意の成立と違法の認識
二 上告審において始めて期待可能性がないと主張した場合と上告理由の適否

裁判要旨一 被告人等の犯意は被告人等の買受けた本件物質の価格が公定価格を超えたものであることを被告人等において認識するによつて成立し、さらにその違法であることの認識を必要としないことは当裁判所昭和二四年(れ)第二〇〇六号第二六年一月三〇日第三小法廷判決(判例集五巻二号三七問頁)の趣旨に徴して明らかなところである。
二 原審においては、期待可能性がないとの主張がなく、原判決もこの点につき何等判示していないに拘らず、上告審において始めてかかる主張がなされた場合には、その論旨は結局原判示にそわない事実を前提とする主張に帰する。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和26年8月9日 昭和26(れ)700
登載
集刑 第51号595頁
参照法条
刑法38条1項3項,旧刑訴法409条,旧刑訴法360条2項
論点104第38条刑法

一 二回に収受した占領物資を所持する罪の罪数

二 被告人に不利益な主張と上告の適否

三 数回の取引に対して一括して統制額超過の謝礼を為した行為と罪数

四 違法の認識と犯意の成立

五 違法の認識を欠いていたという主張と旧刑訴法第三六〇条第二項

裁判要旨一 原判決はその事実摘示(第一審判決の記載引用)において、被告人Aが二回に亘つて占領軍兵士某から占領軍物資を収受して不法に所持した旨を判示しているが、二個の占領軍物資不法収受罪乃至同所持罪を認定したのではなく、包括して一個の同所持罪を認めたものであることがその判文上からおのづからわかる。論旨は原判決が二個の犯罪を認めたものと誤解し、誤解を前提として原判決を非難するものであるから、採用することができない。(なお二個の犯罪を認むべきであるという主張は被告人にとつて不利益な主張であるから適法な上告理由とならない)

二 原判決は(その引用する第一審判決第五の一において)、被告人Aが(イ)二回に亘りBより鮮魚等を統制額にて買受けるに際り杉下駄二百足を謝礼名義にて超過支払をした事実及び(ロ)三回に亘り右Bより鮮魚等を統制額にて買受けるに際り協力金又は謝礼金名義にて金二万円を超過支払をした事実を認定している、各一回の取引毎に各一個の犯罪があつたものとしたのではなく(イ)の二回の取引につき杉下駄二百を贈与したとき並に(ロ)の三回の取引につき現金二万円を交付したときそれぞれ各一罪が成立したものとした趣旨が窺われる。

三 所論のように進駐軍の一兵士が本件物資は占領軍の払下品であるという証明書を交付したからとて、それだけで昭和二二年政令第一六五号第一条第一項〈国内犯〉にいはゆる「公に認められた場合に」にあたるものでないことは論をまたずして明かである。仮りに被告人が所論のような事情によつて公に認められた場合に該当すると信じたとしても、それは結局違法の認識を欠いていたというに過ぎない。しかるに違法の認識を欠いたからとて、犯意の成立を妨げるものでもなく、罪責を左右するものでないことは、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第二〇二号同年七月一四日大法廷判決、昭和二四年(れ)第二二七六号二五年一一年二八日第三小法廷決定)に徴して明らかである。

四 進駐軍兵士が占領軍の払下品であるという証明を交付したから被告人は本件物件は払下品と思つて買受けたので無罪の判決を願うとの主張は前記のように結局違法の認識を欠いていたという主張に外ならないから、旧刑訴法第三六〇条第二項にいわゆる法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張ではない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和26年8月28日 昭和26(れ)485
登載
集刑 第51号1101頁
参照法条
旧刑訴法409条,旧刑訴法411条,旧刑訴法360条2項,刑法45条,刑法38条3項,物価統制令3条
論点105第38条刑法

毀棄並びに窃盗罪について犯意を欠く一事例(非刑罰放棄の錯誤は犯意を阻却するか)

裁判要旨被告人が飼犬証票なく且つ飼主分明ならざる犬は無主犬と看做す旨の警察規則を誤解した結果鑑札をつけていない犬は他人の飼犬であつても直ちに無主の犬と看做されるものと誤信し他人所有の犬を撲殺し、その皮を剥いだ場合は器物毀棄並びに窃盗罪の犯意を欠く。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和26年8月17日 昭和25(れ)1242
登載
刑集 第5巻9号1789頁
参照法条
刑法38条1項,刑法38条3項,刑法235条,刑法261条
論点106第38条刑法

公正証書原本不実記載同行使罪の犯意を欠く一事例(非刑罰法規の錯誤は犯意を阻却するか)

裁判要旨連合国最高司令部の昭和二〇年一〇月四日附覚書「政治的社会的及び宗教的自由に対する制限除去の件」により宗教団体法及び同法に基くA寺寺院規則が失効したものと信じ右規則に定むる手続によらずして同寺の新総代を選任し、これら新総代によつて従来の同寺寺院規則の廃止、新寺院規則の制定を決議させこれに基いて区裁判所備付の寺院登記簿に同等の所属宗派並に教義の大要について変更登記をさせた場合に、右従来の寺院規則が失効したものではなく、従つて右変更登記事項が虚偽の不実のものであるとしても犯人が右寺院規則が失効したものと信じて為したものである以上変更登記事項の虚偽であることについては認識を欠き刑法第一五七条第一項の罪は成立しない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和26年7月10日 昭和26(れ)168
登載
刑集 第5巻8号1411頁
参照法条
刑法38条1項,刑法157条1項,刑法158条1項,宗教法人令6条,宗教法人令2項
論点107第38条刑法

一 法令の不和と犯意の成立
二 犯罪の情状に関する主張に過ぎない期待不可能の主張

裁判要旨一 法令の不和と犯意の成立を阻却しないことはいうまでもないところであるし、しかも、被告人が本件犯行当時判示の所為が違法であることを知つていたことは原審公廷における所論引用の裁判長の「幽霊人員を作つて配給を受けるということは悪いと言う事は判つていたね」の問に対し被告人の「はい承知して居りました」の供述に照らしてたやすく容認しえられるところであつて、右供述を本件が問題となつてからの判断であるとする所論は独自の見解に過ぎないものといわなければならない。
二 なお所論被告人に本件犯行をしないことを期待できないとの主張は犯罪の情状に関し、毫も犯罪の成立に関係のないものであることその主張自体で明白であつて、原新でも主張しなかつたのであるから原判決がこれにつき審理も判断もしないのは当然であつて論旨は結局原判決の事実認定を非難するに帰し上告適法の理由とならぬ。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和26年1月25日 昭和25(れ)1559
登載
集刑 第39号671頁
参照法条
刑法38条3項,旧刑訴法360条2項,旧刑訴法409条
論点108第38条刑法

一 犯意の成立と違法の認識
二 物価統制令第三条第一項違反の罪につき犯罪後統制額が取引価格より高価に改正指定された場合と刑の廃止

裁判要旨一 原判決は、弁護人の「当時被告人において進駐軍の許可があり違法でないものと信じていたものであるから、犯意を欠き罪とならないものである旨」の主張に対し、所論のごとく当時被告人は判示超過価格による精米の売買につき違法の認識を有しなかつたと断じながら右は通常人としての注意を著しく欠き判示超過価格による精米の売買が法律上許容されたものであると信じたことにつき明らかに過失があるものというべきであるから、被告人に犯意がなかつたものとして物価統制令違反の罪責を否定することは到底できないと説示したことは所論のとおりである。
しかし、犯意があるとするためには犯罪構成要件に該当する具体的事実を認識すれば足り、その行為の違法を認識することを要しないものである(昭和二四年(れ)第二二七六号同二五年一一月二八日第三小法廷判決刑事判例集四巻一二号二四六三頁、昭和二五年(れ)第一三三九号同年一二月二六日同小法廷判決同判例集二六二七頁以下参照)。
二 しかし、物価統制令四条に基き指定された統制額違反の犯罪については、行為当時の告示によるべきものである。従つて、犯罪当時の統制額を指定した告示がその後屡々改正され、行為当時の売渡価格よりも高価に指定されるに至つても、既に成立した犯罪の刑罰を廃止するものではないから、所論は採用し難い。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和26年11月15日 昭和24(れ)1694
登載
刑集 第5巻12号2354頁
参照法条
刑法38条,物価統制令3条1項,旧刑訴法363条2号
論点109第38条刑法

一 削除又は挿入の部分に裁判所書記の捺印を欠いた調書の効力
二 法の不知と毀棄罪の成立

裁判要旨一 調書中削除又は挿入の部分に裁判所書記の捺印を欠いても、これがために右調書の無効を来たすものではない。
二 耕作権があるから法律上許されるものと信じていたとしても、いやしくも他人の植えつけた稲苗であることを認識しながらこれを抜き取つた行為は、毀棄の罪に該当する。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和25年5月26日 昭和24(オ)54
登載
民集 第4巻5号191頁
参照法条
民訴法143条,刑法38条,刑法261条
論点110第38条刑法

一 憲法第三八條第三項刑訴應急措置法第一〇條第三項の自白に補強證據を要するとする法意
二 犯罪事實の一部の證據が被告人の自白だけである場合と補強證據
三 賍物罪の成立に必要な賍物たることの認識の程度
四 罰金を完納できない者に對する勞役場留置とその金錢的換價率
五 金千圓の罰金不完納による勞役場留置期間を一日金二〇圓と定めたことの合憲性

裁判要旨一 憲法第三八條第三項及び刑訴應急措置法第一〇條第三項において「自己に不利益な唯一の證據が本人の自白である場合には有罪とされ」ないと規定した法意は、現實には犯罪が行われていないのに、被告人の架空は自白によつて犯罪が行われた如く虚構されて有罪とされる危險を防止するために、被告人を有罪とするには、自白のほかに自白の眞實に合致することを裏書するに足りる他の證據(補強證據)を必要とする趣旨を明らかにしたものである。
二 他の證據によつて犯罪が現實に行われた客觀的事實が裏書されて自白が架空のものでないことが確められる限り、たとい犯罪事實の一部の證據が被告人の自白だけであつてもこれらの證據と相まつて自白により犯罪事實を認定することは、法の許容するところと云わなければならない(昭和二二年(れ)第一五三號同二三年六月九日當裁判所大法廷判決參照)
三 贓物に關する罪の成立に必要な贓物たることの知情は、財産罪により不法に領得された物であることを認識すれば足りるのであつて、その物が何人のいかなる犯行によつて不法に領得されたかの具体的事實までをも認識することを要するものではない。
四 罰金刑の言渡を受けた者が罰金を完納することができない場合の勞役場における留置は、刑の執行に準ずべきものであるから(舊刑訴第五六五條、刑訴五〇五條)留置一日に相應する金錢的換價率は、必ずしも自白な社會における勤勞の報酬額と同率に決定されるべきものではない。
五 原審が被告人兩名において金千圓の罰金を完納することができないときは金二〇圓を一日に換算した期間被告人等を勞役場に留置すると言渡したことは、基本的人權と法の下における國民の平等を保障した憲法第一一條に反するものではない。
裁判
最高裁判所大法廷 昭和24年10月5日 昭和23(れ)1426
登載
刑集 第3巻10号1646頁
参照法条
憲法38条3項,憲法11条,刑訴応急措置法10条3項,刑法256条,刑法38条2項,刑法18条1項4項,刑法18条,旧刑訴法565条
論点111第38条刑法

公衆浴場法八条一号の無許可営業罪における無許可営業の故意が認められないとされた事例

裁判要旨会社代表者が、実父の公衆浴場営業を会社において引き継いで営業中、県係官の教示により、当初の営業許可申請者を実父から会社に変更する旨の公衆浴場業営業許可申請事項変更届を県知事宛に提出し、受理された旨の連絡を県議を通じて受けたため、会社に対する営業許可があつたと認識して営業を続けていたときは、公衆浴場法八条一号の無許可営業罪における無許可営業の故意は、認められない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成元年7月18日 昭和60(あ)1591
登載
刑集 第43巻7号752頁
参照法条
刑法38条1項,公衆浴場法2条1項,公衆浴場法8条1号,公衆浴場法11条
論点112第38条刑法

覚せい剤輸入罪及び所持罪における覚せい剤であることの認識の程度

裁判
最高裁判所第二小法廷 平成2年2月9日 平成1(あ)1038
登載
集刑 第254号99頁
参照法条
刑法38条1項,覚せい剤取締法41条1項1号,覚せい剤取締法13条,覚せい剤取締法41条の2第1項1号,覚せい剤取締法14条
論点113第38条刑法

1 座席の一部が取り外されて現実に存する席が10人分以下となったが乗車定員の変更につき自動車検査証の記入を受けていない自動車と道路交通法上の大型自動車
2 座席の一部が取り外されて現実に存する席が10人分以下となった大型自動車を普通自動車免許で運転することが許されると思い込んで運転した者に無免許運転の故意が認められた事例

裁判要旨1 乗車定員が11人以上である大型自動車の座席の一部が取り外されて現実に存する席が10人分以下となった場合においても,乗車定員の変更につき国土交通大臣が行う自動車検査証の記入を受けていないときは,当該自動車はなお道路交通法上の大型自動車に当たる。
2 座席の一部が取り外されて現実に存する席が10人分以下となった大型自動車を普通自動車免許で運転することが許されると思い込んで運転した者が,そのような席の状況を認識していたなど判示の事実関係の下においては,運転者に無免許運転の故意が認められる。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成18年2月27日 平成17(あ)1743
登載
刑集 第60巻2号253頁
参照法条
(1,2につき)道路交通法3条,道路交通法施行規則2条,道路運送車両法67条1項 (2につき)刑法38条1項,3項,道路交通法64条,道路交通法117条の4
論点114第38条刑法

1 被害者を失神させた上自動車ごと海中に転落させてでき死させようとした場合につき被害者を失神させる行為を開始した時点で殺人罪の実行の着手があるとされた事例
2 いわゆる早過ぎた結果の発生と殺人既遂の成否

裁判要旨1 クロロホルムを吸引させて失神させた被害者を自動車ごと海中に転落させてでき死させようとした場合において,クロロホルムを吸引させて失神させる行為が自動車ごと海中に転落させる行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠であり,失神させることに成功すれば,それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったなど判示の事実関係の下では,クロロホルムを吸引させる行為を開始した時点で殺人罪の実行の着手があったと認められる。
2 クロロホルムを吸引させて被害者を失神させた上自動車ごと海中に転落させるという一連の殺人行為に着手して,その目的を遂げた場合には,犯人の認識と異なり,海中に転落させる前の時点でクロロホルムを吸引させる行為により被害者が死亡していたとしても,殺人の故意に欠けるところはなく,殺人の既遂となる。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成16年3月22日 平成15(あ)1625
登載
刑集 第58巻3号187頁
参照法条
刑法38条1項,刑法43条,刑法199条,刑法203条
論点115第38条刑法

自殺させて保険金を取得する目的で被害者に命令して岸壁上から自動車ごと海中に転落させた行為が殺人未遂罪に当たるとされた事例

裁判要旨自動車の転落事故を装い被害者を自殺させて保険金を取得する目的で,極度に畏怖して服従していた被害者に対し,暴行,脅迫を交えつつ,岸壁上から車ごと海中に転落して自殺することを執ように要求し,被害者をして,命令に応じて車ごと海中に飛び込む以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせていたなど判示の事実関係の下においては,被害者に命令して岸壁上から車ごと海中に転落させた行為は,被害者において,命令に応じて自殺する気持ちがなく,水没前に車内から脱出して死亡を免れた場合でも,殺人未遂罪に当たる。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成16年1月20日 平成14(あ)973
登載
刑集 第58巻1号1頁
参照法条
刑法38条,刑法199条,刑法202条,刑法203条
論点116第38条刑法

自動車の保管場所の確保等に関する法律11条2項2号〈死刑〉,17条2項2号〈科料〉の罪の主観的要件

裁判要旨自動車の保管場所の確保等に関する法律11条2項2号〈死刑〉,17条2項2号〈科料〉の罪が成立するためには,行為者が,駐車開始時又はその後において,法定の制限時間を超えて駐車状態を続けることを,少なくとも未必的に認識することが必要である。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成15年11月21日 平成15(あ)93
登載
刑集 第57巻10号1043頁
参照法条
刑法38条1項,自動車の保管場所の確保等に関する法律11条2項2号,自動車の保管場所の確保等に関する法律17条2項2号
論点117第39条刑法

精神分裂病者と責任能力

裁判要旨被告人が犯行当時精神分裂病に罹患していたからといつて、そのことだけで直ちに被告人が心神喪失の状態にあつたとされるものではなく、その責任能力の有無・程度は、被告人の犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様等を総合して判定すべきである。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和59年7月3日 昭和58(あ)1761
登載
刑集 第38巻8号2783頁
参照法条
刑法39条
論点118第39条刑法

一 心神喪失又は心神耗弱の判断の性質
二 責任能力判断の前提となる生物学的要素及び心理学的要素についての判断権

裁判要旨一 刑法三九条〈心神喪失及び心神耗弱〉にいう心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは法律判断であつて、専ら裁判所に委ねられるべき問題である。
二 刑法三九条にいう心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかの法律判断の前提となる生物学的、心理学的要素についての評価は、右法律判断との関係で究極的には裁判所に委ねられるべき問題である。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和58年9月13日 昭和58(あ)753
登載
集刑 第232号95頁
参照法条
刑法39条,刑訴法165条,刑訴法317条,刑訴法318条
論点119第39条刑法

被告人の責任能力について事実誤認の疑いがあるとされた事例

裁判要旨被告人の精神分裂病の既往歴、犯行時の右疾病による欠陥状態(人格水準低下、感情鈍麻)の存在、犯行の動機についての妄想の関与及び犯行に際しての奇異な行動など(判文参照)の事情がうかがわれる本件においては、犯行が精神分裂病の寛解期にされたことのほか、犯行の動機の存在、犯行の計画性、犯行後の証拠隠滅工作を含む一連の行動を重視し、是非善悪の判断が可能な精神状態にあつた旨の鑑定意見を裏付けとして、被告人の精神状態の著しい欠陥、障害はなかつたものと認めた原判決は、被告人の限定責任能力を認めなかつた点において事実を誤認した疑いがあり、破棄を免れない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和53年3月24日 昭和50(あ)1159
登載
刑集 第32巻2号408頁
参照法条
刑法39条2項,刑訴法411条3号
論点120第39条刑法

妄想症(パラノイヤ)をもつ精神病質者による傷害等の犯行につき、心神耗弱の主張が排斥された事例

裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和52年7月20日 昭和52(あ)588
登載
集刑 第205号227頁
参照法条
刑法39条1項
論点121第39条刑法

酒酔い運転につき刑法第三九条第二項の適用がないとされた事例

裁判要旨酒酔い運転の行為当時に飲酒酩酊により心神耗弱の状態にあつたとしても、飲酒の際酒酔い運転の意思が認められる場合には、刑法第三九条第二項〈心神喪失及び心神耗弱〉を適用して刑の減軽をすべきではない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和43年2月27日 昭和42(あ)1814
登載
刑集 第22巻2号67頁
参照法条
刑法39条2項,道路交通法117条の2第1号,道路交通法118条1項2号(昭和39年法律91号による改正前のもの)
論点122第39条刑法

責任能力の存在が必要とされる時期

裁判要旨責任能力は、行為の時に存在すれば足り、必ずしも結果発生の時まで存続しなければならないものではない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和43年10月17日 昭和42(あ)2905
登載
集刑 第169号125頁
参照法条
刑法39条
論点123第39条刑法

第二審判決と不利益変更の禁止。

裁判要旨所論は、原判決は刑訴法第四〇二条の定める不利益変更禁止の原則に違反するとして、判例違反を主張するが、本件強盗殺人の法定刑のうち、第一審は無期懲役刑を選択、処断したものであるのに対し原審は死刑を選択し、第一審の認めなかつた被告人の犯行当時における心神耗弱の事実を認め、法定減軽の上無期懲役刑を宣告したものであることは各判文に徴して明らかである。従つて第一審判決、原判決の各宣告刑はいづれも無期懲役刑であつて、後者が前者の刑より重い刑を言渡したという関係にはないのであり、刑訴法第四〇二条に違反するかどうかは、言渡刑について判断すべきものであるから、右各選択の比較のみに頼つて原判決を非難する所論は失当である(昭和二三年(れ)第七四八号同年一一月一六日第三小法廷判決、刑集二巻一二号一五四三頁参照)。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和39年7月14日 昭和39(あ)61
登載
集刑 第152号247頁
参照法条
刑訴法402条,刑法10条,刑法39条,刑法68条
論点124第39条刑法

控訴審が検察官の量刑不当を理由とする控訴趣意を認めて第一審判決を破棄し自判する場合と第一審における心神耗弱の主張に対する判断の要否。

裁判要旨第一審判決の量刑軽きにすぎるとして検察官から控訴の申立がなされた事件において、控訴審が右量刑の点のみについて判断し、第一審判決を破棄して自判する場合には、第一審において弁護人からなされた心神耗弱の主張については判断を加えなくても違法ではない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和36年11月9日 昭和36(あ)10
登載
刑集 第15巻10号1696頁
参照法条
刑訴法355条2項,刑法39条2項
論点125第39条刑法

刑訴法第四一一条にあたらない事例―心神耗弱の主張に対する判断遺脱。

裁判要旨弁護人の上告趣意第一点につき記録を調べて見ると原審弁護人は控訴趣意第一点において被告人のAに対する所為は心神耗弱に出たものであることを主張したにかかわらず原判決がこれに対し何等判断を示さなかつたことは違法たるを免れない。しかし、被害者Aに対する供述調書によれば、かかる主張事実を認められないから、右の違法は、原判決を破棄しなければ、著しく正義に反するものとは認められない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和36年11月30日 昭和36(あ)1761
登載
集刑 第140号301頁
参照法条
刑訴法411条1号,刑訴法335条2項,刑法39条2項
論点126第39条刑法

心神喪失の状態にあつたものとすることはできないとした事例−智能年令との関係。

裁判要旨被告人の智能年令が、本件犯行当時九歳ないし一一歳相当であつたとしても、そのため直ちに被告人が心神喪失の状態にあつたものとすることはできない旨の原判示は、相当である。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和36年10月31日 昭和36(あ)1867
登載
集刑 第139号813頁
参照法条
刑法39条,刑訴法318条
論点127第39条刑法

一 再審を開始するか否かの手続は憲法にいう「裁判の対審」か
二 刑訴法第四三五条第六号の「明らかな証拠」の意義
三 同号の「原判決において認めた罪より軽い罪」の意義

裁判要旨一 確定判決に対する再審を開始するか否かの手続は、憲法にいう「裁判の対審」に当たらない
二 刑訴法第四三五条第六号にいう「明らかな証拠」というのは証拠能力もあり証明力も高度のものをいい、被告人が弁護人に宛てた書信の如きを含まない
三 同条同号の「原判決において認めた罪より軽い罪」というのは法定刑の軽い罪をいい、心神耗弱の主張を含まない
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和33年5月27日 昭和33(し)14
登載
刑集 第12巻8号1683頁
参照法条
憲法37条1項,憲法82条1項,刑訴法435条6号,刑訴法445条,刑法39条2号,刑訴規則283条
論点128第39条刑法

心神耗弱と認めたことが経験則に違反しない事例

裁判要旨二つの精神鑑定書の各結論の部分に、いずれも、被告人が犯行当時心神喪失の情況にあつた旨の記載があつても、其部分を採用せず、右鑑定書全体の記載内容とその他の情況証拠とを綜合して、心神耗弱の事実を認定することは、必ずしも経験則に反するとはいえない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和33年2月11日 昭和31(あ)721
登載
刑集 第12巻2号168頁
参照法条
刑訴法317条,刑訴法318条,刑訴法411条1号,刑訴法165条,刑法39条
論点129第39条刑法

一 公文書偽造罪の判示として正当と認められる一事例

二 偽造外食券の形式外観
三 心神耗弱の主張に対する判断の遺脱は絶対的控訴理由となるか
四 右判断遺脱は訴訟手続の法令違反として常に判決に影響するか

裁判要旨一 原判決が「第一院判決挙示の証拠によると、同判示の偽造公文書は、いずれも、当該公文書の信用を害する危険がある程度の形式外観を具えていることが認められる」旨の判示並びに『第一審判決の判示各偽造外食券に「当該地方食糧配給公団名及び交付配給所名のなつ印」の要求されるのは、整理上交付配給所を明らかにするためで、これを欠くからといつて外食券でないという趣旨ではないと解すべき』旨の判示は、いずれも正当であると認められる。
二 原判決が、所論のごとく第一審判決が心神耗弱の主張に対し、判断をしなかつた違法を認めながら、所論のごとき理由をもつて判決に影響を及ぼさないとして弁護人の主張を排斥したこと、並びに、所論各高裁の判決がかかる違法は判決に影響を及ぼすこと明らかである旨判示したことは、所論のとおりである。従つて、原判決は、右各高等裁判所の判例に違反したものといわなければならない。しかし当裁判所第三小法廷は、原判決後昭和二八年五月一二日原判決と同趣旨に出た昭和二六年九月一三日の東京高等裁判所の判決を是認して、判断遺脱があつても常に必ずしも判決に影響を及ぼさない旨判示しているのである(判例集七巻五号一〇一一頁以下参照)。そして、当法廷においても右の判断を正当と考える。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和31年12月27日 昭和28(あ)2055
登載
集刑 第116号555頁
参照法条
刑法155条,刑法39条2項,刑訴法44条,刑訴法335条1項,刑訴法335条2項,刑訴法378条4号,刑訴法379条
論点130第39条刑法

控訴審の破棄自判の判決が心神喪失もしくは心神耗弱の主張に対し判断を遺脱した違法と刑訴第四一一条第一号

裁判要旨控訴審の破棄自判の判決が、心神喪失もしくは心神耗弱の主張に対し判断を示さなかつた場合は、刑訴第四〇四条、第三三五条第二項に違反するけれども、同第四一一条第一号によりこの法令違反が判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる場合に破棄せられるにとどまる。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和31年12月25日 昭和29(あ)1796
登載
集刑 第116号347頁
参照法条
刑訴法335条2項,刑訴法411条1号,刑法39条
論点131第39条刑法

刑訴法第四〇〇条但書に違反する一事例

裁判要旨第一審裁判所が鑑定その他の証拠調をした上、被告人には是非善悪を弁別しこれに基いて行動する能力があると認めるに足る精神状態の存在は認められないから被告人は犯行当時心神喪失の状態にあつたとして無罪の判決を言渡したのに、控訴審が何ら事実の取調をしないで訴訟記録および第一審裁判所で取り調べた証拠だけによつて第一審判決を破棄し、自ら被告人は犯行当時心神耗弱の状態に在つたものとして有罪の判決を言い渡すのは刑訴第四〇〇条但書の許さないところである。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和31年12月14日 昭和28(あ)2891
登載
刑集 第10巻12号1655頁
参照法条
刑法39条,刑訴法400条但書
論点132第39条刑法

責任能力と訴訟能力との関係

裁判要旨第一審において汽車顛覆未遂被告事件において精神分裂症と鑑定され、心神耗弱と認定されたからといつて、その控訴取下の訴訟能力のない者の無効な行為であるということはできない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和29年7月30日 昭和29(し)41
登載
刑集 第8巻7号1231頁
参照法条
刑法39条,刑訴法第3章,刑訴法502条
論点133第39条刑法

一 心神耗弱者に実刑を科する場合には必ず刑の執行を猶予しなければならないか
二 刑訴法第四〇二条に違反しない事例

裁判要旨一 所論第一点は憲法三六条、一一条、一三条を引用して原判決の憲法違反をいうけれども結局量刑の非難であつて上告適法の理由にならない。若し刑の執行により著るしく健康を害する事情にあれば刑訴四八二条一号により刑の執行を停止することができるのであつて、犯行時心神耗弱の状態にあつたからといつて必ず刑の執行を猶予しなければならないものではない。
二 心神障碍あるにより、軽減されたしとの控訴趣意を理由ありとして一審判決を破棄し乍ら同一の刑に処したのは理由不備、刑訴四〇二条違反というのであるが、原判決は心神耗弱の点は理由があるが、未だ執行猶予を与うべきものでないと判断したこと明らかでそこに何ら理由のくいちがいもなく、また第一審判決より重い刑を言い渡したのでないから、刑訴四〇二条に違反するものでもない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和29年12月24日 昭和29(あ)2962
登載
集刑 第101号951頁
参照法条
刑法39条2項,刑法25条,刑訴法482条1号,刑訴法402条
論点134第39条刑法

一 麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号)第四条第四号後段にいわゆる「麻薬中毒のため自制心を失うこと」の意味
二 麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号)第四条第四号後段違反の罪と原因において自由なる行為

裁判要旨一 麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号)第四条四号後段にいわゆる「麻薬中毒のため自制心を失うこと」というのは、単なる自制心喪失という精神状態をいうのではなく、麻薬の連続使用により麻薬中毒の結果自制心を失つた行為がなされることをいう。
二 麻薬中毒のためなされた自制心を失つた行為は、その当時行為者において責任能力がなくても、麻薬を連続して使用する際責任能力があり、且つその連続使用により麻薬中毒症状に陥ることについての認識(未必の認識)があれば、いわゆる原因において自由な行為として、麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号)第四条第四号後段違反の罪に該当するのであつて、その行為は必ずしも他の犯罪に該当するものであることを要しない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和28年12月24日 昭和25(あ)2985
登載
刑集 第7巻13号2646頁
参照法条
麻薬取締法(昭和22年法律123号)4条4号,麻薬取締法(昭和22年法律123号)60条,刑法8条,刑法39条
論点135第39条刑法

1 妄想性障害に罹患していた被告人が実行した殺人,殺人未遂等の事案につき,事理弁識能力及び行動制御能力が著しく低下していたとまでは認められないとする原判決が是認された事例
2 死刑の量刑が維持された事例(加古川8人殺傷事件)

裁判
最高裁判所第二小法廷 平成27年5月25日 平成25(あ)729
登載
集刑 第317号1頁
参照法条
刑法39条
論点136第39条刑法

1 精神鑑定の意見の一部を採用した場合と責任能力の有無・程度の判断
2 責任能力の有無・程度について原判決の判断手法に誤りがないとされた事例

裁判要旨1 裁判所は,特定の精神鑑定の意見の一部を採用した場合においても,責任能力の有無・程度について,当該意見の他の部分に拘束されることなく,被告人の犯行当時の病状,犯行前の生活状態,犯行の動機・態様等を総合して判定することができる。
2 精神医学者の精神鑑定における意見のうち被告人が心神喪失の状態にあったとする部分を前提資料や推論過程に疑問があるとして採用せず,責任能力の有無・程度について,被告人の犯行当時の病状,犯行前後の言動や犯行の動機,従前の生活状態から推認される人格傾向等を総合考慮して,統合失調症による病的体験と犯行との関係,被告人の本来の人格傾向と犯行との関連性の程度等を検討し,被告人が心神耗弱の状態にあったと認定した原判決の判断手法に誤りはない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成21年12月8日 平成20(あ)1718
登載
刑集 第63巻11号2829頁
参照法条
(1,2につき)刑法39条
論点137第39条刑法

1 責任能力判断の前提となる精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度について,精神医学者の鑑定意見等が証拠となっている場合における,裁判所の判断の在り方
2 統合失調症による幻覚妄想の強い影響下で行われた行為について,正常な判断能力を備えていたとうかがわせる事情があるからといって,そのことのみによって被告人が心神耗弱にとどまっていたと認めるのは困難とされた事例

裁判要旨1 責任能力判断の前提となる生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度について,専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には,鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり,鑑定の前提条件に問題があったりするなど,これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り,裁判所は,その意見を十分に尊重して認定すべきである。
2 統合失調症の幻覚妄想の強い影響下で行われた本件傷害致死の行為(判文参照)について,それが犯罪であることを認識し,後に自首しているなど,一般には正常な判断能力を備えていたことをうかがわせる事情があるからといって,そのことのみによって,その行為当時,被告人が心神喪失ではなく心神耗弱にとどまっていたと認めることは困難である。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成20年4月25日 平成18(あ)876
登載
刑集 第62巻5号1559頁
参照法条
(1,2につき)刑法39条
論点138第40条刑法

刑法第四〇条〈削除〉にいう「・唖者」に該当しない一事例

裁判要旨聴能は後天的の傷害があるために自由ではないが、言語機能には障害がない者は、刑法第四〇条〈削除〉にいう「・唖者」とはいえない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和28年5月29日 昭和27(あ)6731
登載
刑集 第7巻5号1192頁
参照法条
刑法40条
論点139第41条刑法

是非弁別能力を有する刑事未成年者を利用して窃盗を行つた者につき窃盗の間接正犯が成立するとされた事例

裁判要旨自己の日頃の言動に畏怖し意思を抑圧されている一二歳の養女を利用して窃盗を行つたと認められる判示の事実関係のもとにおいては、たとえ同女が是非善悪の判断能力を有する者であつたとしても、右利用者につき窃盗の間接正犯が成立する。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和58年9月21日 昭和58(あ)537
登載
刑集 第37巻7号1070頁
参照法条
刑法41条,刑法60条,刑法61条,刑法235条
論点140第41条刑法

刑事未成年者に指示命令して強盗を実行させた者につき強盗の共同正犯が成立するとされた事例

裁判要旨A子が生活費欲しさから強盗を計画し,12歳10か月の長男Bに指示命令して強盗を実行させた場合においても,当時Bには是非弁別の能力があり,A子の指示命令はBの意思を抑圧するに足る程度のものではなく,Bは自らの意思によりその実行を決意した上,臨機応変に対処して強盗を完遂し,Bが奪ってきた金品をすべてA子が領得したなど判示の事実関係の下では,A子につき強盗の間接正犯又は教唆犯ではなく共同正犯が成立する。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成13年10月25日 平成12(あ)1859
登載
刑集 第55巻6号519頁
参照法条
刑法41条,刑法60条,刑法61条,刑法236条1項
論点141第42条刑法

刑法四二条一項〈自首等〉の自首が成立するとされた事例

裁判要旨運転を誤つて自動車を海中に転落させ同乗者を負傷させる事故を起こした者が、警察官の取調べに対し、いつたんは、同乗者がいなかつたと嘘をいい、業務上過失傷害罪の嫌疑が自己に及ぶことを妨げたという事情があつたとしても、その後、右罪が官に発覚する前に、これを自ら進んで警察官に申告したときは、自首が成立する。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和60年2月8日 昭和58(あ)1777
登載
刑集 第39巻1号1頁
参照法条
刑法42条1項
論点142第42条刑法

原判決には被告人の自首を認めなかつた誤りがあるが破棄しなければ著しく正義に反するとはいえないとされた事例

裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和48年3月29日 昭和47(あ)2025
登載
集刑 第186号503頁
参照法条
刑法42条1項,刑訴法411条
論点143第42条刑法

ある罪について逮捕勾留中の被疑者が官に発覚していない同種の余罪を自発的に供述した場合と自首の成否

裁判要旨A窃盗事実について逮捕勾留中の被疑者が、BないしEの窃盗の各事実について、犯人の何人たるかは勿論、犯罪事実さえ全く官に発覚していない時期に、自発的に供述した時は自首が成立する。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和42年2月20日 昭和41(あ)2421
登載
集刑 第162号441頁
参照法条
刑法42条
論点144第42条刑法

自首があつたとの主張と刑訴法第三三五条第二項

裁判要旨自首があつたとの主張は、刑訴第三三五条第二項の主張にあたらない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和32年7月18日 昭和31(あ)4723
登載
刑集 第11巻7号1880頁
参照法条
刑法42条1項,刑訴法335条2項
論点145第42条刑法

法律上の自首にあたらない一事例

裁判要旨被告人が犯行後自首するため直ちに現場を出発して警察署に出頭し自己の犯行を司法警察員に申告しても、被告人の到着前、電話で当該犯罪事実および犯人は被告人らしい旨司法警察員に通報があつた場合には、被告人の右申告は法律上の自首にあたらない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和32年1月22日 昭和31(あ)3741
登載
集刑 第117号359頁
参照法条
刑法42条
論点146第42条刑法

刑法第四二条第一項〈自首等〉の刑の減軽と刑訴法第三三五条第二項にいう法律上刑の減免の理由となる事実

裁判要旨刑法四二条一項〈自首等〉の刑の減軽は、裁判所の裁量に属する事項であつて、刑訴三三五条二項に所謂法律上刑上刑の減免の理由となる事実には当らない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和31年6月21日 昭和31(あ)93
登載
集刑 第113号829頁
参照法条
刑法42条1項,刑訴法335条2項
論点147第42条刑法

判例と相反する判断が判決に影響しない一事例

裁判要旨犯罪さえ発覚すれば犯人の誰であるかが判明しなくても刑法第四二条第一項「官ニ発覚セサル前」ではあり得ないとの判断は、「官ニ発覚セサル前」とは犯罪の発覚前または犯人の誰であるかが、判明しない前を意味するとする当裁判所の判例(刑集三巻六号七二一頁)と相反する判断をしたことになるが、原審のこの判断が、職務質問に際し種々弁解した後に自供した場合は自首とはいえないとする判断の余論として判示されたに過ぎないときは、判決に影響しないこと明らかである。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和29年7月16日 昭和29(あ)1484
登載
刑集 第8巻7号1210頁
参照法条
刑法42条1項,刑訴法405条2号,刑訴法410条1項
論点148第42条刑法

自首があつたとの主張と刑訴第三三五条第二項

裁判要旨自首があつたとの主張は、刑訴第三三五条第二項の主張にあたらない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和28年8月18日 昭和27(あ)1264
登載
刑集 第7巻8号1737頁
参照法条
刑法42条1項,刑訴法335条2項
論点149第42条刑法

一、自首減軽と裁判所の自由裁量
一、自首調書を作成しないことと法令違背の有無

裁判要旨所論の如き旧刑訴法上の手続違反(自首調書を作成せざる)があつたとしても、それは原審の訴訟手続に関するものではないばかりでなく、自首減軽を為すべきか否かは原審が自由に決し得べきことであるから、真実被告人が自首したものであり且つ原審において自首減軽を相当と認めたならば所論調書の有無に拘わらず、自首の事実を認定して減軽することができるのである、従つて所論調書を作成しないからとて判決に影響すべき法令違背があるとはいえない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和26年4月24日 昭和25(れ)1620
登載
集刑 第44号431頁
参照法条
刑法42条,旧刑訴法276条,旧刑訴法273条,旧刑訴法411条
論点150第42条刑法

自首の事實の判示の要否

裁判要旨自首減輕を與へると否とは事實裁判所の專權に屬することで、之を與えない場合、特に自首の事實を判決に判示する必要はない。然らば原判決が被告人が自首した事實を摘示せず又之に關する法條を示さなかつたとしても何等違法はない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和23年4月10日 昭和22(れ)273
登載
刑集 第2巻4号330頁
参照法条
刑法42条,刑訴法360条2項
論点151第42条刑法

捜査機関への申告内容に虚偽が含まれていた事案につき刑法42条1項の自首が成立するとされた事例

裁判要旨けん銃を適合実包と共に携帯して所持し発射した者が,捜査機関に発覚する前に,これらの犯行に及んだことを捜査機関に申告した場合は,その際,使用したけん銃について虚偽の事実を述べるなどしたとしても,刑法42条1項〈自首等〉の自首が成立する。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成13年2月9日 平成12(あ)1006
登載
刑集 第55巻1号76頁
参照法条
刑法42条1項
論点152第42条刑法

捜査機関への申告内容に虚偽が含まれていた事案につき刑法42条1項の自首が成立しないとされた事例

裁判要旨被告人が,自宅で,被害者をその嘱託を受けることなく殺害した後,嘱託を受けて被害者を殺害した旨の虚偽の事実を記載したメモを遺体のそばに置いた状態で,自宅の外から警察署に電話をかけ,自宅に遺体があり,そのそばにあるメモを見れば経緯が分かる旨伝えるとともに,自宅の住所を告げ,その後,警察署において,司法警察員に対し,嘱託を受けて被害者を殺害した旨の虚偽の供述をしたという本件事実関係の下においては,刑法42条1項〈自首等〉の自首は成立しない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 令和2年12月7日 令和1(あ)1843
登載
刑集 第74巻9号757頁
参照法条
刑法42条1項
原

条文原文

原文ママ

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刑法 第35条(正当行為) 詳細ページ
(正当行為)
第三十五条法令又は正当な業務による行為は、罰しない。
刑法 第36条(正当防衛) 詳細ページ
(正当防衛)
第三十六条急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
刑法 第37条(緊急避難) 詳細ページ
(緊急避難)
第三十七条自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
2前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。
刑法 第38条(故意) 詳細ページ
(故意)
第三十八条罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
2重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
3法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。
刑法 第39条(心神喪失及び心神耗弱) 詳細ページ
(心神喪失及び心神耗弱)
第三十九条心神喪失者の行為は、罰しない。
2心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
刑法 第40条 詳細ページ
第四十条削除
刑法 第41条(責任年齢) 詳細ページ
(責任年齢)
第四十一条十四歳に満たない者の行為は、罰しない。
刑法 第42条(自首等) 詳細ページ
(自首等)
第四十二条罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
2告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置にゆだねたときも、前項と同様とする。
出

一次情報

原文ママ

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