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総則/通則

通則の条文と、裁判所が付した判示事項から整理しています。

原文解釈このページは論点を軸に条文と判例を横断して整理したものです。論点の名称と構成は当サイトの整理であり、条文上の区分ではありません。リード文・要点・比較表も当サイトによる解釈です。条文原文と判例の判示事項・裁判要旨は転記です。

民法の冒頭に置かれた基本原則を定める規定です。私権の行使は公共の福祉に適合させること、信義誠実に行うこと、権利の濫用が許されないことを定め、あわせて民法全体の解釈は個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として行うべきことを定めています。個別の契約や権利義務を直接規律する規定ではなく、あらゆる私法関係の解釈・適用の土台となる原則です。

通則
原則定める内容
公共の福祉(1条1項)私権の行使は公共の福祉に適合させる
信義誠実の原則(1条2項)権利行使・義務履行は信義に従い誠実に
権利濫用の禁止(1条3項)権利の濫用は許されない
解釈の基準(2条)個人の尊厳と両性の本質的平等を旨に解釈
  • 「信義誠実の原則」「権利濫用の禁止」は条文上の見出し・呼称であり、講学上の略称ではない
  • 第2条は民法の解釈基準を定めるものであり、個別の権利義務を新たに創設する規定ではない
  • 各原則は抽象的な定めであり、具体的な適用場面は条文自体には書かれていない
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通則

通則について、条文は何を定めているか。

第1条基本原則私権の行使に関する基本原則を定める3項判例 116件
  • 私権の行使は公共の福祉に適合させる(1項)
  • 権利行使・義務履行は信義に従い誠実に行う(2項)
  • 権利の濫用は認められない(3項)
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第2条解釈の基準個人の尊厳と両性の平等を解釈の指針とする1項判例 6件
  • 民法の規定は個人の尊厳を旨として解釈する
  • 民法の規定は両性の本質的平等を旨として解釈する
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論

主要な論点と判例

原文ママ

論点の見出しと結論は、裁判所が付した判示事項・裁判要旨をそのまま転記しています。文中の〈 〉内は条文の見出しを当サイトが補ったものです。

論点1第1条民法

有責配偶者からの離婚請求が長期間の別居等を理由として認容すべきであるとされた事例

裁判要旨有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が二八年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和63年4月7日 昭和62(オ)721
登載
集民 第154号1頁
参照法条
民法1条2項,民法770条
論点2第1条民法

有責配偶者からの離婚請求が長期間の別居等を理由として認容すべきであるとされた事例

裁判要旨有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が二二年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和63年2月12日 昭和62(オ)1001
登載
集民 第153号335頁
参照法条
民法1条2項,民法770条
論点3第1条民法

別居期間が約一〇年三か月でその間に未成熟の子がない夫婦につき有責配偶者からの離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情があるとはいえないとされた事例

裁判要旨約一〇か月の同居の後妻(昭和二三年生)が他の男性と同棲するため夫(同二五年生)と別居して以来約一〇年三か月が経過し、夫婦の間に未成熟の子がなく、夫は、主に感情的理由から婚姻の継続を望んでいるにすぎず、継続して外国航路の船のコツクとして働いているなど判示の事情のもとにおいては、夫婦の別居期間は双方の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及ぶというべきであり、しかも、有責配偶者たる妻からの離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情があるとはいえない。

(意見がある。)
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和63年12月8日 昭和62(オ)843
登載
集民 第155号209頁
参照法条
民法1条2項,民法770条
論点4第1条民法

一 長期間の別居と有責配偶者からの離婚請求

二 有責配偶者からの離婚請求が長期間の別居等を理由として認容すべきであるとされた事例

裁判要旨一 有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦がその年齢及び同居期間と対比して相当の長期間別居し、その間に未成熟子がいない場合には、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできない。

二 有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が三六年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。

(一につき補足意見、一、二につき意見がある。)
裁判
最高裁判所大法廷 昭和62年9月2日 昭和61(オ)260
登載
民集 第41巻6号1423頁
参照法条
民法1条2項,民法770条
論点5第1条民法

裁判上の和解調書に基づく強制執行が権利の濫用に当たらないものとされた事例

裁判要旨甲.乙間に土地の境界をめぐる紛争があり、乙が建築しようとした建物についての甲の申請にかかる建築工事禁止仮処分事件で甲・乙間に裁判上の和解が成立した場合において、右和解の趣旨.目的が、右仮処分申請当時、建築工事中の右建物の一部が甲主張の境界線を若干越えていたが、既に基礎工事が完成していたところから、既存の工事部分をできるだけ壊さないで利用できるようにするとともに、右建物と境界線との間に民法二三四条一項に従い五〇センチメートルの距離を保てるようにするため、互譲により形成されたA線をもつて境界とすることを相互に確認するとともに、乙は甲に対し右A線から五〇センチメートルの間隔を置いたB線とA線との間には建物を建築しないことを約するにあり、右和解目的の実現のため、乙が甲に対し和解成立当時既にB線を越えて設置されていた構築物を乙の費用負担において撤去することを約したにもかかわらず、乙が右和解成立後B線を越えて建物の建築を続行し、これを完成するに至つたなど判示の事情のもとにおいては、甲が、乙に対し、裁判上の和解調書中の右構築物撤去条項を債務名義とする強制執行として、B線を越えて建築された右構築物と一体をなす建物部分の撤去を求めることは、正当な権利の行使であつて、権利の濫用に当たるものではない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和62年7月16日 昭和59(オ)1368
登載
集民 第151号423頁
参照法条
民事執行法35条,民法1条2項,民法1条3項
論点6第1条民法

一 人格権又は条理を根拠とするいわゆる反論文掲載請求権の成否

二 新聞紙上における政党間の批判・論評の意見広告につき名誉毀損の不法行為の成立が否定された事例

裁判要旨一 新聞記事に取り上げられた者は、当該新聞紙を発行する者に対し、その記事の掲載により名誉毀損の不法行為が成立するかどうかとは無関係に、人格権又は条理を根拠として、右記事に対する自己の反論文を当該新聞紙に無修正かつ無料で掲載することを求めることはできない。

二 新聞社が新聞紙上に掲載した甲政党の意見広告が、乙政党の社会的評価の低下を狙つたものであるが乙政党を批判・論評する内容のものであり、かつ、その記事中乙政党の綱領等の要約等が一部必ずしも妥当又は正確とはいえないとしても、右要約のための綱領等の引用文言自体は原文のままであり、要点を外したものといえないなど原判示の事実関係のもとでは、右広告の掲載は、その広告が公共の利害に関する事実にかかり専ら公益を図る目的に出たものであり、かつ、主要な点において真実の証明があつたものとして、名誉毀損の不法行為となるものではない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和62年4月24日 昭和55(オ)1188
登載
民集 第41巻3号490頁
参照法条
憲法21条,民法1条,民法709条,民法710条,民法723条,刑法230条ノ2
論点7第1条民法

別居期間が三〇年に及びその間に未成熟の子がない夫婦につき有責配偶者からの離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情があるとはいえないとされた事例

裁判要旨夫が妻のもとを去つて既に別居期間が三〇年に及び夫婦の間に未成熟の子がなく、夫が現在妻の住んでいる住居の購入費を一部負担するなどの援助をし、妻は病気がちであるものの、年金収入により普通の生活をし、夫の再三の離婚申入れに対して結婚した以上は戸籍上の夫婦の記載を守り抜きたいという気持から拒否しつづけているなど判示の事情のもとにおいては、有責配偶者たる夫からの離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情があるとはいえない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和62年11月24日 昭和62(オ)584
登載
集民 第152号233頁
参照法条
民法1条2項,民法770条
論点8第1条民法

課税処分と信義則の適用

裁判要旨租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用による違法を考え得るのは、納税者間の平等公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合でなければならず、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たつては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示し、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになつたものかどうか、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責に帰すべき事由がないかどうか、という点の考慮が不可欠である。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和62年10月30日 昭和60(行ツ)125
登載
集民 第152号93頁
参照法条
国税通則法24条,所得税法1条,民法1条2項
論点9第1条民法

一 商法二四五条一項一号の営業譲渡契約が株主総会の特別決議を経ていないことにより無効である場合と譲受人がする右の無効の主張
二 営業譲渡契約が譲受会社にとつて商法一六八条一項六号〈定期金債権の消滅時効〉にいう財産引受に当たるのに原始定款に記載しなかつたことにより無効であるとの主張が信義則に反し許されないとされた事例
三 商法二四五条一項一号の営業譲渡契約が株主総会の特別決議を経ていないことにより無効であるとの譲受人の主張が信義則に反し許されないとされた事例

裁判要旨一 商法二四五条一項一号の営業譲渡契約が譲渡会社の株主総会の特別決議を経ていないことにより無効である場合には、譲受人もまた右の無効を主張することができる。
二 営業譲渡契約が譲受会社にとつて商法一六八条一項六号〈定期金債権の消滅時効〉にいう財産引受に当たるのに、これを譲受会社の原始定款に記載しなかつたことにより無効である場合であつても、譲渡人が営業譲渡契約に基づく債務をすべて履行済みであり、譲受会社も営業譲渡契約が有効であることを前提に譲渡人に対し自己の債務を承認して譲受代金の一部を履行し、譲り受けた製品、原材料等を販売又は消費し、しかも、譲受会社は契約後約九年を経て初めて右の無効の主張をするに至つたもので、その間、譲受会社の株主や債権者等が営業譲渡契約の効力の有無を問題にしたことがなかつたなど判示の事情があるときは、譲受会社が営業譲渡契約の無効を主張することは、信義則に反し、許されない。
三 商法二四五条一項一号の営業譲渡契約が譲渡会社の株主総会の特別決議を経ていないことにより無効である場合であつても、譲渡会社が営業譲渡契約に基づく債務をすべて履行済みであり、譲受人も営業譲渡契約が有効であることを前提に譲渡会社に対し自己の債務を承認して譲受代金の一部を履行し、譲り受けた製品、原材料等を販売又は消費し、しかも、譲受人は契約後約二〇年を経て初めて右の無効の主張をするに至つたもので、その間譲渡会社の株主や債権者等が営業譲渡契約の効力の有無を問題にしたことがなかつたなど判示の事情があるときは、譲受人が営業譲渡契約の無効を主張することは、信義則に反し、許されない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和61年9月11日 昭和56(オ)1094
登載
集民 第148号445頁
参照法条
商法168条1項6号,商法245条1項1号,民法1条2項
論点10第1条民法

一 出版物の印刷、製本、販売、頒布等の仮処分による事前差止めと憲法二一条二項前段にいう検閲
二 名誉侵害と侵害行為の差止請求権
三 公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関する出版物の印刷、製本、販売、頒布等の事前差止めの許否
四 公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めを仮処分によつて命ずる場合と口頭弁論又は債務者審尋

裁判要旨一 雑誌その他の出版物の印刷、製本、販売、頒布等の仮処分による事前差止めは、憲法二一条二項前段にいう検閲に当たらない。
二 名誉侵害の被害者は、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対して、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる。
三 人格権としての名誉権に基づく出版物の印刷、製本、販売、頒布等の事前差止めは、右出版物が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関するものである場合には、原則として許されず、その表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときに限り、例外的に許される。
四 公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めを仮処分によつて命ずる場合には、原則として口頭弁論又は債務者の審尋を経ることを要するが、債権者の提出した資料によつて、表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であり、かつ、債権者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があると認められるときは、口頭弁論又は債務者の審尋を経なくても憲法二一条の趣旨に反するものとはいえない。
裁判
最高裁判所大法廷 昭和61年6月11日 昭和56(オ)609
登載
民集 第40巻4号872頁
参照法条
憲法13条,憲法21条,民訴法757条2項,民訴法760条,民法1条ノ2,民法198条,民法199条,民法709条,民法710条,刑法230条ノ2
論点11第1条民法

商標法五一条一項の規定に基づく商標登録の取消の審判請求が信義則に反し許されない場合

裁判要旨商標権者甲のした自己の登録商標に類似する商標の使用が乙の業務に係る商品と混同を生ずるものであつても、右使用商標が甲乙間の裁判上の和解において乙が甲にその使用を認めたものであり、しかも、右和解において、乙が甲の登録商標に対する登録異議の申立を取り下げてそれが登録されることを認め、その対価として甲から和解金を受領し、その結果甲が右使用商標を継続して使用したという事実がある場合は、乙が商標法五一条一項に基づき右登録商標の登録を取り消すことについて審判を請求することは、信義則に反するものとして許されない。

(反対意見がある。)
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和61年4月22日 昭和58(行ツ)31
登載
集民 第147号587頁
参照法条
商標法51条1項,民法1条2項
論点12第1条民法

船舶所有者が被用者である船長に対しその加害行為により被つた損害についてする賠償又は求償の請求と信義則に基づくその制限

裁判要旨船舶所有者がその被用者である船長の加害行為により被つた損害につき船長に対してする損害の賠償又は求償の請求についても、信義則を適用しこれを制限することを妨げない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和60年2月12日 昭和59(オ)1085
登載
集民 第144号99頁
参照法条
民法1条2項,民法709条,民法715条3項,商法705条1項
論点13第1条民法

自己の債権の支払確保のため約束手形の裏書を受けた手形所持人が右原因債権の完済後に振出人に対してする手形金請求と権利の濫用

裁判要旨自己の債権の支払確保のため約束手形の裏書を受けた手形所持人は、その後右債権の完済を受けて裏書の原因関係が消滅したときは、特別の事情のない限り、振出人に対し手形金を請求するのは権利の濫用にあたり、振出人は、右所持人に対し手形金の支払を拒むことができる。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和57年7月20日 昭和56(オ)1108
登載
集民 第136号737頁
参照法条
手形法17条,手形法77条1項,民法1条2項,民法1条3項
論点14第1条民法

約束手形の裏書人が振出人の手形金支払義務の時効による消滅に伴い自己の所持人に対する償還義務も消滅したとしてその履行を免れようとすることが信義則に反し許されないとされた事例

裁判要旨約束手形の裏書人が、その所持人に対して、自己の償還義務について消滅時効の利益の放棄ないし債務の承認をしたうえ、専ら自己に対する信頼に基づいて右手形を取得した所持人本人及びその代理人である弁護士に対して、再三にわたり、しかも振出人の債務とは必ずしも関係なく自己固有の債務として手形金の支払義務があることを認めるような態度を示し、同人らに確実にその履行がされるものとの期待を抱かせながら、のちに右態度をひるがえし、その信頼を裏切つて償還義務を履行しようとせず、やむなく右所持人より提起された手形金請求訴訟においても当該手形の裏書自体を否認したりその他種々の主張を提出して引延しとみられる抗争をすることによりその審理に長期間を費やさせ、その間に所持人が専ら裏書人を信頼してその義務履行が確実にされるものと期待する余り振出人に対する手形金請求権についての消滅時効中断の措置を怠つたがために振出人の手形金支払義務が消滅したのに乗じ、これに伴い自己の償還義務も当然消滅するに至つたとしてその履行を免れようとする所為に出ることは、信義則に反し許されない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和57年7月15日 昭和53(オ)728
登載
民集 第36巻6号1113頁
参照法条
手形法50条1項,手形法70条1項,手形法77条1項4号,手形法77条1項8号,民法1条2項
論点15第1条民法

貨幣価値の下落と軍事郵便貯金の預金金額の払戻

裁判要旨昭和一九年五月から昭和二一年四月までの間に預入れられた軍事郵便貯金については、国は、払戻時に貨幣価値が著しく下落していても、払戻当時の貨幣で預金金額を払戻すことにより免責される。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和57年10月15日 昭和57(オ)439
登載
集民 第137号343頁
参照法条
民法1条2項,民法402条,民法666条
論点16第1条民法

土地の売買予約の成立後当事者双方が予想せずその責に帰することのできない事情により価額が高騰したのちにされた予約完結権の行使が信義則に反しないとされた事例

裁判要旨甲市が貸ビル業者である乙所有の丙土地を道路用地として買収するにあたり、その代替地として丁土地を乙に売り渡し、あわせて甲と乙との間で、これに隣接する戊土地につき、丙土地上のビルを撤去し丁土地上にaビルを建築するまでの間、旧ビルの入居者を収容するための仮事務所として使用する目的で賃貸借契約を締結するとともに、期間の定めのない売買予約を締結したが、その後、乙において丁土地上にaビルを建築する工事に着手しないまま数年間が推移するうち、戊土地が新幹線の用地として国鉄に買収されるという、当事者双方の責に帰することができず、しかもその予想を超えた事態を生じ、戊土地の時価が予約締結時に定められた代金額の六倍弱になつたという事情のもとで、乙が国鉄のための土地収用法による収用裁決前に右売買予約の完結権を行使して本契約を成立させ、乙が収用裁決による損失補償金を取得することになつたとしても、右売買予約が戊土地の所在位置からして甲においてこれを所有していても利用価値が低下することが予想されたため、乙に買い取つてもらうのを最良の策として、甲から乙に買取方を要望した結果成立したものであること、甲と乙とは、戊土地が新幹線の用地となることが公表される直前に、いつたん期間満了となつていた戊土地の賃貸借契約を重ねて締結したが、その際、売買予約の内容に変更を加え、又は予約を失効させるなどの措置を講ずることがなかつたこと等、原判示の事情のもとにおいては、他に特段の事情のない限り、乙のした右予約完結権の行使が信義則に反して許されないと解することはできない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和56年6月16日 昭和54(オ)332
登載
集民 第133号75頁
参照法条
民法1条2項,民法556条
論点17第1条民法

有限会社の社員総会決議不存在確認を求める訴の提起が訴権の濫用にあたるとされた事例

裁判要旨有限会社の経営の実権を握つていた者が、第三者に対し自己の社員持分全部を相当の代償を受けて譲渡し、会社の経営を事実上右第三者に委ね、その後相当期間を経過しており、しかも右譲渡の当時社員総会を開いて承認を受けることがきわめて容易であつたなど、判示の事実関係のもとにおいて、右譲渡人が右社員持分譲渡を承認する社員総会決議及びこれを前提とする役員選任等に関する社員総会決議の不存在確認を求める訴を提起するのは、訴権の濫用として許されない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和53年7月10日 昭和52(オ)1321
登載
民集 第32巻5号888頁
参照法条
有限会社法19条2項,有限会社法41条,商法252条,民法1条3項,民訴法第2編第1章
論点18第1条民法

認知無効確認請求が権利の濫用にあたらないとされた事例

裁判要旨認知者が被認知者を不憫に思い、自分の子として認知の届出をし、長年自分の家業を手伝わせていたところ、認知者の実子が事実上の婿養子と結婚したころから被認知者と認知者、その妻、実子との間が円満さを欠くようになり、認知者の死亡直後、被認知者が家庭裁判所に対し、遺産分割の調停の申立をしたなどの判示の事実関係のもとでは、認知者の妻であり、かつ、被認知者の実母である者及び認知者の実子から被認知者に対してされた認知無効確認の請求は、それが認知後五十数年を経過し、かつ、認知者の死亡後であつても、権利の濫用にあたるとはいえない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和53年4月14日 昭和52(オ)1335
登載
集民 第123号553頁
参照法条
民法1条,民法786条,人事訴訟法27条
論点19第1条民法

地代家賃統制令に基づく土地の賃料の統制額が適正額を上回る場合において賃料増額請求により増額された部分の賃料の不払を理由とする借地契約の解除が権利濫用にあたるとされた事例

裁判要旨地代家賃統制令の適用のある土地賃貸借につき賃料増額請求がされた場合において、統制賃料額が適正賃料額を上回つており、賃貸人が従前統制額が比較的低額であつたころはこれをかなり超過する賃料を受領しており、また、増額請求後賃借人のした適正な賃料額の提案に応じなかつたなど判示の事情があるときは、増額された部分の賃料の不払を理由として賃貸人がした借地契約の解除は、権利の濫用として許されない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和53年11月30日 昭和53(オ)596
登載
集民 第125号745頁
参照法条
借地法12条1項,借地法12条2項,借地法等の一部を改正する法律(昭和41年法律第93号)附則8項,民法1条2項,民法1条3項,民法541条
論点20第1条民法

人的抗弁の存在につき手彫所持人の前者が善意であつても、信義則上、人的抗弁をもつて所持人に対抗することができるとされた事例

裁判要旨甲会社の乙銀行に対する借入金債務を連帯保証人丙及び丁が弁済し、右借入金債務の担保として甲会社が乙銀行に裏書譲渡していた約束手形を丙及び丁が乙銀行から無担保裏書を受けて取得した場合において、甲会社が丙の主宰するワンマン会社ないしは同族会社であつて、丁は丙の三女で本件手形に関する限り丙と実質上も経済上も一体とみることができるなど、判示のような事情があるときは、乙銀行から丙及び丁への裏書は、信義則上、乙銀行から甲会社への戻裏書と同一に評価すべきであり、振出人は、甲会社に対抗することができる人的抗弁をもつて、善意の乙銀行の介在にかかわらず、丙及び丁に対しても対抗することができる。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和52年9月22日 昭和50(オ)766
登載
集民 第121号251頁
参照法条
民法1条2項,手形法17条
論点21第1条民法

仮登記担保権の実行においていわゆる過剰競売禁止の趣旨が類推された事例

裁判要旨共同仮登記担保の目的物のうち債務者所有の一箇の物件のみで被担保債権全額の優先弁済を受けられるなど原判決判示の事情があるときは、民訴法六七五条、民法一条三項〈基本原則〉の趣旨に従い、右物件以外の目的物について仮登記担保権を実行することは許されない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和52年9月22日 昭和52(オ)340
登載
集民 第121号261頁
参照法条
民法1条3項,民法369条,民法482条,民訴法675条,競売法32条
論点22第1条民法

消滅時効の援用が権利濫用にあたるとされた事例

裁判要旨家督相続をした長男が、家庭裁判所における調停により、母に対しその老後の生活保障と妹らの扶養及び婚姻費用等に充てる目的で農地を贈与して引渡を終わり、母が、二十数年これを耕作し、妹らの扶養及び婚姻等の諸費用を負担したなど判示の事実関係のもとにおいて、母から農地法三条の許可申請に協力を求められた右長男がその許可申請協力請求権につき消滅時効を援用することは、権利の濫用にあたる。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和51年5月25日 昭和50(オ)1051
登載
民集 第30巻4号554頁
参照法条
民法1条3項,民法145条
論点23第1条民法

自動車の割賦売買契約において売主がいつたん買主に引き渡した自動車を正当な事由なしに引き揚げた場合あるいは買主から修理を依頼されその完了後に正当な事由なしに返還しない場合と買主の割賦代金の支払拒絶権

裁判要旨自動車の割賦売買契約において、売主が、いつたん買主に引き渡した自動車を正当の事由なしに買主から引き揚げ、あるいは、買主から修理を依頼されその完了後に正当な事由なしに自動車を引き渡さない場合には、買主は、再度自動車の引渡を受けるまで、割賦代金の支払を拒むことができるものと解するのが相当である。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和50年7月17日 昭和49(オ)668
登載
集民 第115号519頁
参照法条
民法1条,民法533条
論点24第1条民法

土地買受代金の支払について所有権移転登記手続との同時履行を主張することが信義則上許されないとされた事例

裁判要旨土地の買主が、所有権移転登記をうけなかつたが申請手続の過誤により隣地につき所有権移転登記がされたためであり、土地の引渡はうけその使用をつづけた等判示の事実関係のもとにおいては、買受代金の支払について所有権移転登記手続との同時履行を主張することは信義則上許されない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和50年12月26日 昭和49(オ)1202
登載
集民 第116号959頁
参照法条
民法1条2項,民法533条,民法541条
論点25第1条民法

一、国際的裁判の合意の方式
二、外国の裁判所を専属管轄裁判所与る国際的専属的裁判管轄の合意
三、船荷証券に基づく国際的専属的裁判管轄の合意が公序違反として無効とはいえないとされた事例

裁判要旨一、国際的裁判管轄の合意は、両当事者の署名のある書面によつてされることを要せず、特定国の裁判所を管轄裁判所として明示的に指定する当事者の一方が作成した書面に基づいて締結されれば足りる。
二、ある訴訟事件についてわが国の裁判権を排除し特定の外国の裁判所を第一審の専属的管轄裁判所と指定する国際的専属的裁判管轄の合意は、当該事件がわが国の裁判権に専属的に服するものではなく、かつ指定された外国の裁判所がその外国法上当該事件につき管轄権を有する場合には、原則として有効であり、その外国法上右合意が有効とされること又は当該外国裁判所の判決につき相互の保証のあることを要しない。
三、国際海上物品運送契約に基づく荷主の運送人に対する損害賠償請求訴訟につき、国際的海運業者である被告の本店のあるオランダ国の裁判所を第一審の専属的管轄裁判所と指定する国際的専属的裁判管轄の合意は、たとえそれが被告の発行した船荷証券上の管轄約款に基づくものであり、また、右合意に従うとき荷主の負うこととなる費用及び手数が増大するとしても、それだけでは公序違反として無効とはいえない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和50年11月28日 昭和45(オ)297
登載
民集 第29巻10号1554頁
参照法条
民法1条,民法90条,民法521条,民訴法25条,民訴法200条4号,民訴法515条,1924年8月25日にブラツセルで署名された船荷証券に関するある規則の統一のための国際条約3条8項,国際海上物運送法15条1項
論点26第1条民法

一、海難における救援救助についての規定の統一に関する条約(大正三年条約第二号)に基づく海難救助料請求権と救援救助義務
二、曳船の所有者が被曳船の海難につき曳船契約上負担すべき救援救助義務
三、曳船契約履行中被曳船の海難に対し曳船の船長及び海員のした救援救助行為につき曳船の船長の海難救助料請求が否定された事例

裁判要旨一、海難における救援救助についての規定の統一に関する条約(大正三年条約第二号)に基づく海難救助料請求権が発生するためには、海難に対する救援救助行為が義務なくしてされたものでなければならない。
二、曳船の所有者は、曳船契約履行中、被曳船が通常生ずるとはいえない事故により海難におちいつた場合においても、曳船に急迫な危険が存しないかぎり、原則として、被曳船の海難につき信義則上相当と認められる程度の適切な処置をとるべき契約上の義務を負担する。
三、独力による航行能力がなく、その乗組員は曳航中曳船の船長の指揮命令下にある被曳船が、その船底に生じた約二・五センチメートルの亀裂によつて浸水し、そのまま放置していたのでは沈没を免れない危険におちいつた場合において、曳船の船長が直ちに最寄りの港へ向け転進するとともに、曳船に備え付けられた排水用ポンプを被曳船に送り込み、被曳船の乗組員に指示して排水作業を継続させるなど曳船の船長及び海員のした判示のような救援救助行為につき、曳船の船長は、海難救助料を請求することができない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和49年9月26日 昭和47(オ)1236
登載
民集 第28巻6号1331頁
参照法条
商法800条,海難における救援救助についての規定の統一に関する条約(大正3年条約第2号)2条1項,海難における救援救助についての規定の統一に関する条約(大正3年条約第2号)4条,民法1条2項
論点27第1条民法

継続的保証契約に基づく保証人に対する債務履行の請求が許されないとされた事例

裁判要旨期間の定めのない継続的保証契約の締結後、三年余を経、主債務者の経営状態が悪化し、その所有の担保物件も他に売却されたのちに、金融機関である債権者が、保証人の意向を打診しないで、債務者に対し新たな貸付をしたなど判示の事情がある場合には、債権者が保証人に対し右貸付について保証債務の履行を求めるのは、信義則に反し権利の濫用であつて許されない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和48年3月1日 昭和47(オ)554
登載
集民 第108号265頁
参照法条
民法1条,民法446条
論点28第1条民法

一、憲法一四条、一九条と私人相互間の関係
二、特定の思想、信条を有することを理由とする雇入れの拒否は許されるか
三、雇入れと労働基準法三条
四、企業者が労働者の雇入れにあたりその思想、信条を調査することの可否
五、試用期間中に企業者が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約に基づく留保解約権の行使が許される場合

裁判要旨一、憲法一四条や一九条〈審判相互の関係〉の規定は、直接私人相互間の関係に適用されるものではない。
二、企業者が特定の思想、信条を有する労働者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。
三、労働基準法三条は、労働者の雇入れそのものを制約する規定ではない。
四、労働者を雇い入れようとする企業者が、その採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることは、違法とはいえない。
五、企業者が、大学卒業者を管理職要員として新規採用するにあたり、採否決定の当初においてはその者の管理職要員としての適格性の判定資料を十分に蒐集することができないところから、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨で試用期間を設け、企業者において右期間中に当該労働者が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約上の解約権を留保したときは、その行使は、右解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解すべきである。
裁判
最高裁判所大法廷 昭和48年12月12日 昭和43(オ)932
登載
民集 第27巻11号1536頁
参照法条
憲法14条,憲法19条,民法1条,民法90条,労働基準法3条,労働基準法第2章
論点29第1条民法

約束手形の裏書を受けた手形所持人が裏書の原因関係である法律行為が無効であるときに振出人に対してする手形金請求と権利濫用

裁判要旨約束手形の裏書を受けた手形所持人が、裏書の原因関係である法律行為が無効であるにかかわらず、手形を所持していることを奇貨として振出人に対し手形金を請求することは、特段の事情のないかぎり、権利の濫用として許されない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和48年11月16日 昭和47(オ)104
登載
民集 第27巻10号1391頁
参照法条
手形法77条,手形法17条,民法1条2項,民法1条3項
論点30第1条民法

新会社が旧会社と法人格を異にするとの実体法上および訴訟法上の主張が信義則に反し許されないとされた事例

裁判要旨株式会社の代表取締役が、会社が賃借している居室の明渡し、延滞賃料等の債務を免れるために、会社の商号を変更したうえ、旧商号と同一の商号を称し、その代表取締役、監査役、本店所在地、営業所、什器備品、従業員が旧会社のそれと同一で、営業目的も旧会社のそれとほとんど同一である新会社を設立したにもかかわらず、右商号変更および新会社設立の事実を賃貸人に知らせなかつたため、賃貸人が、右事実を知らないで、旧会社の旧商号であり、かつ、新会社の商号である会社名を表示して、旧会社の債務の履行を求める訴訟を提起したところ、新旧両会社の代表取締役を兼ねる者が、これに応訴し、一年以上にわたる審理の期間中、商号変更、新会社設立の事実についてなんらの主張もせず、かつ、旧会社が居室を賃借したことを自白するなど原判示のような事情(原判決理由参照)のもとにおいては、その後にいたつて同人が新会社の代表者として、新旧両会社が別異の法人格であるとの実体法上および訴訟法上の主張をすることは、信義則に反し許されない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和48年10月26日 昭和45(オ)658
登載
民集 第27巻9号1240頁
参照法条
民法1条2項,民法33条,商法52条,民訴法第1編第4章第1節
論点31第1条民法

土地の賃貸借契約が賃借人の破産により解除されても信義則上転借権が消滅しないとされた事例

裁判要旨土地が適法に転貸され、転借人になんら非違もないのに、賃借人会社の代表者である賃貸入が、右転借権を消滅させるため、右会社の自己破産を申し立てて破産宣告をえ、これを理由に賃貸借契約を解除するようなことは、転借人に対し著しく信義則に反し、右解除により賃貸借契約が終了しても、転借権は消滅しない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和48年10月12日 昭和48(オ)68
登載
民集 第27巻9号1192頁
参照法条
民法1条2項,民法612条,民法621条
論点32第1条民法

取立払の定めのある賃料を債権者が取立に赴かなくてもその不払を理由とする賃貸借契約の解除が許されるとされた事例

裁判要旨六箇月ごとの取立払の定めのある賃料につき、賃貸人が再三賃借人方に取立に赴きまた督促のため電話したのに対し、賃借人がその事実を知りながら支払の意思を示す態度がなかつたなどの判示の事実関係のもとにおいて、賃貸人が一年七箇月分の賃料を持参して支払うよう催告し、催告期間内に賃借人方に取立に赴かなかつたとしても、賃借人が弁済の準備をしその旨を賃貸人に通知して取立を促す等信義則上の措置に出ないで催告期間を徒過したときは、賃貸人は、右催告にかかる賃料の不払を理由に、賃貸借契約を解除することができる。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和47年1月20日 昭和46(オ)882
登載
集民 第105号7頁
参照法条
民法484条,民法493条,民法541条,民法601条,民法1条2項
論点33第1条民法

硫黄鉱石売買契約の買主に引取義務が認められた事例

裁判要旨硫黄鉱区の採掘権を有する甲が鉱石を採掘して乙に売り渡す硫黄鉱石売買契約において、甲は、乙に対し、右契約の存続期間を通じて採掘する鉱石の全量を売り渡す約定があつたなど判示の事情がある場合には、信義則上、乙には、甲が右期間内に採掘した鉱石を引き取る義務があると解すべきである。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和46年12月16日 昭和40(オ)548
登載
民集 第25巻9号1472頁
参照法条
民法1条,民法413条,民法555条
論点34第1条民法

期間経過による買戻権消滅の主張が信義則上許されないとされた事例

裁判要旨貸金債権担保のため不動産の買戻約款付売買がなされその買戻期間が経過した場合において、買戻期間内に、買主が売主の債務の弁済の受領をあらかじめ拒否し、債務額をこえる金額の支払の申出を受けながら買戻を応諾しなかつたなど、原判決認定の事実関係(原判決理由参照)があるときは、売主の右申出が弁済の準備を伴わないため適法な提供の効果を生じなかつたとしても、買主は、あらためて買戻に応ずる意思を示し相当の期間を定めて買戻権の行使を催告しないかぎり、期間の経過による買戻権の消滅を理由に、右不動産の所有権を確定的に取得したことを主張することは、信義則上許されない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和45年4月21日 昭和44(オ)1162
登載
集民 第99号109頁
参照法条
民法580条,民法583条,民法1条2項
論点35第1条民法

将来発生することあるべき債務の担保のために振り出された約束手形の受取人が右債務の不発生が確定した後に振出人のための手形保証人に対してする手形金請求と権利の濫用

裁判要旨将来発生することあるべき債務の担保のために振り出され、振出人のために手形保証のなされた約束手形の受取人は、手形振出の右原因関係上の債務の不発生が確定したときは、特別の事情のないかぎり、以後手形保証人に対して手形上の権利を行使すべき実質的理由を失つたものであつて、右手形を返還せず、手形が自己の手裡に存するのを奇貨として手形保証人に対し手形金を請求するのは、権利の濫用にあたり、手形保証人は受取人に対し手形金の支払を拒むことができる。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和45年3月31日 昭和44(オ)1118
登載
民集 第24巻3号182頁
参照法条
手形法77条,手形法32条1項,手形法32条2項,手形法17条,民法1条2項,民法1条3項
論点36第1条民法

契約を解除した当事者が第三者の登記の欠缺を主張することが信義則上許されないとされた事例

裁判要旨甲所有の丁土地と乙所有の戊土地とを交換する契約が甲乙間になされ、乙が丁土地をさらに丙に譲渡して未だその登記を経ない間に、乙に対する国税の滞納処分として戊土地が差押公売されたため、甲が履行不能を理由に右交換契約を解除した場合において、甲が、交換契約に基づき戊土地を自ら使用しており、他方右契約当時においても丁土地が乙から丙に譲渡されるものであることを了承し、丙の買受後にはその権利移転を認め、丙の地上の建物の建築許可申請手続に協力し、乙、丙との間に、丁土地につき甲から丙に中間省略により直接所有権移転登記をすることを合意しながら、乙、丙の再三の請求にかかわらず自己の都合で右登記手続を遷延して約四年を経過するうち、右滞納処分がなされるに至つたなど、判示の事実関係があるときは、甲が丙の丁土地の所有権取得につき登記の欠缺を主張することは信義則上許されず、甲の交換契約解除にかかわらず丙の権利は否定されないものと解すべきである。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和45年3月26日 昭和43(オ)717
登載
集民 第98号505頁
参照法条
民法545条1項,民法177条,民法1条2項
論点37第1条民法

一、労働金庫の会員外の者に対する貸付の効力
二、員外貸付が無効とされる場合に債務者において右債務を担保するために設定された抵当権の実行による所有権の取得を否定することが許されないとされた事例

裁判要旨一、労働金庫の会員外の者に対する貸付は無効である。
二、労働金庫の員外貸付が無効とされる場合においても、右貸付が判示のような事情のもとにされたものであつて、右債務を担保するために設定された抵当権が実行され、第三者がその抵当物件を競落したときは、債務者は、信義則上、右競落人に対し、競落による所有権の取得を否定することは許されない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和44年7月4日 昭和43(オ)916
登載
民集 第23巻8号1347頁
参照法条
民法1条,民法43条,民法387条,労働金庫法58条
論点38第1条民法

取立払の定のある債務について債権者が取立に赴かなくても解除権の行使が許されるとされた事例

裁判要旨取立払の定のある賃料について、増額請求を受けた賃借人が、賃貸人の一箇月分の賃料の取立にさいしてその全額の支払を拒絶し、その後引続き適正額の賃料の支払をも拒絶する態度を示している等判示事実関係のもとにおいては、賃貸人が客観的に適正とされる額によつて五年分の賃料を自己の住所へ持参して支払うよう催告し、催告期間内に賃借人の住所に取立のため赴かなかつたとしても、賃借人が弁済の準備をしその旨を賃貸人に通知して取立を促がす等の措置に出ないで催告期間を徒過したときには、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができる。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和43年8月2日 昭和42(オ)1066
登載
集民 第92号55頁
参照法条
民法484条,民法493条,民法541条,民法601条,民法1条2項
論点39第1条民法

売買契約解除の前提としての催告が信義則に反し無効とされた事例

裁判要旨土地の売買契約において、買主が該売買契約によつて所有権を取得し、その引渡をも受けた後に、売主が、買主不知の間に、該土地に第三者のため根抵当権および地上権の設定登記をしたものである等原判示事情がある場合(原判決理由参照)に、売主が残代金の支払を催告し、その不払を理由に土地の売買契約を解除したときは、右催告は信義則に反し無効である。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和43年5月30日 昭和43(オ)186
登載
集民 第91号191頁
参照法条
民法1条2項,民法540条1項,民法541条
論点40第1条民法

自己の債権の支払確保のため約束手形の裏書を受けた手形所持人が右原因債権の完済後に振出人に対してする手形金請求と権利の濫用

裁判要旨自己の債権の支払確保のため約束手形の裏書を受けた手形所持人は、その後右債権の完済を受けて裏書の原因関係が消滅したときは、特別の事情のないかぎり、以後右手形を保持すべき正当の権原を有しないことになり、手形上の権利を行使すべき実質的理由を失つたものであつて、右手形を返還しないで自己が所持するのを奇貨として、自己の形式的権利を利用し振出人に対し手形金を請求するのは、権利の濫用にあたり、振出人は、右所持人に対し手形金の支払を拒むことができる。
裁判
最高裁判所大法廷 昭和43年12月25日 昭和38(オ)330
登載
民集 第22巻13号3548頁
参照法条
手形法77条,手形法17条,民法1条2項,民法1条3項
論点41第1条民法

無権代理人から代理行為の相手方に対し代理権の不存在を主張することが信義則上許されないとされた事例

裁判要旨他人の代理人と称して、金銭消費貸借契約を締結するとともに、みずからその他人のため連帯保証契約を締結した者が、債権者の提起した右連帯保証債務の履行を求める訴訟において、代理権の不存在を主張して連帯保証債務の成立を否定することは、特別の事情のないかぎり、信義則上許されない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和41年11月18日 昭和39(オ)347
登載
民集 第20巻9号1845頁
参照法条
民法1条,民法117条,民法448条
論点42第1条民法

所有権に基づく土地明渡請求が権利の濫用であるとされた事例。

裁判要旨国が所有者から賃借して占領軍に提供し、空軍基地地域の一部として使用させていた土地を、占領状態終結とともに、契約期間の満了によつて賃借権を失つた後も、引き続き、駐留軍に提供して使用させている場合において、国の駐留軍に対する右提供が条約上の義務履行としてなされているものであり、かつ、右土地が現にガソリンの地下貯蔵設備の用地として使用されていて、その明渡によつて所有者の受ける利益に比し国のこうむる損害がより大である等判示の事情があるときは、所有者の国に対する右土地明渡請求は、私権の本質である社会性、公共性を無視する過当な請求として許されないものと解するのが相当である。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和40年3月9日 昭和35(オ)563
登載
民集 第19巻2号233頁
参照法条
民法1条,民法206条
論点43第1条民法

一 被参加人が補助参加人のなした控訴の申立を遅滞なく取り消した場合の控訴の申立の効力。

二 補助参加人のなした控訴の申立が権利の濫用と認められた事例。

裁判要旨一 一審における補助参加人が控訴の申立をなした後、被参加人が遅滞なくこれを取り消した場合には、右控訴の申立は効力を生じない。

二 補助参加人は被参加人を勝訴させることによって自己の利益を確保するため、被参加人を補助する目的をもって訴訟に関与するものであるから、一審における補助参加人が控訴を申し立てると同時に被参加人および被控訴人双方を相手方として当事者参加の申立をなし、右申立が被参加人の請求そのものを否定せんとするものであるときは、右控訴の申立は権利の濫用として許されない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和39年7月2日 昭和37(オ)156
登載
集民 第74号395頁
参照法条
民訴法360条1項,民訴法69条2項,民法1条
論点44第1条民法

土地明渡の請求権行使により袋地が生じても権利濫用とならない。

裁判要旨土地明渡により袋地を生ずることになつても、囲繞地通行権が民法上考えられているのであるから、右土地明渡請求権行使をもつて、権利濫用とはいえない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和39年5月26日 昭和38(オ)490
登載
集民 第73号657頁
参照法条
民法1条,民法210条,民法211条
論点45第1条民法

詐欺による意思表示の取消が権利濫用にあたらないとされた事例。

裁判要旨当該土地が既に公立中学校の敷地として使用されているからといつて、その土地を目的とする契約の意思表示を詐欺により取り消すことは、権利の濫用といわねばならないことはない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和39年2月7日 昭和37(オ)1412
登載
集民 第72号99頁
参照法条
民法1条,民法96条
論点46第1条民法

貨幣価値の下落と割増金付割引勧業債券の券面額による支払

裁判要旨昭和九年一〇月発行の割増金割引勧業債券について、債券発行売出銀行は、別段の特約のない限り、償還時に貨幣価値が下落していても、償還当時の貨幣で券面額を弁済することにより免責される。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和36年6月20日 昭和33(オ)546
登載
民集 第15巻6号1602頁
参照法条
民法1条2項,民法402条
論点47第1条民法

一 条件が債務者の意思のみにかかる停止条件附法律行為にはあたらない一事例
二 売買契約後の貨幣価値の著しい変動と代金額の修正

裁判要旨一 鉱業権の売買契約において、買主が排水探鉱の結果品質良好と認めたときは代金を支払い、品質不良と認めたときは代金を支払わない旨を約しても、右売買契約は、民法第一三四条〈随意条件〉にいわゆる条件が単に債務者の意思のみにかかる停止条件附法律行為とはいえない。
二 売買契約成立後貨幣価値が著しく変動しても、それだけで代金額が当然修正されるものと解すべきではない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和31年4月6日 昭和28(オ)363
登載
民集 第10巻4号342頁
参照法条
民法134条,民法1条2項
論点48第1条民法

有責配偶者からの離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情があるとはいえないとされた事例

裁判要旨有責配偶者である夫(大正一五年四月生)からの離婚請求であつても、夫婦の別居期間が約一五年六か月に及び、その間の子が夫と同棲する女性に四歳時から実子同然に育てられて一九歳に達しており、妻(昭和九年三月生)は別居期間中夫所有名義のマンションに居住し、主に夫から支払われる婚姻費用によつて生活してきたものであり、しかも、妻が離婚によつて被るべき経済的・精神的不利益が離婚に必然的に伴う範囲を著しく超えるものではないなど判示の事情の下では、右離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情があるとはいえない。

(反対意見がある。)
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成元年9月7日 昭和63(オ)316
登載
集民 第157号457頁
参照法条
民法1条2項,民法770条
論点49第1条民法

有責配偶者からの離婚請求が認容することができないとされた事例

裁判要旨有責配偶者である夫からされた離婚請求において、事実審の口頭弁論終結時、夫六〇歳、妻五七歳であり、婚姻以来二六年余同居して二男二女を儲けた後夫が他の女性と同棲するため妻と別居して八年余になるなど判示の事情のあるときは、夫婦の別居期間が双方の年齢及び同居期間と対比して相当の長期間に及ぶということができず、右離婚請求を認容することができない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成元年3月28日 昭和62(オ)839
登載
集民 第156号417頁
参照法条
民法1条2項,民法770条
論点50第1条民法

一体として利用されている二筆の借地のうち一方の土地上にのみ借地権者所有の登記されている建物がある場合において両地の買主による他方の土地の明渡請求が権利の濫用に当たるとされた事例

裁判要旨丁戊二筆の土地の借地権者甲が、ガソリンスタンドの営業のために、丁地上に登記されている建物を所有して店舗等として利用し、隣接する戊地には未登記の簡易なポンプ室や給油設備等を設置し、右両地を一体として利用していて、戊地を利用することができなくなると右営業の継続が事実上不可能となり、甲が右ポンプ室を独立の建物としての価値を有するものとは認めず登記手続を執らなかったこともやむを得ないと見られ、他方、右両地の買主乙には将来の土地の利用につき格別に特定された目的は存在せず、乙が売主の説明から直ちに甲は使用借主であると信じたことについては落ち度があるなど判示の事情の下においては、乙が右両地を特に低廉な価格で買い受けたものではなかったとしても、乙の戊地についての明渡請求は、権利の濫用に当たり許されない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成9年7月1日 平成6(オ)590
登載
民集 第51巻6号2251頁
参照法条
民法1条3項,建物保護に関する法律1条,借地借家法10条1項
論点51第1条民法

戸籍上の父母とその嫡出子として記載されている者との間の親子関係について父母の養子が不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとされた事例

裁判要旨戸籍上甲乙夫婦の嫡出子として記載されている丙が真実甲乙夫婦の実子でない場合において、甲乙夫婦と丙との間に長年にわたり実親子と同様の生活の実体があり、両者ともその共同生活の解消を望んでおらず、甲乙夫婦の養子である丁も、甲乙夫婦と丙との間の親子関係の不存在を熟知しておりながら、甲の生前にはその確認を求める訴訟を提起しなかったなど判示の事情があったとしても、丁が甲乙夫婦と丙との間の親子関係不存在確認請求をすることは、権利の濫用に当たり許されないとはいえない。

(補足意見がある。)
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成9年3月11日 平成3(オ)399
登載
集民 第182号1頁
参照法条
民法1条,民法739条,民法799条,人事訴訟手続法第2章親子関係事件ニ関スル手続
論点52第1条民法

請負契約の注文者が瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬全額の支払との同時履行を主張することの可否

裁判要旨請負契約の目的物に瑕疵がある場合には、注文者は、瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等にかんがみ信義則に反すると認められるときを除き、請負人から瑕疵の修補に代わる損害の賠償を受けるまでは、報酬全額の支払を拒むことができ、これについて履行遅滞の責任も負わない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成9年2月14日 平成5(オ)1924
登載
民集 第51巻2号337頁
参照法条
民法1条2項,民法412条,民法533条,民法634条
論点53第1条民法

いわゆる位置指定道路の通行妨害と妨害排除請求権

裁判要旨建築基準法四二条一項五号の規定による位置の指定を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有する。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成9年12月18日 平成8(オ)1361
登載
民集 第51巻10号4241頁
参照法条
民法1条ノ2,民法198条,民法199条,建築基準法42条1項5号
論点54第1条民法

婚姻当事者以外の利害関係人の身分上の地位に及ぼす影響を考慮して婚姻無効確認請求が信義則に反するとはいえないとされた事例

裁判要旨甲の父が甲の意思に基づかないで甲乙の婚姻の届出をした場合において、甲が右届出がされたことを知らずに丙との婚姻の届出をして二人の子をもうけたため、甲乙の婚姻が無効でないとされると甲丙の婚姻が重婚に該当するとして取り消される等婚姻当事者以外の利害関係人の身分上の地位に重大な影響を及ぼすおそれがあるなど判示の事実関係の下においては、甲と乙との間には実質的婚姻関係が継続し、乙としては甲の父が甲の意向を受けて右届出をしたと思っても不合理ではなかったなど判示の事情があったとしても、甲が届出意思の不存在を主張して甲乙の婚姻の無効確認請求をすることは、信義則に反するとはいえない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成8年3月8日 平成4(オ)673
登載
集民 第178号787頁
参照法条
民法1条,民法742条
論点55第1条民法

一 債権者が物上保証人に対して担保保存義務免除特約の効力を主張することが信義則に違反せず権利の濫用にも当たらないとされた事例
二 担保保存義務免除特約の効力により物上保証人について民法五〇四条〈債権者による担保の喪失等〉による免責の効果が生じなかった場合にその後物上保証人から担保物件の譲渡を受けた第三取得者が債権者に対して免責の効果を主張することの可否

裁判要旨一 債権者甲の債務者乙に対する債権を担保するために所有不動産に根抵当権を設定した丙が甲との間に民法五〇四条〈債権者による担保の喪失等〉に規定する担保保存義務を免除する旨の特約をしていた場合に、甲が、右担保に追加して乙所有の不動産に設定を受けた根抵当権を放棄した上、丙に対し右特約の効力を主張することは、乙から設定を受けた右追加担保が甲の乙に対する追加融資の額に見合うものであり、甲が乙からその弁済を受けるのに伴って右追加担保を放棄したものであるなど判示の事実関係の下においては、信義則に違反せず、権利の濫用にも当たらない。
二 債権者甲の債務者乙に対する債権を担保するために所有不動産に根抵当権を設定した丙が甲との間に民法五〇四条に規定する担保保存義務を免除する旨の特約をしていた場合に、甲が乙から設定を受けた担保を喪失し、又は減少させた時に右特約の効力により丙について同条による免責の効果が生じなかったときは、その後丙から右不動産の譲渡を受けた丁は、甲に対し、同条による免責の効果を主張することはできない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成7年6月23日 平成6(オ)1835
登載
民集 第49巻6号1737頁
参照法条
民法1条,民法91条,民法504条
論点56第1条民法

禁治産者の後見人がその就職前にした無権代理による訴えの提起及び弁護士に対する訴訟委任の行為の効力を再審の訴えにおいて否定することが信義則に反して許されないとはいえないとされた事例

裁判要旨甲が禁治産者乙の後見人に就職する前に乙のために無権限で訴えを提起した上弁護士に対する訴訟委任をし、これに基づいて判決がされた場合には、甲が乙の姉であって後見人に就職する前から事実上後見人の立場で乙の面倒を見てきたものであり、このような甲の態度について家族の他の者が異議を差し挟んでおらず、甲と乙の利害が相反する状況もなかったなど原判示の事情があったとしても、後見人に就職した甲が自己の無権代理行為の効力を再審の訴えにおいて否定することは、信義則に反して許されないとはいえない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成7年11月9日 平成4(オ)735
登載
集民 第177号107頁
参照法条
民訴法第1編第4章第1節口頭弁論,民訴法428条1項3号,民法1条2項,民法859条
論点57第1条民法

禁治産者の後見人がその就職前に無権代理人によって締結された契約の追認を拒絶することが信義則に反するか否かを判断するにつき考慮すべき要素

裁判要旨禁治産者の後見人が、その就職前に禁治産者の無権代理人によって締結された契約の追認を拒絶することが信義則に反するか否かは、(1)契約の締結に至るまでの無権代理人と相手方との交渉経緯及び無権代理人が契約の締結前に相手方との間でした法律行為の内容と性質(2)契約を追認することによって禁治産者が被る経済的不利益と追認を拒絶することによって相手方が被る経済的不利益、(3)契約の締結から後見人が就職するまでの間に契約の履行等をめぐってされた交渉経緯(4)無権代理人と後見人との人的関係及び後見人がその就職前に契約の締結に関与した行為の程度、(5)本人の意思能力について相手方が認識し又は認識し得た事実など諸般の事情を勘案し、契約の追認を拒絶することが取引関係に立つ当事者間の信頼を裏切り、正義の観念に反するような例外的な場合に当たるか否かを判断して、決しなければならない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成6年9月13日 平成4(オ)1694
登載
民集 第48巻6号1263頁
参照法条
民法1条2項,民法113条,民法859条
論点58第1条民法

上告が上訴権の濫用に当たるとされた事例

裁判要旨特許出願の拒絶査定を是認する審決に対する取消訴訟において、その係属中に特許出願が取り下げられた場合には訴えの利益が失われるのに、特許出願人が、請求棄却の判決の言渡し後に自らこのような状態を現串させた上、訴えの却下を求めて上告することは、上訴権の濫用に当たる。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成6年4月19日 平成5(行ツ)180
登載
集民 第172号371頁
参照法条
民訴法393条,民訴法399条1項1号,民訴法399条ノ3,民法1条3項
論点59第1条民法

未成熟子がいる有責配偶者からの離婚請求が認容された事例

裁判要旨有責配偶者である夫からされた離婚請求であっても、別居が一三年余に及び、夫婦間の未成熟の子は三歳の時から一貫して妻の監護の下で育てられて間もなく高校を卒業する年齢に達していること、夫が別居後も妻に送金をして子の養育に無関心ではなかったこと、夫の妻に対する離婚に伴う経済的給付も実現が期待できることなど判示の事実関係の下においては、右離婚請求は、認容されるべきである。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成6年2月8日 平成5(オ)950
登載
集民 第171号417頁
参照法条
民法1条2項,民法770条
論点60第1条民法

民法二三四条一項〈境界線付近の建築の制限〉の規定に違背して建築された建物部分の収去請求が権利濫用に当たらないとされた事例

裁判要旨民法二三四条一項〈境界線付近の建築の制限〉の規定に違背して建物を築造しようとする者が、建築着手の時から一年以内であって建物が完成しない間に、隣地所有者から工事中止の要請を受け、更に裁判所の建築工事続行禁止の仮処分決定を受けたにもかかわらず、あえて建築を続行してこれを完成させた場合には、隣地所有者のする右違反建築部分の収去請求は、右建築者において高額の収去費用等の負担を強いられることがあるとしても、権利の濫用に当たらない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成3年9月3日 昭和62(オ)1208
登載
集民 第163号189頁
参照法条
民法1条3項,民法234条
論点61第1条民法

元請企業につき下請企業の労働者に対する安全配慮義務が認められた事例

裁判要旨下請企業の労働者が元請企業の作業場で労務の提供をするに当たり、元請企業の管理する設備工具等を用い、事実上元請企業の指揮監督を受けて稼働し、その作業内容も元請企業の従業員とほとんど同じであったなど原判示の事実関係の下においては、元請企業は、信義則上、右労働者に対し安全配慮義務を負う。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成3年4月11日 平成1(オ)516
登載
集民 第162号295頁
参照法条
民法1条2項,民法415条,民法623条,民法632条
論点62第1条民法

後見人に就職した二名の者が未成年者を代理して締結した売買契約の効力を否定することが許されないとされた事例

裁判要旨未成年者甲の後見人に就職した乙及び丙が甲を代理して売買契約を締結した場合において、乙及び丙は甲の実親であり、甲の養父の死亡により戸籍上甲の後見人に就職した旨記載され、ともに正当な後見人となったものと考えて、甲の財産を管理してきたもので、右売買に右両名が後見人として関与したことにより、甲の利益が損なわれたわけではなく、甲も、成人に達した後において、右両名が甲の財産を管理してきたことを事実上承認していたなど判示の事情があるときは、乙及び丙が後見人として代理行為をしたことを理由として甲が右売買契約の効力を否定することは、信義則上許されない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成3年3月22日 昭和63(オ)924
登載
集民 第162号227頁
参照法条
民法1条2項,民法113条,民法843条
論点63第1条民法

建物賃貸人の失火による火災で焼失した賃貸建物内の衣料品類の損害について賃貸人の債務不履行責任を認めた事例

裁判要旨木造二階建ての建物の一部を衣料品類販売店舗として賃貸し、建物の火気は主として賃貸人が住居として使用していたその余の部分にあり、賃貸人の使用部分からの失火によって賃貸部分に蔵置保管されていた衣料品類にも被害が及ぶことが当然に予測されていたなど、判示の事実関係の下において、賃貸人は、その使用部分の火気の取扱いの不注意による失火により賃貸部分に蔵置保管されていた衣料品類を焼失させたときは、衣料品類の損害について信義則上債務不履行による賠償義務を負担する。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成3年10月17日 昭和62(オ)1408
登載
集民 第163号365頁
参照法条
民法1条2項,民法415条,民法601条
論点64第1条民法

子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制の申立てが権利の濫用に当たるとされた事例

裁判要旨婚姻中の父母のうち父に対して長男A,二男B及び長女Cを母に引き渡すよう命ずる審判を債務名義とするAの引渡しについての間接強制の申立ては,次の(1),(2)など判示の事情の下では,権利の濫用に当たる。
(1) 上記審判を債務名義とする引渡執行の際,B及びCが母に引き渡されたにもかかわらず,A(当時9歳3箇月)については,引き渡されることを拒絶して呼吸困難に陥りそうになったため,執行を続けるとその心身に重大な悪影響を及ぼすおそれがあるとして執行不能とされた。
(2) 父及びその両親を拘束者,Aを被拘束者とする人身保護請求事件の審問期日において,A(当時9歳7箇月)は,母に引き渡されることを拒絶する意思を明確に表示し,その人身保護請求は,Aが父等の影響を受けたものではなく自由意思に基づいて父等のもとにとどまっているとして棄却された。
(補足意見がある。)
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成31年4月26日 平成30(許)13
登載
集民 第261号247頁
参照法条
民法1条3項,民法414条1項,民法766条1項,家事事件手続法75条,家事事件手続法154条3項,民事執行法172条1項
論点65第1条民法

離婚訴訟において原告と第三者との不貞行為を主張して請求棄却を求めている被告が上記第三者を相手方として提起した上記不貞行為を理由とする損害賠償請求訴訟の人事訴訟法8条1項〈成年被後見人及び成年後見人〉にいう「人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟」該当性

裁判要旨離婚訴訟の被告が,原告は第三者と不貞行為をした有責配偶者であると主張して,その離婚請求の棄却を求めている場合において,上記被告が上記第三者を相手方として提起した上記不貞行為を理由とする損害賠償請求訴訟は,人事訴訟法8条1項にいう「人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟」に当たる。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成31年2月12日 平成30(許)10
登載
民集 第73巻2号107頁
参照法条
人事訴訟法8条1項,民法1条2項,民法770条
論点66第1条民法

親会社が,自社及び子会社等のグループ会社における法令遵守体制を整備し,法令等の遵守に関する相談窓口を設け,現に相談への対応を行っていた場合において,親会社が子会社の従業員による相談の申出の際に求められた対応をしなかったことをもって,信義則上の義務違反があったとはいえないとされた事例

裁判要旨Y社が,法令等の遵守に関する社員行動基準を定め,自社及び子会社である甲社,乙社等のグループ会社から成る企業集団の業務の適正等を確保するための体制を整備し,その一環として,上記グループ会社の事業場内で就労する者から法令等の遵守に関する相談を受ける相談窓口を設け,上記の者に対し,上記相談窓口に係る制度を周知してその利用を促し,現に上記相談窓口における相談への対応を行っていた場合において,甲社の従業員が,上記相談窓口に対し,甲社の元契約社員であって退職後は派遣会社を介してY社の別の事業場内で勤務していたXのために,Xの元交際相手である乙社の従業員AがXの自宅の近くに来ているようなので事実確認等の対応をしてほしいとの相談の申出をしたときであっても,次の(1)~(3)など判示の事情の下においては,Y社において上記申出の際に求められたXに対する事実確認等の対応をしなかったことをもって,Y社のXに対する損害賠償責任を生じさせることとなる信義則上の義務違反があったとはいえない。
(1) 上記体制の仕組みの具体的内容は,Y社において上記相談窓口に対する相談の申出をした者の求める対応をすべきとするものであったとはうかがわれない。
(2) 上記申出に係る相談の内容は,Xが退職した後に上記グループ会社の事業場外で行われた行為に関するものであり,Aの職務執行に直接関係するものとはうかがわれない。
(3) 上記申出の当時,Xは,既にAと同じ職場では就労しておらず,上記申出に係るAの行為が行われてから8箇月以上経過していた。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成30年2月15日 平成28(受)2076
登載
集民 第258号43頁
参照法条
民法1条2項,民法415条,民法709条
論点67第1条民法

商標権侵害の主張が権利の濫用に当たるとされた事例

裁判要旨漫画の主人公の観念、称呼を生じさせる登録商標の商標登録出願当時、既にその主人公の名称が漫画から想起される人物像と不可分一体のものとして世人に親しまれていた場合において、右主人公の名称の文字のみから成る標章が右漫画の著作権者の許諾に基づいて商品に付されているなど判示の事情の下においては、右登録商標の商標権者が右標章につき登録商標の商標権の侵害を主張することは、権利の濫用として許されない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成2年7月20日 昭和60(オ)1576
登載
民集 第44巻5号876頁
参照法条
商標法25条,商標法37条,民法1条3項
論点68第1条民法

株主のする株主名簿の閲覧及び謄写の請求が権利の濫用に当たるとされた事例

裁判要旨株主のする株主名簿の閲覧及び謄写の請求が、自ら発行する新聞等の購読料名下の金員の支払を再開継統させる目的をもってされた嫌がらせあるいは右金員の支払を打ち切ったことに対する報復としてされたものであるときは、右請求は、権利の濫用として許されない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成2年4月17日 平成1(オ)65
登載
集民 第159号449頁
参照法条
民法1条3項,商法263条2項
論点69第1条民法

割賦販売法三〇条の四第一項新設前の個品割賦購入あつせんにおける売買契約上の抗弁とあつせん業者に対する対抗の可否

裁判要旨割賦販売法三〇条の四第一項新設前の個品割賦購入あつせんにおいて、購入者とあつせん業者の加盟店である販売業者との売買契約が販売業者の商品引渡債務の不履行を原因として合意解除された場合であつても、購入者とあつせん業者間の立替払契約においてかかる場合には購入者が右業者の履行請求を拒みうる旨の特別の合意があるとき又はあつせん業者において販売業者の右不履行に至るべき事情を知り若しくは知り得べきでありながら立替払を実行したなど右不履行の結果をあつせん業者に帰せしめるのを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り、購入者は、右合意解除をもつてあつせん業者の履行請求を拒むことはできない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成2年2月20日 昭和59(オ)1088
登載
集民 第159号151頁
参照法条
民法1条2項,民法650条1項,割賦販売法2条3項2号,割賦販売法30条の4
論点70第1条民法

運航委託契約により船舶の運航を受託した者につき船長に対する安全配慮義務が認められた事例

裁判要旨運航委託契約により船舶の運航を受託した者が、船舶を自己の業務の中に一体的に従属させ、船内事故の被害者で直接の契約関係にない船長に対し指揮監督権を行使する立場にあり、船長かち実質的に労務の供給を受けていたという事実関係の下においては、右受託者は、船長に対し信義則上の安全配慮義務を負う。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成2年11月8日 昭和62(オ)1047
登載
集民 第161号191頁
参照法条
民法1条2項,民法415条,民法643条,民法656条
論点71第1条民法

有責配偶者からの離婚請求において別居期間が相当の長期間に及んだものとされた事例

裁判要旨有責配偶者である夫からされた離婚請求において、夫が別居後の妻子の生活費を負担し、離婚請求について誠意があると認められる財産関係の清算の提案をしているなど判示の事情のあるときは、約八年の別居期間であっても、他に格別の事情のない限り、両当事者の年齢及び同居期間との対比において別居期間が相当の長期間に及んだと解すべきである。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成2年11月8日 平成1(オ)1039
登載
集民 第161号203頁
参照法条
民法1条2項,民法770条
論点72第1条民法

県が職員らの不正につき損害賠償金を支払ったことにより取得した求償権の一部を知事において行使しないことが違法な怠る事実に当たるとはいえないとした原審の判断に違法があるとされた事例

裁判要旨県が教員採用試験における職員らの不正のため不合格となった受験者らに損害賠償金を支払ったことにより取得した求償権の一部を知事において行使しないことが財産の管理を違法に怠るものであるとして提起された住民訴訟において,上記不正は県の教育委員会の職員らが現職の教員を含む者から依頼を受けて受験者の得点を操作するなどして組織的に行われ,一部は賄賂の授受を伴うなど悪質なものであり,その結果も本来合格していたはずの多数の受験者が不合格となるなど極めて重大であったことに鑑み,これに関与した職員らに対する退職手当の返納命令や不支給は正当なものであったという事情の下では,教員の選考に試験の総合点以外の要素を加味すべきであるとの考え方に対して上記教育委員会が確固とした方針を示してこなかったことや,上記返納命令に基づく返納の実現が必ずしも確実ではなかったこと等の抽象的な事情のみから直ちに上記求償権のうち上記返納に係る額に相当する部分を行使しないことが違法な怠る事実に当たるとはいえないとした原審の判断には,違法がある。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成29年9月15日 平成28(行ヒ)33
登載
集民 第256号77頁
参照法条
国家賠償法1条2項,民法1条2項,民法722条2項,地方自治法242条の2第1項3号,地方自治法242条の2第1項4号
論点73第1条民法

1 出願人が特許出願時に容易に想到することができた他人の製品等に係る構成を特許請求の範囲に記載しなかっただけで,同製品等が特許請求の範囲から意識的に除外されたなどの同製品等と特許請求の範囲に記載の構成とが均等なものといえない特段の事情が存するといえるか
2 出願人が特許出願時に容易に想到することができた他人の製品等に係る構成を特許請求の範囲に記載しなかったときにおける,同製品等が特許請求の範囲から意識的に除外されたなどの同製品等と特許請求の範囲に記載の構成とが均等なものといえない特段の事情が存する場合

裁判要旨1 出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の他人が製造等をする製品又は用いる方法と異なる部分につき,同製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても,それだけでは,同製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの同製品等と特許請求の範囲に記載の構成とが均等なものといえない特段の事情が存するとはいえない。
2 出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の他人が製造等をする製品又は用いる方法と異なる部分につき,同製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において,客観的,外形的にみて,同製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには,同製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの同製品等と特許請求の範囲に記載の構成とが均等なものといえない特段の事情が存する。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成29年3月24日 平成28(受)1242
登載
民集 第71巻3号359頁
参照法条
(1,2につき)特許法70条1項,特許法第4章第2節 権利侵害,民法1条2項
論点74第1条民法

1 商標法4条1項10号該当を理由とする無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後に,商標権侵害訴訟の相手方が,同号該当による無効理由の存在をもって,同法39条において準用する特許法104条の3第1項の規定に係る抗弁を主張することの許否
2 商標法4条1項10号該当を理由とする無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後に,商標権侵害訴訟の相手方が,その登録商標が自己の業務に係る商品等を表示するものとして周知である商標との関係で同号に該当することを理由として,権利濫用の抗弁を主張することの許否

裁判要旨1 商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって,同法39条において準用する特許法104条の3第1項の規定に係る抗弁を主張することが許されない。
2 商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後であっても,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものであるか否かにかかわらず,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であるために同号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することが許される。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成29年2月28日 平成27(受)1876
登載
民集 第71巻2号221頁
参照法条
(1,2につき) 商標法4条1項10号,商標法47条1項 (1につき) 商標法39条,特許法104条の3第1項 (2につき) 民法1条3項,商標法25条
論点75第1条民法

離婚した父母のうち子の親権者と定められた父が法律上監護権を有しない母に対し親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることが権利の濫用に当たるとされた事例

裁判要旨離婚した父母のうち子の親権者と定められた父が法律上監護権を有しない母に対し親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることは,次の(1)~(3)など判示の事情の下においては,権利の濫用に当たる。
(1) 子が7歳であり,母は,父と別居してから4年以上,単独で子の監護に当たってきたものであって,母による上記監護が子の利益の観点から相当なものではないことの疎明がない。
(2) 母は,父を相手方として子の親権者の変更を求める調停を申し立てている。
(3) 父が,子の監護に関する処分としてではなく,親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求める合理的な理由を有することはうかがわれない。
(補足意見がある。)
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成29年12月5日 平成29(許)17
登載
民集 第71巻10号1803頁
参照法条
民法1条3項,民法820条
論点76第1条民法

賃借人が契約当事者を実質的に変更したときは賃貸人は違約金を請求することができるなどの定めのある賃貸借契約において,当該賃借人が吸収分割の後は責任を負わないものとする吸収分割により契約当事者の地位を承継させた場合に,当該賃借人が上記吸収分割がされたことを理由に上記定めに基づく違約金債権に係る債務を負わないと主張することが信義則に反し許されないとされた事例

裁判要旨賃借人Yが契約当事者を実質的に変更したときは賃貸人Xは契約を解除し違約金を請求することができる旨の定めのある建物の賃貸借契約において,Yが吸収分割の後は責任を負わないものとする吸収分割により契約当事者の地位をAに承継させた場合に,次の(1)~(3)など判示の事情の下においては,Yが,上記賃貸借契約を解除したXに対し,上記吸収分割がされたことを理由に上記定めに基づく違約金債権に係る債務を負わないと主張することは,信義則に反して許されず,Xは,上記吸収分割の後も,Yに対して同債務の履行を請求することができる。
(1) Xは長期にわたってYに上記建物を賃貸しその賃料によって上記建物の建築費用を回収することを予定していたと解され,Xが上記定めを設けたのは賃借人の変更による不利益を回避することを意図していたものといえ,YもXの上記のような意図を理解した上で上記賃貸借契約を締結したものといえる。
(2) Aは,上記吸収分割の前の資本金が100万円であって,上記吸収分割によって上記違約金債権の額を大幅に下回る額の資産しかYから承継しておらず,同債権に係る債務の支払能力を欠くことが明らかである。
(3) Xは,上記違約金債権を有しているとして,Yに対し,上記吸収分割について会社法789条1項2号の規定による異議を述べることができたとは解されない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成29年12月19日 平成29(許)10
登載
民集 第71巻10号2592頁
参照法条
民法1条2項,会社法759条1項,会社法789条1項2号
論点77第1条民法

拘置所に収容された被勾留者に対する国の安全配慮義務の有無

裁判要旨国は,拘置所に収容された被勾留者に対して,その不履行が損害賠償責任を生じさせることとなる信義則上の安全配慮義務を負わない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成28年4月21日 平成26(受)755
登載
民集 第70巻4号1029頁
参照法条
民法1条2項,民法415条,刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律(平成18年法律第58号による廃止前のもの)40条,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律62条1項2号
論点78第1条民法

公序良俗に反する無効な出資と配当に関する契約により給付を受けた金銭の返還につき,当該給付が不法原因給付に当たることを理由として拒むことは信義則上許されないとされた事例

裁判要旨破産者甲との間の契約が公序良俗に反して無効であるとして,乙が当該契約により給付を受けた金銭の返還を求められた場合において,当該金銭は無限連鎖講に該当する事業によって給付された配当金であって他の会員が出えんした金銭を原資とするものであり,当該事業の会員の相当部分の者は甲の破綻により損失を受けて破産債権者の多数を占めるに至っており,甲の破産管財人が破産債権者への配当を行うなど適正かつ公平な清算を図ろうとするため乙に対して当該配当金の返還を求めているなど判示の事情の下においては,乙が当該配当金の給付が不法原因給付に当たることを理由としてその返還を拒むことは,信義則上許されない。
(補足意見がある。)
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成26年10月28日 平成24(受)2007
登載
民集 第68巻8号1325頁
参照法条
民法1条2項,民法90条,民法708条,破産法78条1項,無限連鎖講の防止に関する法律2条,無限連鎖講の防止に関する法律3条
論点79第1条民法

建物の地下1階部分を賃借して店舗を営む者が建物の所有者の承諾の下に1階部分の外壁等に看板等を設置していた場合において,建物の譲受人が賃借人に対して当該看板等の撤去を求めることが権利の濫用に当たるとされた事例

裁判要旨繁華街に位置する建物の地下1階部分を賃借して店舗を営む者が建物の所有者の承諾の下に1階部分の外壁等に看板等を設置していた場合において,建物の譲受人が賃借人に対して当該看板等の撤去を求めることは,次の(1)〜(4)など判示の事情の下においては,権利の濫用に当たる。
(1) 上記看板等は,上記店舗の営業の用に供されており,建物の地下1階部分と社会通念上一体のものとして利用されてきた。
(2) 賃借人において上記看板等を撤去せざるを得ないこととなると,建物周辺の通行人らに対し建物の地下1階部分で上記店舗を営業していることを示す手段はほぼ失われ,その営業の継続は著しく困難となる。
(3) 上記看板等の設置が建物の所有者の承諾を得たものであることは,譲受人において十分知り得たものである。
(4) 譲受人に上記看板等の設置箇所の利用について特に具体的な目的があることも,上記看板等が存在することにより譲受人の建物の所有に具体的な支障が生じていることもうかがわれない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成25年4月9日 平成24(受)2280
登載
集民 第243号291頁
参照法条
民法1条3項,借地借家法31条1項
論点80第1条民法

契約の一方当事者が契約の締結に先立ち信義則上の説明義務に違反して契約の締結に関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合の債務不履行責任の有無

裁判要旨契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には,上記一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき,不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別,当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない。
(補足意見がある。)
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成23年4月22日 平成20(受)1940
登載
民集 第65巻3号1405頁
参照法条
民法1条2項,民法415条
論点81第1条民法

妻が,夫に対し,夫との間に法律上の親子関係はあるが,妻が婚姻中に夫以外の男性との間にもうけた子につき,離婚後の監護費用の分担を求めることが,権利の濫用に当たるとされた事例

裁判要旨妻が,夫に対し,夫との間に法律上の親子関係はあるが,妻が婚姻中に夫以外の男性との間にもうけた子につき,離婚後の監護費用の分担を求めることは,次の(1)〜(3)など判示の事情の下においては,権利の濫用に当たる。
(1) 妻が,出産後程なく当該子と夫との間に自然的血縁関係がないことを知ったのに,そのことを夫に告げなかったため,夫は,当該子との親子関係を否定する法的手段を失った。
(2) 夫は,婚姻中,相当に高額な生活費を妻に交付するなどして,当該子の養育・監護のための費用を十分に分担してきた。
(3) 離婚後の当該子の監護費用を専ら妻において分担することができないような事情はうかがわれない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成23年3月18日 平成21(受)332
登載
集民 第236号213頁
参照法条
民法1条3項,民法766条1項,民法771条
論点82第1条民法

簡易生命保険契約の保険金受取人が無断で保険金等の支払を受けた者に対し不法行為に基づく損害賠償を請求する場合において上記の者が損害の発生を否認して請求を争うことが信義誠実の原則に反し許されないとされた事例

裁判要旨簡易生命保険契約の保険金受取人であるXが,無断で保険金等の支払を受けたY1及びY2に対し不法行為に基づく損害賠償を請求する場合において,次の(1),(2)など判示の事情の下では,上記支払が有効な弁済とはならず,Xが依然として上記保険金等の支払請求権を有しているとしても,Y1及びY2がXに損害が発生したことを否認してXの損害賠償請求を争うことは,信義誠実の原則に反し許されない。
(1) Y1及びY2は,郵便局員から上記保険金等の支払請求権がXに帰属する旨の説明を受けていながら,Xに無断で,X名義の支払請求書兼受領証を作成するなどして,支払請求手続きを執った。
(2) Y1及びY2が上記保険金等の支払を受けた後,Xは,日本郵政公社に上記保険金等の支払を請求したが拒絶された。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成23年2月18日 平成21(受)216
登載
集民 第236号147頁
参照法条
民法1条2項,民法478条,民法709条,民法719条,民訴法2条
論点83第1条民法

個品割賦購入あっせんにおいて,購入者と販売業者との間の売買契約が公序良俗に反し無効であることにより,購入者とあっせん業者との間の立替払契約が無効となるか

裁判要旨個品割賦購入あっせんにおいて,購入者と販売業者との間の売買契約が公序良俗に反し無効とされる場合であっても,販売業者とあっせん業者との関係,販売業者の立替払契約締結手続への関与の内容及び程度,販売業者の公序良俗に反する行為についてのあっせん業者の認識の有無及び程度等に照らし,販売業者による公序良俗に反する行為の結果をあっせん業者に帰せしめ,売買契約と一体的に立替払契約についてもその効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り,売買契約と別個の契約である購入者とあっせん業者との間の立替払契約が無効となる余地はない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成23年10月25日 平成21(受)1096
登載
民集 第65巻7号3114頁
参照法条
民法1条2項,民法90条,割賦販売法(平成20年法律第74号による改正前のもの)2条3項2号,割賦販売法(平成20年法律第74号による改正前のもの)30条の4,割賦販売法2条4項,割賦販売法35条の3の19
論点84第1条民法

土地の賃貸人及び転貸人が,転借人所有の地上建物の根抵当権者に対し,借地権の消滅を来すおそれのある事実が生じたときは通知する旨の条項を含む念書を差し入れた場合において,賃貸人及び転貸人が地代不払の事実を土地の転貸借契約の解除に先立ち根抵当権者に通知する義務を負い,その不履行を理由とする根抵当権者の損害賠償請求が信義則に反するとはいえないとされた事例

裁判要旨土地の賃貸人及び転貸人が,転借人所有の地上建物の根抵当権者に対し,借地権の消滅を来すおそれのある事実が生じたときは通知する旨の条項を含む念書を差し入れた場合において,次の(1)〜(3)など判示の事実関係の下では,賃貸人及び転貸人は,上記念書の内容等につき根抵当権者から直接説明を受けておらず,上記念書を差し入れるに当たり根抵当権者から対価の支払を受けていなかったとしても,地代不払の事実を土地の転貸借契約の解除に先立ち根抵当権者に通知する義務を負い,その不履行を理由とする根抵当権者の損害賠償請求が信義則に反するとはいえない。
(1) 上記念書には,地代不払など借地権の消滅を来すおそれのある事実が生じた場合には,賃貸人及び転貸人が根抵当権者にこれを通知し,借地権の保全に努める旨が明記されていた。
(2) 賃貸人及び転貸人は,事前に上記念書の内容を十分に検討する機会を与えられてこれに署名押印又は記名押印をした。
(3) 転貸人は不動産の賃貸借を目的とする会社であり,賃貸人は転貸人の代表者及びその子である。
(補足意見がある。)
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成22年9月9日 平成21(受)1661
登載
集民 第234号385頁
参照法条
民法1条2項,民法415条,民法第3編第2章 契約
論点85第1条民法

更生会社であった貸金業者において,届出期間内に届出がされなかった更生債権である過払金返還請求権につきその責めを免れる旨主張することが信義則に反しないとされた事例

裁判要旨更生会社であった貸金業者において,届出期間内に届出がされなかった更生債権である過払金返還請求権につきその責めを免れる旨主張することは,(1)上記貸金業者の発行したカードは従前どおり使用することができる旨の社告が新聞に掲載された際に,上記貸金業者において,過払金返還請求権につき債権の届出をしないと更生会社がその責めを免れることになる旨の説明をせず,(2)上記貸金業者の更生手続におけるのと同一の会社をスポンサーとして進められた別の貸金業者の更生手続において,債権の届出がされなかった過払金返還請求権についてもその責めを免れないとの取扱いがされたという事情があったとしても,信義則に反するとはいえない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成22年6月4日 平成20(受)2114
登載
集民 第234号111頁
参照法条
民法1条2項,旧会社更生法(平成14年法律第154号による改正前のもの)241条,会社更生法204条1項
論点86第1条民法

A社の財務部門を法人化して設立され,A社を中核とするグループに属するX社が,上記グループに属するB社に金員を貸し付け,B社の代表取締役であるYがこの貸付けに係るB社の借入金債務を保証した場合において,B社が既に事業を停止している状況下で,X社がYに対して保証債務の履行を請求することが権利の濫用に当たるとされた事例

裁判要旨A社の財務部門を法人化して設立され,A社を中核とするグループに属するX社が,上記グループに属するB社に金員を貸し付け,B社の代表取締役であるYがこの貸付けに係るB社の借入金債務を保証した場合において,B社が既に事業を停止している状況下で,X社がYに対して保証債務の履行を請求することは,次の(1)〜(5)など判示の事情の下においては,権利の濫用に当たる。
(1) B社は,A社と代表取締役を共通にするC社の支店を法人化し,上記グループに属するD社が全額出資して設立された会社であり,その設立後は,上記グループに属するE社がB社の資金を掌握するなどして,上記グループに属する各社が,B社との間で締結した経営顧問契約等の各契約に基づき,B社の売上げから顧問料等の名目により確実に収入を得ることができる体制が周到に築かれていた。
(2) B社は,その業務遂行に関し代表取締役にはほとんど裁量の余地がなく,資金繰りを含め経営判断は,A社の代表取締役等に依存し,その指示に従わざるを得ない経営体制にあった。
(3) Yは,上記支店でアルバイトとして勤務を始め,B社が設立された際に同社の正社員となり,わずか数か月後にB社の代表取締役に就任したものの,B社の設立の前後を通じてその勤務場所や勤務実態等に格別の変化はなく,上記(2)のB社の経営体制の下にあっては,単なる従業員とほとんど異ならない立場にあった。
(4) Yは,近い将来B社の資金繰りが行き詰まるおそれがある状況の下で,強く働きかけられてB社の代表取締役に就任し,就任後間もなくしてB社の資金繰りが行き詰まるや,A社の代表取締役が全株式を保有するX社からB社が融資を受け,この融資に係る債務を保証するよう指示されたものであり,これを拒むことは事実上困難であった。
(5) 上記貸付けにおいては,利息制限法所定の制限利率を超える利率による利息及び損害金の約定がされていた。
(補足意見がある。)
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成22年1月29日 平成19(受)2065
登載
集民 第233号33頁
参照法条
民法1条3項,民法446条
論点87第1条民法

法人であるYから定年により職を解く旨の辞令を受けた職員であるXがYに対し雇用契約上の地位確認及び賃金等の支払を求める訴訟において,控訴審が,X,Yともに主張していない法律構成である信義則違反の点についてXに主張するか否かを明らかにするよう促すとともにYに十分な反論及び反証の機会を与える措置をとることなく,Yは定年退職の告知の時から1年を経過するまでは賃金支払義務との関係では信義則上定年退職の効果を主張することができないと判断したことに釈明権の行使を怠った違法があるとされた事例

裁判要旨法人であるYから定年規程所定の65歳の定年により職を解く旨の辞令を受けた職員であるXが,Yとの間でXの定年を80歳とする旨の合意があったと主張して,Yに対し雇用契約上の地位確認及び賃金等の支払を求める訴訟において,次の(1),(2)のような訴訟の経過の下では,控訴審が,X,Yともに主張していない法律構成である信義則違反の点についてXに主張するか否かを明らかにするよう促すとともにYに十分な反論及び反証の機会を与える措置をとることなく,Yは定年退職の告知の時から1年を経過するまでは賃金支払義務との関係では信義則上定年規程による定年退職の効果を主張することができないと判断したことには,釈明権の行使を怠った違法がある。
(1) 第1審は,弁論準備手続期日において本件の争点が上記合意の存否である旨を確認し,口頭弁論期日におけるその結果の陳述を経た上,X本人尋問及び証人尋問を行い,上記合意があったとは認められないとしてXの請求を棄却する旨の判決をした。
(2) 控訴審は,第1回口頭弁論期日において口頭弁論を終結したところ,同期日において陳述された控訴理由もそれに対する答弁も,専ら上記合意の存否に関するものであった。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成22年10月14日 平成20(受)1590
登載
集民 第235号1頁
参照法条
民訴法149条,民法1条2項
論点88第1条民法

貸金業者において,特約に基づき借主が期限の利益を喪失した旨主張することが,信義則に反し許されないとした原審の判断に違法があるとされた事例

裁判要旨貸金業者が,借主に対し,元利金の支払を怠ったときは当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下に3回にわたり金銭の貸付けを行い,各貸付けにつき借主が期限の利益を喪失した後に,一部弁済を受領する都度,弁済金を遅延損害金のみ又は遅延損害金と元金の一部に充当した旨記載した領収書兼利用明細書を交付していた場合において,次の(1)〜(3)の各事実のみから,貸金業者において,上記各貸付けにつき,上記特約に基づき借主が期限の利益を喪失したと主張することが信義則に反し許されないとした原審の判断には,違法がある。
(1) 貸金業者は,借主が期限の利益を喪失した後も元利金の一括弁済を求めず,借主からの一部弁済を受領し続けた。
(2) 上記各貸付けにおける約定の利息の利率と遅延損害金の利率とが同一ないし近似していた。
(3) 貸金業者は,借主が1回目及び2回目の各貸付けについて期限の利益を喪失した後に3回目の貸付けを行った。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成21年9月11日 平成19(受)1128
登載
集民 第231号495頁
参照法条
民法1条2項,民法136条
論点89第1条民法

貸金業者において,特約に基づき借主が期限の利益を喪失した旨主張することが,信義則に反し許されないとされた事例

裁判要旨貸金業者が,借主に対し,元利金の支払を怠ったときは当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下に金銭の貸付けを行い,借主が期限の利益を喪失した後に,一部弁済を受領する都度,弁済金を遅延損害金と残元本の一部に充当した旨記載した領収書兼利用明細書を送付していた場合であっても,次の(1)〜(4)など判示の事情の下においては,貸金業者が,上記特約に基づき借主が期限の利益を喪失したと主張することは,信義則に反し許されない。
(1) 上記貸付けに係る契約には,遅延損害金の利率を年36.5%としつつ,期限の利益喪失後も当初の約定の支払期日までに支払われた遅延損害金については,その利率を利息の利率と同じ年29.8%とする旨の特約が付されていた。
(2) 貸金業者の担当者は,借主が期限の利益を喪失した約定の支払期日の前に,約定に従えば支払うべき元利金の合計額を下回る金員を支払えば足りる旨述べていた上,貸金業者は,同支払期日の翌日に借主が支払った弁済金につき,これを利息と元本に充当した旨記載した領収書兼利用明細書を送付した。
(3) その後も,貸金業者の担当者は,借主が同担当者に対して支払が約定の支払期日の翌日になる旨告げた際,1日分の金利を余計に支払うことを求め,支払期日の翌日に支払う場合の支払金額として年29.8%の割合で計算した金利と毎月返済すべきこととされていた元本との合計額を告げた。
(4) 上記(1)〜(3)の貸金業者の対応などにより,借主は,期限の利益を喪失していないと誤信し,貸金業者も,その誤信を知りながらこれを解くことなく,長期間,借主が経過利息と誤信して支払った金員等を受領し続けた。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成21年9月11日 平成21(受)138
登載
集民 第231号531頁
参照法条
民法1条2項,民法136条
論点90第1条民法

自動車の買主が,当該自動車が車台の接合等により複数の車台番号を有することが判明したとして,錯誤を理由に売買代金の返還を求めたのに対し,売主が移転登録手続との同時履行を主張することが信義則上許されないとされた事例

裁判要旨Xが,Yから購入して転売した自動車につき,Yから転売先に直接移転登録がされた後,車台の接合等により複数の車台番号を有するものであったことが判明したとして,Yに対し錯誤による売買契約の無効を理由に売買代金の返還を求めた場合において,Yは本来新規登録のできない上記自動車について新規登録を受けた上でこれをオークションに出品し,XはYにより表示された新規登録に係る事項等を信じて上記自動車を買い受けたものであり,上記自動車についてのXからYへの移転登録手続には困難が伴うなどの判示の事情の下では,仮にYがXに対し上記自動車につきXからYへの移転登録請求権を有するとしても,Xからの売買代金返還請求に対し,Yが上記自動車についての移転登録手続との同時履行を主張することは,信義則上許されない。
(補足意見がある。)
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成21年7月17日 平成19(受)315
登載
集民 第231号419頁
参照法条
民法1条2項,民法533条
論点91第1条民法

更生会社であった貸金業者において,届出期間内に届出がされなかった更生債権である過払金返還請求権につきその責めを免れる旨主張することが,信義則に反せず,権利の濫用にも当たらないとされた事例

裁判要旨更生会社であった貸金業者において,届出期間内に届出がされなかった更生債権である過払金返還請求権につきその責めを免れる旨主張することは,管財人又は更生会社が,顧客に対し,過払金返還請求権が発生している可能性があることやその届出をしないと更正会社がその責めを免れることにつき注意を促さず,保全管理人が上記貸金業者の発行したカードは従前どおり使用することができる旨の社告を新聞に掲載したなど判示の事情があったとしても,信義則に反するものではなく,権利の濫用にも当たらない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成21年12月4日 平成21(受)319
登載
集民 第232号529頁
参照法条
民法1条2項,民法1条3項,旧会社更生法(平成14年法律第154号による改正前のもの)241条,会社更生法204条1項
論点92第1条民法

株式会社が株主総会の決議等を経ることなく退任取締役に支給された退職慰労金相当額の金員につき不当利得返還請求をすることが信義則に反せず権利の濫用に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例

裁判要旨株式会社が退任取締役に対し株主総会の決議等を経ることなく支給された退職慰労金相当額の金員につき不当利得返還請求をする場合において,(1)当該会社では発行済株式総数の99%以上を保有する代表者が内規に基づく退職慰労金の支給を決裁することにより株主総会の決議に代えてきた,(2)退任取締役が上記内規に基づく退職慰労金の支給を催告したところその約10日後に上記金員の送金がされ,これにつき代表者の決裁はなかったものの,当該会社が退任取締役に対しその返還を明確に求めたのは送金後1年近く経過してからであったなど判示の事実関係の下においては,代表者が上記送金をその直後に認識していた事実や退任取締役が従前退職慰労金を支給された退任取締役と同等以上の業績を上げてきた事実の有無等につき審理判断することなく,当該会社による上記請求は信義則に反せず,権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,違法がある。
(反対意見がある。)
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成21年12月18日 平成21(受)233
登載
集民 第232号803頁
参照法条
民法1条2項,民法1条3項,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)269条,会社法361条
論点93第1条民法

大韓民国の国籍を有するAとその嫡出子として同国の戸籍に記載されているYとの間の実親子関係についてAの子であるXらが不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断に,同国の民法の解釈適用を誤った違法があるとされた事例

裁判要旨大韓民国の国籍を有するAの嫡出子として同国の戸籍に記載されているYがAの実子ではない場合において,次の(1)〜(4)などの判示の事情の下では,これらの事情を十分検討することなく,Aの子であるXらがAとYとの間の実親子関係不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,同国の民法の解釈適用を誤った違法がある。
(1) AとYとの間には30年以上にわたり実親子と同様の生活の実体があり,かつ,Xらは,Aの死亡の約10年後まではYがAの実子であることを否定したことがなく,Yとの間でAの遺産分割協議を成立させた。
(2) 判決をもってAとYとの間の実親子関係の不存在が確定されると,Yは軽視し得ない精神的苦痛及び経済的不利益を受ける可能性が高い。
(3) AはYとの間で実親子としての関係を維持したいと望んでいたことが推認されるのに,Aが死亡した現時点ではYがAとの間で養子縁組をすることも不可能である。
(4) Xらは,Yが取得したAの遺産の返還を求める訴訟を提起しており,前記実親子関係を否定するに至った動機,目的は,経済的なものであることがうかがわれる。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成20年3月18日 平成18(受)2056
登載
集民 第227号571頁
参照法条
大韓民国民法2条2項,大韓民国民法865条1項,民法1条3項,民法772条,人事訴訟法2条2号
論点94第1条民法

振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しない場合における受取人による当該振込みに係る預金の払戻請求と権利の濫用

裁判要旨受取人の普通預金口座への振込みを依頼した振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しない場合において,受取人が当該振込みに係る預金の払戻しを請求することについては,払戻しを受けることが当該振込みに係る金員を不正に取得するための行為であって,詐欺罪等の犯行の一環を成す場合であるなど,これを認めることが著しく正義に反するような特段の事情があるときは,権利の濫用に当たるとしても,受取人が振込依頼人に対して不当利得返還義務を負担しているというだけでは,権利の濫用に当たるということはできない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成20年10月10日 平成19(受)152
登載
民集 第62巻9号2361頁
参照法条
民法1条3項,民法666条
論点95第1条民法

原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律等に基づき健康管理手当の支給認定を受けた被爆者が外国へ出国したことに伴いその支給を打ち切られたため未支給の健康管理手当の支払を求める訴訟において支給義務者が地方自治法236条〈境界線付近の建築に関する慣習〉所定の消滅時効を主張することが信義則に反し許されないとされた事例

裁判要旨原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律又は原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律に基づき健康管理手当の支給認定を受けた被爆者が外国へ出国したことに伴いその支給を打ち切られたため未支給の健康管理手当の支払を求める訴訟において,支給義務者が地方自治法236条所定の消滅時効を主張することは,(1)上記被爆者がその申請に基づき上記健康管理手当の受給権を具体的な権利として取得したこと,(2)法令上の根拠がないのに,被爆者が国外に居住地を移した場合に健康管理手当の受給権につき失権の取扱いとなるものと定めた違法な通達に基づき,上記支給義務者が支給を打ち切ったこと,(3)上記通達の定めは我が国を出国した被爆者に出国の時点から適用されるものであり,失権取扱い後の権利行使が通常困難となる者を対象としていること,(4)上記被爆者については上記失権の取扱いに対し訴訟を提起するなどして自己の権利を行使することが合理的に期待できたなどの事情が見当たらないことなど判示の事情の下では,信義則に反し許されない。
(補足意見がある。)
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成19年2月6日 平成18(行ヒ)136
登載
民集 第61巻1号122頁
参照法条
原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律5条,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成11年法律第160号による改正前のもの)27条,地方自治法236条2項,民訴法2条,民法1条2項
論点96第1条民法

Xの開発,製造したゲーム機を順次XからY,YからAに販売する旨の契約が締結に至らなかった場合においてYがXに対して契約準備段階における信義則上の注意義務違反を理由とする損害賠償責任を負うとされた事例

裁判要旨XがAの意向を受けて開発,製造したゲーム機を順次XからY,YからAに継続的に販売する旨の契約が,締結の直前にAが突然ゲーム機の改良要求をしたことによって締結に至らなかった場合において,Yが,開発等の続行に難色を示すXに対し,Aから具体的な発注を受けていないにもかかわらず,ゲーム機200台を発注する旨を口頭で約したり,具体的な発注内容を記載した発注書及び条件提示書を交付するなどし,ゲーム機の売買契約が確実に締結されるとの過大な期待を抱かせてゲーム機の開発,製造に至らせたなど判示の事情の下では,Yは,Xに対する契約準備段階における信義則上の注意義務に違反したものとして,これによりXに生じた損害を賠償する責任を負う。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成19年2月27日 平成17(受)869
登載
集民 第223号343頁
参照法条
民法1条2項,民法415条,民法709条
論点97第1条民法

郵政事務官として採用された者が,禁錮以上の刑に処せられたという失職事由が発生した後も約26年11か月にわたり事実上勤務を継続した場合に,国(旧日本郵政公社,郵便事業株式会社が逐次その地位を承継)において上記の者が国家公務員法76条,38条2号に基づき失職した旨を主張することが,信義則に反し権利の濫用に当たるということはできないとされた事例

裁判要旨郵政事務官として採用された者が,禁錮以上の刑に処せられたという失職事由が発生した後も約26年11か月にわたり勤務を継続した場合に,国(旧日本郵政公社,郵便事業株式会社が逐次その地位を承継)において上記の者が国家公務員法76条,38条2号に基づき失職した旨を主張することは,上記の者が上記失職事由の発生を隠して事実上勤務を継続し給与の支給を受け続けていたにすぎないという事情の下では,信義則に反し権利の濫用に当たるということはできない。
(反対意見がある。)
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成19年12月13日 平成18(行ツ)171
登載
集民 第226号507頁
参照法条
国家公務員法38条2号,国家公務員法76条,民訴法2条,民法1条2項,民法1条3項
論点98第1条民法

戸籍上の父母とその嫡出子として記載されている者との間の実親子関係について父母の子が不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例

裁判要旨戸籍上AB夫婦の嫡出子として記載されているYが同夫婦の実子ではない場合において,Yと同夫婦との間に約55年間にわたり実親子と同様の生活の実体があったこと,同夫婦の長女Xにおいて,Yが同夫婦の実子であることを否定し,実親子関係不存在確認を求める本件訴訟を提起したのは,同夫婦の遺産を承継した二女Cが死亡しその相続が問題となってからであること,判決をもって実親子関係の不存在が確定されるとYが軽視し得ない精神的苦痛及び経済的不利益を受ける可能性が高いこと,同夫婦はYとの間で嫡出子としての関係を維持したいと望んでいたことが推認されるのに,同夫婦は死亡しており,Yが養子縁組をして嫡出子としての身分を取得することは不可能であること,Xが実親子関係を否定するに至った動機が合理的なものとはいえないことなど判示の事情の下では,上記の事情を十分検討することなく,Xが同夫婦とYとの間の実親子関係不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,違法がある。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成18年7月7日 平成17(受)833
登載
民集 第60巻6号2307頁
参照法条
民法1条3項,民法772条,人事訴訟法2条2号
論点99第1条民法

戸籍上自己の嫡出子として記載されている者との間の実親子関係について不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例

裁判要旨戸籍上Xと亡夫との夫婦の嫡出子として記載されているYがXの実子ではない場合において,YとXとの間には,XがYに対して実親子関係不存在確認調停を申し立てるまでの約51年間にわたり実親子と同様の生活の実体があり,その間,XはYがXの実子であることを否定したことがないこと,判決をもって実親子関係の不存在が確定されるとYが軽視し得ない精神的苦痛及び経済的負担を受ける可能性が高いこと,XがYに対して実親子関係不存在確認を求める本件訴訟を提起したのは,上記調停の申立てを取り下げて約10年が経過した後であり,Xが本件訴訟を提起するに至ったことについて実親子関係を否定しなければならないような合理的な事情があるとはうかがわれないことなど判示の事情の下では,上記の事情を十分検討することなく,XがYとの間の上記実親子関係不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,違法がある。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成18年7月7日 平成17(受)1708
登載
集民 第220号673頁
参照法条
民法1条3項,民法772条,人事訴訟法2条2号
論点100第1条民法

1 建築会社の担当者が顧客に対し融資を受けて顧客所有地に容積率の制限の上限に近い建物を建築した後にその敷地の一部売却により返済資金を調達する計画を提案した際に上記計画には建築基準法にかかわる問題があることを説明しなかった点に説明義務違反があるとされた事例
2 建築会社の担当者と共に顧客に対し融資を受けて顧客所有地に容積率の制限の上限に近い建物を建築した後にその敷地の一部売却により返済資金を調達する計画を説明した銀行の担当者に上記計画には建築基準法にかかわる問題があることについての説明義務違反等がないとした原審の判断に違法があるとされた事例

裁判要旨1 建築会社の担当者が,顧客に対し,銀行から融資を受けて顧客所有地に容積率の制限の上限に近い建物を建築した後,敷地として建築確認を受けた土地の一部を売却することにより融資の返済資金を調達する計画を提案し,顧客が,上記計画に沿って銀行から融資を受けて建物を建築したが,その後,上記土地の一部を予定どおり売却することができず,上記融資の返済資金を調達することができなくなったところ,上記計画には,上記土地の一部の売却によりその余の敷地部分のみでは上記建物が容積率の制限を超える違法な建築物となり,また,上記土地の一部の買主がこれを敷地として建物を建築する際には,敷地を二重に使用することとなって建築確認を直ちには受けられない可能性があるという問題があったなど判示の事実関係の下においては,上記問題を認識しながらこれを顧客に説明しなかった上記担当者には,信義則上の説明義務違反がある。
2 銀行の担当者が,顧客に対し,融資を受けて顧客所有地に容積率の制限の上限に近い建物を建築した後,敷地として建築確認を受けた土地の一部を売却することにより融資の返済資金を調達する計画を提案した建築会社の担当者と共に,上記計画を説明し,顧客が,上記計画に沿って銀行から融資を受けて建物を建築したが,その後,上記土地の一部を予定どおり売却することができず,上記融資の返済資金を調達することができなくなったところ,上記計画には,上記土地の一部の買主がこれを敷地として建物を建築する際,敷地を二重に使用することとなって建築確認を直ちには受けられない可能性があることなどの問題があったなど判示の事実関係の下においては,顧客が,原告として,銀行の担当者は顧客に対して上記土地の一部の売却について取引先に働き掛けてでも確実に実現させる旨述べたなどの事情があったと主張しているにもかかわらず,上記事情の有無を審理することなく,上記担当者について,上記問題を含め上記土地の一部の売却可能性を調査し,これを顧客に説明すべき信義則上の義務がないとした原審の判断には,違法がある。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成18年6月12日 平成16(受)1219
登載
集民 第220号403頁
参照法条
(1,2につき)民法1条2項,民法415条,民法709条,建築基準法52条 (1につき)民法632条 (2につき)民法587条
論点101第1条民法

被告の所有する土地が建築基準法42条2項所定の道路(いわゆるみなし道路)に当たるとして人格権的権利に基づき同土地上の工作物の撤去を求める訴訟において被告が同土地がみなし道路であることを否定することは信義則上許されないとされた事例

裁判要旨被告の所有する土地が建築基準法42条2項所定の道路(いわゆるみなし道路)に当たるとして同土地周辺の建物所有者である原告らが提起した人格権的権利に基づき同土地上の工作物の撤去を求める訴訟において,被告が同土地がみなし道路であることを否定することは,被告が,建物を建築するに際し,同土地がみなし道路であることを前提に建築確認を得,同土地に幅員4mの道路を開設し,その後5年以上同土地がみなし道路であることを前提に建物を所有してきた上,同土地は公衆用道路として非課税とされているという事実関係の下では,信義則上許されない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成18年3月23日 平成15(受)1886
登載
集民 第219号967頁
参照法条
民法1条2項,民法2条,民法198条,民訴法2条,建築基準法42条2項,憲法13条
論点102第1条民法

大学の入学試験に合格し同大学に授業料等を納付するなどして納付済みの授業料等の返還を制限する特約の付された在学契約を締結した者が同大学の職員から入学式に出席しなければ入学辞退として取り扱う旨告げられたため3月31日までに同契約を解除することなく入学式に欠席することにより同契約を解除した場合において同大学が同特約が有効である旨主張して授業料の返還を拒むことが許されないとされた事例

裁判要旨大学の平成16年度の入学試験に合格し,同大学に入学金,授業料等の所定の納付金を納付して,平成16年3月25日までに入学辞退を申し出た場合には入学金を除く納付金を返還する旨の特約の付された在学契約を締結した者が,同月26日に入学辞退に関する問合せをした際に,同大学の職員から入学式に出席しなければ入学辞退として取り扱う旨告げられたため,同月31日までに同契約を解除すれば同特約は消費者契約法9条1号により無効となったのに,同日までに同契約を解除することなく同年4月2日の入学式に欠席することにより同契約を解除したなど判示の事情の下では,同大学において,同特約が有効である旨主張して,授業料の返還を拒むことは許されない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成18年11月27日 平成18(受)1130
登載
集民 第222号511頁
参照法条
民法1条2項,民法420条,民法703条,消費者契約法9条1号,学校教育法6条
論点103第1条民法

1 大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授業料等を返還しない旨の特約と公序良俗違反
2 私立医科大学の平成13年度の入学試験の合格者が同大学との間で納付済みの授業料等を返還しない旨の特約の付された在学契約を締結した後に同契約を解除した場合において同特約は公序良俗に反しないなどとして同大学に対する納付済みの授業料等の返還請求が認められなかった事例

裁判要旨1 大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授業料等を返還しない旨の特約は,その目的,意義に照らして,合格者の大学選択に関する自由な意思決定を過度に制約し,その他合格者の著しい不利益において大学が過大な利益を得ることになるような著しく合理性を欠くと認められるものでない限り,公序良俗に反しない。
2 私立医科大学の平成13年度の入学試験の合格者が,同大学に授業料等を含む所定の納付金を納付して,同大学との間で,平成13年3月21日正午よりも後に入学辞退を申し出た場合には授業料等を返還しない旨の特約の付された在学契約を締結した後,同月27日ころ同契約を解除した場合において,医科大学においては入学辞退によって欠員が生ずる可能性が潜在的に高く,欠員が生じた場合に生ずる損失が多額になることは否定し難いこと,上記特約が当時の私立大学の医学関係の学部におけるそれとの比較において格別合格者に不利益な内容のものであることがうかがわれないことなど判示の事情の下では,上記授業料等の金額が614万円であり,このうち教育充実費については6年間に納付することとされている合計額950万円のうち500万円を在学契約締結時に納付すべきものとされていることや,同大学に定員割れが生じていないことなどを考慮しても,上記特約は公序良俗に反するものではなく,同大学が上記授業料等の返還を拒むことが信義に反するともいえず,上記合格者から同大学に対する上記授業料等の返還請求は認められない。
(2につき反対意見がある。)
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成18年11月27日 平成16(受)2117
登載
民集 第60巻9号3732頁
参照法条
(1,2につき)民法90条,民法420条,学校教育法6条,(2につき)民法1条2項,民法703条
論点104第1条民法

売主から委託を受けてマンションの専有部分の販売に関する一切の事務を行っていた宅地建物取引業者に専有部分内に設置された防火戸の操作方法等につき買主に対して説明すべき信義則上の義務があるとされた事例

裁判要旨防火設備の一つとして重要な役割を果たし得る防火戸が室内に設置されたマンションの専有部分の販売に際し,防火戸の電源スイッチが一見してそれとは分かりにくい場所に設置され,それが切られた状態で専有部分の引渡しがされた場合において,宅地建物取引業者が,購入希望者に対する勧誘,説明等から引渡しに至るまで販売に関する一切の事務について売主から委託を受け,売主と一体となって同事務を行っていたこと,買主は,上記業者を信頼して売買契約を締結し,上記業者から専有部分の引渡しを受けたことなど判示の事情においては,上記業者には,買主に対し,防火戸の電源スイッチの位置,操作方法等について説明すべき信義則上の義務がある。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成17年9月16日 平成16(受)1847
登載
集民 第217号1007頁
参照法条
民法1条2項,民法555条,民法643条,民法709条
論点105第1条民法

貸金業者の債務者に対する取引履歴開示義務の有無

裁判要旨貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業の規制等に関する法律の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,その業務に関する帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負う。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成17年7月19日 平成16(受)965
登載
民集 第59巻6号1783頁
参照法条
民法1条2項,民法587条,民法709条,貸金業の規制等に関する法律19条,貸金業の規制等に関する法律施行規則16条
論点106第1条民法

1 株主総会の決議を経ずに支払われた役員報酬について事後に株主総会の決議を経た場合における当該役員報酬の支払の効力
2 株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われたことを理由として当該報酬相当額の賠償を求める株主代表訴訟において被告とされた役員らが同訴訟提起後に当該報酬につき株主総会の決議を経たことを主張することと訴訟上の信義

裁判要旨1 株主総会の決議を経ずに支払われた役員報酬について事後に株主総会の決議を経た場合には,当該決議の内容等に照らして商法(平成14年法律第44号による改正前のもの)269条及び商法279条1項の規定の趣旨目的を没却するような特段の事情があると認められない限り,当該役員報酬の支払は株主総会の決議に基づく適法有効なものになる。
2 株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われたことを理由として当該報酬相当額の賠償を求める株主代表訴訟において,被告とされた役員らが同訴訟提起後に当該報酬につき株主総会の決議を経たことを主張することは,当該決議に同訴訟を同役員らの勝訴に導く意図があったとしても,それだけでは訴訟上の信義に反して許されないものとはいえない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成17年2月15日 平成15(受)995
登載
集民 第216号303頁
参照法条
商法(平成13年法律第128号による改正前のもの)267条,商法(平成14年法律第44号による改正前のもの)269条,商法279条1項,民訴法2条,民法1条2項
論点107第1条民法

有責配偶者からの離婚請求を認容することができる場合に当たらないとされた事例

裁判要旨有責配偶者である夫からの離婚請求において,夫婦の別居期間が,事実審の口頭弁論終結時に至るまで約2年4か月であり,双方の年齢や約6年7か月という同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるとはいえないこと,夫婦間には7歳の未成熟の子が存在すること,妻が,子宮内膜症にり患しているため就職して収入を得ることが困難であり,離婚により精神的・経済的に苛酷な状況に置かれることが想定されることなど判示の事情の下では,上記離婚請求は,信義誠実の原則に反するものといわざるを得ず,これを認容することができない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成16年11月18日 平成16(受)247
登載
集民 第215号657頁
参照法条
民法1条2項,民法770条
論点108第1条民法

不当利得返還請求訴訟において不当利得返還請求権の成立要件である「損失」が発生していないと主張して請求を争うことが信義誠実の原則に反するとされた事例

裁判要旨甲が,乙と共に相続した預金債権のうちの乙の法定相続分に当たる部分について何らの受領権限もないのに受領権限があるものとして金融機関から払戻しを受けていながら,その払戻しに係る金員について乙が提起した不当利得返還請求訴訟において,一転して,上記払戻しは民法478条の弁済として有効であるとはいえず,乙が上記金融機関に対して乙の法定相続分に当たる預金債権を有していることに変わりはなく,乙には不当利得返還請求権の成立要件である「損失」が発生していないと主張するに至ったなど判示の事情の下では,甲が上記主張をして乙の不当利得返還請求を争うことは,信義誠実の原則に反し許されない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成16年10月26日 平成16(受)458
登載
集民 第215号473頁
参照法条
民法1条2項,民法478条,民法703条,民法899条,民訴法2条
論点109第1条民法

名誉,プライバシー等の侵害に基づく小説の出版の差止めを認めた原審の判断に違法がないとされた事例

裁判要旨甲をモデルとし,経歴,身体的特徴,家族関係等によって甲と同定可能な乙が全編にわたって登場する小説において,乙が顔面にしゅようを有すること,これについて通常人が嫌う生物や原形を残さない水死体の顔などに例えて表現されていること,乙の父親が逮捕された経歴を有していることなどの記述がされていることなど判示の事実関係の下では,公共の利益にかかわらない甲のプライバシーにわたる事項を表現内容に含む同小説の出版により公的立場にない甲の名誉,プライバシー及び名誉感情が侵害され,甲に重大で回復困難な損害を被らせるおそれがあるとして,同小説の出版の差止めを認めた原審の判断には,違法がない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成14年9月24日 平成13(オ)851
登載
集民 第207号243頁
参照法条
民法1条ノ2,民法198条,民法199条
論点110第1条民法

事業用ビルの賃貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了しても賃貸人が信義則上その終了を再転借人に対抗することができないとされた事例

裁判要旨ビルの賃貸,管理を業とする会社を賃借人とする事業用ビル1棟の賃貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了した場合において,賃貸人が,賃借人にその知識,経験等を活用してビルを第三者に転貸し収益を上げさせることによって,自ら各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れるとともに,賃借人から安定的に賃料収入を得ることを目的として賃貸借契約を締結し,賃借人が第三者に転貸することを賃貸借契約締結の当初から承諾していたものであること,当該ビルの貸室の転借人及び再転借人が,上記のような目的の下に賃貸借契約が締結され転貸及び再転貸の承諾がされることを前提として,転貸借契約及び再転貸借契約を締結し,再転借人が現にその貸室を占有していることなど判示の事実関係があるときは,賃貸人は,信義則上,賃貸借契約の終了をもって再転借人に対抗することができない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成14年3月28日 平成11(受)1220
登載
民集 第56巻3号662頁
参照法条
民法1条2項,民法612条,借地借家法34条
論点111第1条民法

一 いわゆるみなし道路の通行妨害と妨害排除請求権
二 いわゆるみなし道路に接する土地の所有者から右道路の敷地所有者に対する同人により右道路内に設置された金属製ポールの撤去請求が認められないとされた事例

裁判要旨一 建築基準法四二条二項の規定による指定を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有する。
二 建築基準法四二条二項の規定による指定を受け現実に開設されている道路にその敷地所有者が自動車の通行の妨げとなる金属製ポールを設置した場合において、右道路が専ら徒歩又は二輪車による通行に供されてきた未舗装のものであり、右道路に接する土地の所有者は、同土地を利用しておらず、賃貸駐車場として利用する目的で右ポールの撤去を求めているにすぎないなど判示の事実関係の下においては、同土地の所有者は、右道路を自動車で通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しているとはいえず、敷地所有者に対して人格権的権利に基づき右ポールの撤去を求めることはできない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成12年1月27日 平成8(オ)1248
登載
集民 第196号201頁
参照法条
民法1条ノ2,民法198条,民法199条,建築基準法42条2項
論点112第1条民法

金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することの許否

裁判要旨金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成10年6月12日 平成9(オ)849
登載
民集 第52巻4号1147頁
参照法条
民訴法114条,民訴法第2編第1章訴え,民法1条2項
論点113第1条民法

宅配便の荷受人が運送会社に対して運送中の荷物の紛失を理由として運送契約上の責任限度額を超える損害の賠償を請求することが信義則に反し許されないとされた事例

裁判要旨荷受人甲が、宅配便を利用して宝石類を送付することができないことを知りながら、荷送人乙が運送会社丙の宅配便を利用してダイヤモンド等を送付することを容認していたなど判示の事実関係の下においては、運送中の右ダイヤモンド等の紛失を理由として甲が丙に対し乙丙間の運送契約上の責任限度額三〇万円を超える損害の賠償を請求することは、信義則に反し、許されない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 平成10年4月30日 平成6(オ)799
登載
集民 第188号385頁
参照法条
民法1条2項,民法91条,民法709条,商法577条,商法578条,商法580条,商法583条
論点114第1条民法

限定承認をした相続人が死因贈与による不動産の取得を相続債権者に対抗することの可否

裁判要旨不動産の死因贈与の受贈者が贈与者の相続人である場合において、限定承認がされたときは、死因贈与に基づく限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による差押登記よりも先にされたとしても、信義則に照らし、限定承認者は相続債権者に対して不動産の所有権取得を対抗することができない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成10年2月13日 平成8(オ)2168
登載
民集 第52巻1号38頁
参照法条
民法1条2項,民法177条,民法554条,民法922条,民法931条
論点115第1条民法

1 優生保護法3条1項1号〈私権の享有は、出生に始まる。〉から3号まで、10条〈後見開始の審判の取消し〉及び13条2項〈保佐人の同意を要する行為等〉(3条1項1号、2号及び10条については、昭和23年9月11日から平成8年9月25日までの間、3条1項3号については、昭和23年9月11日から平成8年3月31日までの間、13条2項については、昭和27年5月27日から平成8年9月25日までの間において施行されていたもの)と憲法13条及び14条1項〈保佐開始の審判等の取消し〉
2 優生保護法3条1項1号から3号まで、10条及び13条2項(3条1項1号、2号及び10条については、昭和23年9月11日から平成8年9月25日までの間、3条1項3号については、昭和23年9月11日から平成8年3月31日までの間、13条2項については、昭和27年5月27日から平成8年9月25日までの間において施行されていたもの)に係る国会議員の立法行為の国家賠償法1条1項〈基本原則〉所定の違法性の有無
3 裁判所が民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条〈不法行為による損害賠償請求権の消滅時効〉後段の除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されないと判断することができる場合
4 民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条後段の除斥期間の主張をすることが信義則に反し権利の濫用として許されないとされた事例

裁判要旨1 優生保護法3条1項1号〈私権の享有は、出生に始まる。〉から3号まで、10条〈後見開始の審判の取消し〉及び13条2項〈保佐人の同意を要する行為等〉(3条1項1号、2号及び10条については、昭和23年9月11日から平成8年9月25日までの間、3条1項3号については、昭和23年9月11日から平成8年3月31日までの間、13条2項については、昭和27年5月27日から平成8年9月25日までの間において施行されていたもの)は、憲法13条及び14条1項に違反する。
2 優生保護法3条1項1号から3号まで、10条及び13条2項(3条1項1号、2号及び10条については、昭和23年9月11日から平成8年9月25日までの間、3条1項3号については、昭和23年9月11日から平成8年3月31日までの間、13条2項については、昭和27年5月27日から平成8年9月25日までの間において施行されていたもの)に係る国会議員の立法行為は、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受ける。
3 不法行為によって発生した損害賠償請求権が民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条〈不法行為による損害賠償請求権の消滅時効〉後段の除斥期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合には、裁判所は、除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されないと判断することができる。
4 優生保護法(昭和27年法律第141号による改正後のもの)3条1項1号の規定に基づいて生殖を不能にする手術を受けた者及びその配偶者並びに同法13条2項の規定に基づいて生殖を不能にする手術を受けた者が、国に対し、上記各規定を含む優生保護法の関係規定に係る国会議員の立法行為は違法であると主張して、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた場合において、次の⑴~⑸など判示の事情の下では、上記の者らが上記損害賠償を求める訴えを提起した後に「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」が成立し、施行されたことを考慮しても、上記の者らの上記の損害賠償請求権の行使に対して国が民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条後段の除斥期間の主張をすることは、信義則に反し、権利の濫用として許されない。
⑴ 国は、約48年間にわたり、国家の政策として、優生保護法3条1項1号から3号まで、10条及び13条2項の規定(3条1項1号、2号及び10条については、昭和23年9月11日から平成8年9月25日までの間、3条1項3号については、昭和23年9月11日から平成8年3月31日までの間、13条2項については、昭和27年5月27日から平成8年9月25日までの間において施行されていたもの)に基づく施策を実施してきた。
⑵ 国は、上記施策の実施に当たり、審査を要件とする優生手術を行う際に身体の拘束、麻酔薬施用又は欺罔等の手段を用いることも許される場合がある旨の厚生事務次官通知を各都道府県知事宛てに発出するなどして、優生手術を行うことを積極的に推進していた。
⑶ 上記施策が実施された結果として、少なくとも約2万5000人の者が上記規定に基づいて生殖を不能にする手術を受け、これにより生殖能力を喪失するという被害を受けた。
⑷ 上記訴えを提起した者らについて、上記損害賠償請求権の速やかな行使を期待することができたと解すべき事情があったことはうかがわれない。
⑸ 国は、平成8年に上記規定が削除された後、長期間にわたって、上記規定により行われた生殖を不能にする手術は適法であり、補償はしないという立場をとり続けてきた。
(3につき補足意見及び意見、4につき補足意見がある。)
裁判
最高裁判所大法廷 令和6年7月3日 令和5(受)1319
登載
民集 第78巻3号382頁
参照法条
(1、2、4につき)優生保護法(昭和27年法律第141号による改正後のもの)3条1項1号ないし3号、優生保護法(昭和27年法律第141号による改正後のもの)4条、優生保護法(昭和27年法律第141号による改正後のもの)10条、優生保護法(昭和27年法律第141号による改正後のもの)12条、優生保護法(昭和27年法律第141号による改正後のもの)13条 (1につき)憲法13条、憲法14条1項 (2、4につき)国家賠償法1条1項 (3、4につき)民法1条2項、民法3項、民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条
論点116第1条民法

子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制の方法による子の引渡しの強制執行の申立てが権利の濫用に当たるとした原審の判断に違法があるとされた事例

裁判要旨婚姻中の父母のうち父に対して子を母に引き渡すよう命ずる審判の確定から約2か月の間に2回にわたり子が母に引き渡されることを拒絶する言動をしたにとどまるなど判示の事実関係の下では、子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ子の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる父の行為を具体的に想定することは困難であるなどとして、上記審判を債務名義とする間接強制の方法による子の引渡しの強制執行の申立てが権利の濫用に当たるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。
(補足意見がある。)
裁判
最高裁判所第三小法廷 令和4年11月30日 令和3(許)17
登載
集民 第269号71頁
参照法条
民法1条3項、民事執行法172条1項、民事執行法174条1項2号
論点117第2条民法

検索事業者に対し,自己のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL並びに当該ウェブサイトの表題及び抜粋を検索結果から削除することを求めることができる場合

裁判要旨利用者の求めに応じてインターネット上のウェブサイトを検索し,ウェブサイトを識別するための符号であるURLを検索結果として当該利用者に提供する事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL並びに当該ウェブサイトの表題及び抜粋を検索結果の一部として提供する行為の違法性の有無について,当該事実の性質及び内容,当該URL等が提供されることによって当該事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断し,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,上記の者は,上記事業者に対し,当該URL等を検索結果から削除することを求めることができる。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成29年1月31日 平成28(許)45
登載
民集 第71巻1号63頁
参照法条
民法2条,民法198条,民法199条
論点118第2条民法

葬儀場の営業を行う業者が,その近隣に居宅を共有してこれに居住する者に対し,上記居宅から葬儀場の様子が見えないようにするための目隠しを設置する措置を更に講ずべき義務も,葬儀場の営業についての不法行為責任も負わないとされた事例

裁判要旨葬儀場の営業を行う業者は,その近隣に上記営業の開始前から建っている居宅から,告別式等の参列者が葬儀場に参集する様子や棺が搬入又は搬出される様子等が見えることにより,上記居宅を共有してこれに居住する者が強いストレスを感じているとしても,次の(1)〜(4)など判示の事情の下においては,上記の者に対し,上記居宅から葬儀場の様子が見えないようにするための目隠しを設置する措置を更に講ずべき義務も,葬儀場の営業についての不法行為責任も負わない。
(1) 葬儀場と上記居宅との間には幅員15.3mの道路があり,上記居宅において葬儀場の様子が見える場所は2階の一部の居室等に限られる。
(2) 葬儀場における棺の搬入や出棺は,霊きゅう車等を葬儀場の建物の玄関先まで近付けて停車させ,速やかに,ごく短時間のうちに行われている。
(3) 葬儀場の建物の建築やその営業は,行政法規の規制に反するものではない。
(4) 上記業者は,周辺住民により構成される自治会からの要望事項に配慮して,目隠しのためのフェンスの設置,入口位置の変更,防音,防臭対策等の措置を講じている。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成22年6月29日 平成21(受)1709
登載
集民 第234号159頁
参照法条
民法2条,民法709条,憲法13条
論点119第2条民法

1 入会部落の慣習に基づく入会集団の会則のうち入会権者の資格要件を一家の代表者としての世帯主に限定する部分が公序良俗に反しないとされた事例
2 入会部落の慣習に基づく入会集団の会則のうち入会権者の資格を原則として男子孫に限定し同入会部落の部落民以外の男性と婚姻した女子孫は離婚して旧姓に復しない限り入会権者の資格を認めないとする部分が民法90条〈公序良俗〉の規定により無効とされた事例

裁判要旨1 A入会部落の慣習に基づく入会集団の会則のうち入会権者の資格要件を一家の代表者としての世帯主に限定する部分は,現在においても,公序良俗に反するものということはできない。
2 A入会部落の慣習に基づく入会集団の会則のうち,入会権者の資格を原則として男子孫に限定し,同入会部落の部落民以外の男性と婚姻した女子孫は離婚して旧姓に復しない限り入会権者の資格を認めないとする部分は,遅くとも平成4年以降においては,性別のみによる不合理な差別として民法90条の規定により無効である。
(2につき補足意見がある。)
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成18年3月17日 平成16(受)1968
登載
民集 第60巻3号773頁
参照法条
(1,2につき)民法2条,民法90条,民法92条,民法263条,民法294条,憲法14条1項
論点120第2条民法

1 不正競争防止法2条1項1号,2号にいう「営業」と宗教法人の宗教活動
2 宗教法人の名称を冒用されない権利に基づく侵害行為の差止請求の可否
3 宗教法人Yによる「天理教豊文教会」との名称の使用が宗教法人Xの「天理教」との名称を冒用されない権利を違法に侵害するものとはいえないとされた事例

裁判要旨1 不正競争防止法2条1項1号,2号にいう「営業」は,宗教法人の本来的な宗教活動及びこれと密接不可分の関係にある事業を含まない。
2 宗教法人は,その名称を他の宗教法人等に冒用されない権利を有し,これを違法に侵害されたときは,加害者に対し,侵害行為の差止めを求めることができる。
3 「天理教」との名称の宗教法人Xと被包括関係を設定していた宗教法人Yが,被包括関係の廃止に伴い,その名称を「天理教豊文分教会」から「天理教豊文教会」に変更した場合において,Yは長年にわたって「天理教」の語を冠した名称を使用してきたこと,Yの信奉する教義は社会一般の認識においては「天理教」にほかならないこと,YにおいてXの名称の周知性を殊更に利用しようとするような不正な目的をうかがわせる事情もないことなど判示の事情の下では,Yによる「天理教豊文教会」との名称の使用は,Xの名称を冒用されない権利を違法に侵害するものとはいえない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 平成18年1月20日 平成17(受)575
登載
民集 第60巻1号137頁
参照法条
(1につき)不正競争防止法1条,不正競争防止法2条1項1号,2号,宗教法人法6条 (2,3につき)民法2条,民法198条,民法199条,憲法13条,宗教法人法12条1項2号
論点121第2条民法

インターネットを利用して短文の投稿をすることができる情報ネットワークにおいてある者のプライバシーに属する事実を摘示するメッセージが投稿された場合にその者が上記情報ネットワークの運営者に対して上記メッセージの削除を求めることができるとされた事例

裁判要旨インターネットを利用して短文の投稿をすることができる情報ネットワークにおいて、ある者が建造物侵入の被疑事実により逮捕されたというその者のプライバシーに属する事実を摘示するメッセージの投稿がされた場合に、上記の逮捕の事実が、不特定多数の者が利用する場所において行われた軽微とはいえない犯罪事実に関するものであったとしても、次の⑴~⑷など判示の事情の下においては、上記の者の上記逮捕の事実を公表されない法的利益が上記メッセージを一般の閲覧に供し続ける理由に優越すると認められ、上記の者は、上記情報ネットワークの運営者に対し、上記メッセージの削除を求めることができる。
⑴ 上記逮捕から約8年が経過し、上記の者が受けた罰金刑の言渡しはその効力を失っており、上記メッセージに転載された上記逮捕の事実の報道記事も報道機関のウェブサイトにおいて既に削除されている。
⑵ 上記メッセージは、上記情報ネットワークの利用者に対して上記逮捕の事実を速報することを目的として投稿されたものとうかがわれ、長期間にわたって閲覧され続けることを想定して投稿されたものであるとは認め難い。
⑶ 上記の者の氏名を条件として上記情報ネットワーク上を検索すると検索結果として上記メッセージが表示される。
⑷ 上記の者は、公的立場にある者ではない。
(補足意見がある。)
裁判
最高裁判所第二小法廷 令和4年6月24日 令和2(受)1442
登載
民集 第76巻5号1170頁
参照法条
民法2条、民法198条、民法199条
原

条文原文

原文ママ

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民法 第1条(基本原則) 詳細ページ
(基本原則)
第一条私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3権利の濫用は、これを許さない。
民法 第2条(解釈の基準) 詳細ページ
(解釈の基準)
第二条この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。
出

一次情報

原文ママ

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