労働関係調整法 / テーマ別まとめ

総則

総則の条文と、裁判所が付した判示事項から整理しています。

原文解釈このページは論点を軸に条文と判例を横断して整理したものです。論点の名称と構成は当サイトの整理であり、条文上の区分ではありません。リード文・要点・比較表も当サイトによる解釈です。条文原文と判例の判示事項・裁判要旨は転記です。

労働関係調整法の総則は、この法律が労働争議を予防・解決して産業平和を保つための仕組みであることと、そこで使われる基本用語(労働争議・争議行為・公益事業)の定義を定めています。あわせて、当事者や政府・労働委員会が争議の自主的解決や迅速処理に努める責務、争議発生時の届出義務も定めています。

総則
条項目内容
第1条目的労働争議の予防・解決、産業平和の維持
第2条当事者の努力義務労働協約での調整機関整備、自主解決
第3条政府の努力義務自主調整への助力、争議行為の防止
第4条団交等の不妨害直接協議・団体交渉を妨げない
第5条迅速処理当事者・労働委員会等が迅速な処理
第6条労働争議の定義主張不一致で争議行為が発生・発生の虞
第7条争議行為の定義業務の正常な運営を阻害する行為
第8条公益事業の定義運輸・郵便通信・水道電気ガス・医療等
第8条の2特別調整委員労使公益の三者構成、調停等に参与
第8条の3中労委の事務処理一般企業担当委員のみが参与する場合
第9条争議発生時の届出労働委員会又は都道府県知事へ届出
  • 第8条の公益事業指定(第2項・第3項)は内閣総理大臣が国会承認を経て1年以内の期間で追加指定でき、官報告示等で公表する。
  • 第8条の2の特別調整委員は使用者代表・労働者代表・公益代表の推薦や労使代表委員の同意等、任命手続に条件がある。
  • 第8条の3は行政執行法人担当委員を除く一般企業担当委員等のみが参与する場合の規定で、対象事務は政令で定める。
1

総則

総則について、条文は何を定めているか。

第1条労働争議を防ぎ産業の平和を守るための法律1項判例なし
  • 労働組合法とあわせて労働関係の公正な調整を図る
  • 争議の予防・解決を通じて経済の興隆に寄与する目的
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第2条当事者は自主的な調整の仕組みづくりに努める1項判例なし
  • 労働協約に調整のための正規機関の設置・運営を定めるよう努力
  • 争議発生時は誠意をもって自主的解決に努める
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第3条政府は自主調整への助力に努める1項判例なし
  • 主張が一致しない場合、政府が自主調整を後押し
  • 争議行為をできるだけ防止するよう努める
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第4条直接交渉を妨げず、努力義務も免除しない1項判例 1件
  • 直接の協議・団体交渉での取り決めを妨げない
  • 当事者の自主解決の努力義務は免除されない
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第5条事件はできるだけ迅速に処理する1項判例なし
  • 当事者・労働委員会等関係機関に迅速処理の努力義務
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第6条「労働争議」の意味を定義1項判例 5件
  • 主張不一致で争議行為が発生している状態
  • 争議行為が発生する虞がある状態も含む
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第7条「争議行為」の意味を定義1項判例 11件
  • 同盟罷業・怠業・作業所閉鎖などが該当
  • 主張貫徹目的の行為とこれに対抗する行為を含む
  • 業務の正常な運営を阻害するものが対象
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第8条「公益事業」の範囲を定義3項・4号判例なし
  • 運輸、郵便・信書便・電気通信、水道・電気・ガス、医療・公衆衛生の事業
  • 内閣総理大臣が国会承認を経て1年以内で追加指定可能
  • 指定時は官報告示のほか新聞・ラヂオ等で公表
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第8_2条6項判例なし
第8_3条1項判例なし
第9条争議発生時は直ちに届け出る1項判例なし
  • 争議行為発生時、当事者は直ちに労働委員会又は都道府県知事へ届出
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論

主要な論点と判例

原文ママ

論点の見出しと結論は、裁判所が付した判示事項・裁判要旨をそのまま転記しています。文中の〈 〉内は条文の見出しを当サイトが補ったものです。

論点1第4条労働関係調整法

一 経営補助者たる非組合員の解雇の撤回を争議目的の一つとして掲げる争議行為が違法でないとされた事例
二 いわゆる抜打争議にあたらない事例

裁判要旨一 経営補助者たる非組合員の解雇の撤回を争議目的の一つとして掲げる争議行為であつても、使用者と組合との間に雇傭、昇進、解雇等の人事事項に関する労働協約が締結されていない状況下にあつて、組合が右解雇の理由、手続に不安を覚え、将来組合員についても同様の事態の発生することを懸念し、使用者に対し公正な人事機構の確立を要求することにより組合員その他従業員の労働条件の改善を図るため、その手段として解雇の撤回を争議目的の一つとして掲げたものと認められる場合には、右争議行為は違法とはいえない
二 要旨一に掲げる事情の下で、組合が、初めの団体交渉において解雇の撤回を要求し、後に争議の段階において公正な人事機構の確立を要求するに至つたとしても、両要求事項は、基礎を同じくし密接な関連を有するものであるから、団体交渉の段階において明確に人事機構の確立を要求しなかつたということだけで、右争議行為がいわゆる抜打争議にあたるものということはできない
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和35年4月26日 昭和32(テ)20
登載
民集 第14巻6号1004頁
参照法条
労働組合法1条,労働組合法8条,労働関係調整法4条
論点2第6条労働関係調整法

団体行動権の行使と認められない一事例

裁判要旨某会社がその従業員一三名に対し解雇通知および同会社への立入禁止の通告をしたのに対し、同会社労働組合側では右解雇通知の当否を調査し、不当なものについては法定の手続によつて救済を求むべく事後の対策を協議中にもかかわらず、右解雇および立入禁止の通告を受けた二名およびこれを関知した同会社従業員でもなく同会社労働組合員でもない一〇名の者が、同組合の右解雇通知に対する闘争態勢を強化し同会社をして右措置を撤回せしめようと企図して、同組合とかかわりなく同会社本社構内にほしいままに立入つた所為は、団体行動権の行使ということはできない。
裁判
最高裁判所大法廷 昭和31年10月24日 昭和28(あ)56
登載
刑集 第10巻10号1500頁
参照法条
憲法28条,労働組合法1条2項,労働関係調整法6条,労働関係調整法7条,刑法35条
論点3第6条労働関係調整法

正当な争議行為とは認められない一事例

裁判要旨国鉄当局の業務命令に違反して禁止された電車を運転し、しかもその出発に当つて多数の威力を用いて信号掛を威嚇して進行信号現示のやむなきに至らしめた場合の如きは、正当な争議行為ということはできない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和29年12月23日 昭和26(あ)5000
登載
刑集 第8巻13号2175頁
参照法条
労働関係調整法6条,労働関係調整法7条,労働組合法1条,公共企業体労働関係法17条,憲法28条
論点4第6条労働関係調整法

労働争議に対する激励行為を逸脱した構内侵入と建造物侵入罪の成立

裁判要旨原判決が証拠に基き適法に確定したところによれば、被告人の本件侵入行為は団体交渉のためではなく、被告人の属するA労働組合でない他の組合である判示B化学工業株式会社D工業所の労働組合の争議に対する激励のためのデモ敢行のためであり、また、本件工場内にはいわゆる賠償工場に指定されているものも点在し前日における再三に亘るデモ隊の行進状況から見て使用者側が右賠償工場等にいかなる危険の及ぶかも測られぬことも危惧して正門を閉ざすことも巳むを得ないところであつて、使用者側が正門を閉してデモ隊の入門を拒否し得る特別の事情があつたのでこれを拒否したところ、被告人等デモ隊員の或る者は工業所人事課調査係員Cの左頬をなぐりその奥歯が折れるような暴行を加え、そのことから双方乱闘に入り斯くて被告人等は同工業所の正門(鉄さく高さ五尺位)を乗り越えて同所構内に侵入した場合には建造物侵入罪を構成する。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和27年1月17日 昭和26(れ)1952
登載
刑集 第6巻1号93頁
参照法条
憲法28条,刑法130条,労働組合法(昭和24年法律174号による改正前)1条,労働組合法(昭和24年法律174号による改正前)10条,労働関係調整法6条
論点5第6条労働関係調整法

一 正当争議行為にあたらない一事例
二 争議行為にあたらない一事例

裁判要旨一 労働争議中の工場に擅に入場する行為は、たとえ争議目的達成のためなされたしても、憲法第二八条、労働組合法第一条の正当行為にあたらない。
二 労働関係の当事者たる労働組合員以外の者が、労働争議中組合の争議行為を応援するためにした行為は、争議行為にあたらない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和26年7月12日 昭和26(れ)782
登載
刑集 第5巻8号1432頁
参照法条
憲法28条,労働組合法1条(昭和24年法律174号による改正前のもの),労働関係調整法6条,刑法130条
論点6第6条労働関係調整法

一 労働争議にあたらない一場合
二 勞働組合法第一一條違反の所爲があるから提訴すると告知して不當に財物を取得した者の責任

裁判要旨一 労働者が退職後、会社に対して個人的な契約上の主張をして争うことは、労働関係調整法にいわゆる労働争議にあたらない。
二 假りに被告人が被害者Aの所爲は勞働組合法第一一條に違反するとして(原判決は同條に違反すると認定したものではない)これを地方勞働委員會に提訴する權利を有すると考えたとしても、Aにおいて提訴されることは不利益な害惡であるとしてこれを避けようとすることは人情の然らしむるところであるから、其の弱點に乘じて提訴すべき旨を告知して右Aを畏怖せしめ(原判決は畏怖せしめたと認定したものである)適法に取得することのできない財物の交付を受けることは恐喝罪を構成するものと解しなければならない。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和24年4月5日 昭和23(れ)1999
登載
刑集 第3巻4号437頁
参照法条
労働関係調整法6条,刑法249條1項
論点7第7条労働関係調整法

ロツクアウトが違法とされた事例

裁判要旨A原子力研究所の労働組合が、D研究所における動力試験炉の連続運転に関する交替制の勤務体制の変更に反対して、二四時間を三分した勤務時間帯の一つに勤務すべき組合員につき連日ストライキを実施し、これにより動力試験炉の運転が完全に停止することとなつたため、A原子力研究所はこれに対抗して右動力試験炉の管理部門に所属する組合員に対しロックアウトを行つたが、右勤務体制の変更は労働協約に違反し労働条件を不利益に変更するものであり、これに関する労使間の交渉経過からみて労働組合の態度のみを一方的に非難することはできず、また、右ストライキは目的、態様において不当又は不公正なものとはいえず、これにより同研究所の被る損失、打撃の程度もさほど大きなものではないなど、判示の事実関係のもとにおいては、使用者側が、ロックアウトの開始時においても、その後においても、著しく不利な圧力を受けるような場合であつたとはいえず、右ロックアウトは、労使間の勢力の均衡を回復するための対抗防衛手段として相当性を欠き、違法である。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和58年6月13日 昭和53(行ツ)29
登載
民集 第37巻5号636頁
参照法条
労働組合法8条,労働関係調整法7条
論点8第7条労働関係調整法

一 ロックアウトが違法とされた事例
二 ロックアウトの一部を部分ロックアウトとして可分的に効力を判断することが許されないとされた事例

裁判要旨一 一般放送事業等を営む株式会社の労働組合が十数波にわたる時限ないし指名ストライキ及び放送業務の中枢部門における新勤務拒否闘争等の争議行為を行つたが、会社はこれらのストライキの一部を事前に予測して応急措置を講ずることができ、また、新勤務拒否闘争によつて具体的な放送業務の障害又は放送事故は発生せず、そのような事故等の発生する具体的な緊迫した危険もなかつたなど、判示の事実関係のもとでは、ロックアウト突入当時の会社の全部門の観点からみれば、いまだ労使の勢力の均衡が破れて使用者側が著しく不利な圧力を受けている情勢にあつたということはできず、右争議行為に対して会社が本柱社屋全体についてした全面ロックアウトは、組合の争議行為に対する対抗防衛手段として相当性を欠き、違法である。
二 会社が本社社屋の重要部分をバリケード及び有刺鉄線で囲んで組合員の立入りを禁止したなど判示の事実関係のもとでは、本社社屋全体について一体不可分のロックアウトがされたものというべきであるから、本件ロックアウトの一部を部分ロックアウトとして可分的にその効力を判断することは許されない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和55年4月11日 昭和51(オ)541
登載
民集 第34巻3号330頁
参照法条
労働組合法8条,労働関係調整法7条
論点9第7条労働関係調整法

一 威力業務妨害罪によつて保護されるべき業務にあたるとされた事例
二 バス会社のストライキに際し組合側の争議手段として行われたいわゆる車両確保行為が威力業務妨害罪又は建造物侵入罪の違法性に欠けるところがないとされた事例

裁判要旨一 バス会社がストライキに参加しない従業員によつて操業を継続するために必要とした本件車両の分散及び保全看守は、それが操業を阻止する手段として組合側の計画していた車両の確保に対する対抗措置として行われたものであつても、威力業務妨害罪によつて保護されるべき業務にあたる。
二 バス会社のストライキに際し、多数人による暴力を伴う威力を用いて会社が回送中又は路上に駐車中のバスを奪つて組合側の支配下に置きあるいは多数の威力を示して会社が取引先の整備工場又は系列下の自動車学校に預託中のバスを搬出しようとして建造物に侵入した本件車両確保行為は、判示のような諸般の事情に照らし法秩序全体の見地からみるとき、威力業務妨害罪又は建造物侵入罪の違法性に欠けるところはない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和53年11月15日 昭和52(あ)583
登載
刑集 第32巻8号1855頁
参照法条
刑法35条,刑法130条,刑法234条,労働関係調整法7条,労働組合法1条
論点10第7条労働関係調整法

ロツクアウトの継続が違法とされた事例

裁判要旨組合がその組合員数を半減し力も弱くなつていたのに対し、会社(タクシー会社)はD組合員等によつてタクシーの車両数も増やして平常に近い営業を行い、その経営内容も著しく改善されるなど判示の事情があるときは、組合の就労要求を拒否した時点以降会社が継続したロツクアウトは、使用者の正当な争議行為と認められず、会社は右時点以降の賃金支払義務を免れない。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和52年2月28日 昭和47(オ)440
登載
集民 第120号185頁
参照法条
労働組合法8条,労働関係調整法7条,民法536条2項,民法623条
論点11第7条労働関係調整法

いわゆるロックアウト(作業所閉鎖)が正当性を欠くとしてその期間中における使用者の賃金支払義務が認められた事例

裁判要旨省略
裁判
最高裁判所第一小法廷 昭和50年7月17日 昭和48(オ)267
登載
集民 第115号465頁
参照法条
労働組合法8条,労働関係調整法7条,民法536条2項,民法623条
論点12第7条労働関係調整法

一、いわゆるロックアウト(作業所閉鎖)の正当性
二、いわゆるロックアウト(作業所閉鎖)とその期間中における使用者の賃金支払義務

裁判要旨一、いわゆるロックアウト(作業所閉鎖)は、個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度、経過組合側の争議行為の態様、それによつて使用者側の受ける打撃の程度等に関する具体的諸事情に照らし、衡平の見地から見て労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められる場合には、使用者の正当な争議行為として是認される。
二、いわゆるロックアウト(作業所閉鎖)をした使用者は、それが正当な争議行為として是認される場合には、その期間中における対象労働者に対する賃金支払義務を免れる。
裁判
最高裁判所第三小法廷 昭和50年4月25日 昭和44(オ)1256
登載
民集 第29巻4号481頁
参照法条
労働組合法8条,労働関係調整法7条,民法536条2項,民法623条
論点13第7条労働関係調整法

一 生産管理と威力による業務妨害罪の成立
二 生産管理の違法性
三 労働関係調整法第七条〈この法律において争議行為とは、同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行ふ…〉と争議行為の適法性

裁判要旨一 生産管理として多数の威力をもつて会社の事業の管理即ち支配を排除した以上、刑法第二三四条の業務妨害が成立する。
二 経営権と労働権との対等を保障している現行の法律秩序からすれば、両者の間に労働協約による特別の定めがないかぎり、企業経営、生産行程の指揮命令は使用者側の権限に属するのであるから、同盟罹業が有効でないからといつて使用者側に属する生産手段の管理を排除してそれを組合側の実力支配の下におくところの、いわゆる生産管理は適法の争議行為といえない。
三 労働関係調整法第七条〈この法律において争議行為とは、同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行ふ…〉は争議行為の定義を掲げただけであるから、具体的争議行為の適法性は別個の観点から判断すべきである。
裁判
最高裁判所第二小法廷 昭和27年2月22日 昭和25(れ)1902
登載
刑集 第6巻2号288頁
参照法条
労働関係調整法7条,労働組合法(昭和24年法律174号による改正前のもの)1条,刑法234条,刑法233条
論点14第7条労働関係調整法

一 労働関係調整法第七条〈この法律において争議行為とは、同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行ふ…〉と正当争議行為
二 生産管理開始のときから占有していた物を後に領得した行為の擬律
三 労働組合法第一条第二項と刑法第三五―争議行為の正当性
四 生産管理において労働者の団体が工場、設備、資材等を接収してその占有下においた場合には会社側の占有を完全に離脱するか
五 労働者が生産管理中の工場から争議期間中の賃金支払にあてる目的をもつて工場資材を工場外に搬出した行為と窃盗罪の成立
六 生産管理と同盟罷業との関係―生産管理の違法性
七 憲法と勤労者の争議権―争議行為の正当性の限界
八 生産管理と労働関係調整法第七条にいわゆる「その他」の行為

裁判要旨一 労働関係調整法第七条〈この法律において争議行為とは、同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行ふ…〉は、争議行為の定義を掲げただけであつて、争議行為の正当性は別個の観点から判断すべきものである。
二 被告人等が本件生産管理開始のときから判示鉄板を占有していたとしても、それは違法の占有であるから、後にこれを領得しても横領罪とはならず窃盗罪となる。
三 労働組合法第一条第二項は、労働組合の団体交渉その他の行為について無条件に刑法第三五条の適用があることを規定しているのではなく唯労働組合法所定の目的達成のために為した正当な行為についてのみ適用を認めているに過ぎない(昭和二二年(れ)第三一九号同二四年五月一八日最高裁判所大法廷判決参照)。如何なる争議行為を以て正当とするかは、具体的に個々の争議につき、争議の目的並びに争議手段としての各個の両面に亘つて、現行法秩序全体との関連において決すべきである。従つて至産管理及び生産管理中の個々の行為が、すべて当然に正当行為であるとの論旨は理由がない。
四 原判決が、生産管理においては労働者の団体が工場、設備、資材等一切のものを接収してその占有下におくと判示し、本件においては被告人が既に生産管理に入つたものであることを認めながら、而も他方において判示鉄板は「会社の占有を完全に離脱したものでない」と判示したのは、生産管理開始により労働者の図体が工場、設備、資材等一切のものを自己の支配下におき占有を取得したと言つても、個々の資材物件等については、それが会社構内に存置せられる以上、会社側にもなお占有が存するという趣旨に解すべきである。
五 論旨は、原判決が、本件鉄板は会社の占有を完全に離脱したものではないので被告人等が壇にこれを工場外に搬出した行為は会社の所持を奪つたものであり、窃盗の罪責を免れない、と判示したことを非難し生産管理の下においては占有の所持は労働者側にあり、会社は観念上間接占有を有するに過ぎないから、所持の奪取即ち窃盗はあり得ないい。被告人等には占有奪取の意思もなく、不正領得の意思もなかつたと主張する。しかし労働者側がいわゆる生産管理開始のとき工場、設備、資材等をその占有下においたのは違法の占有であり、判示鉄板についてもそのとき会社側の占有に対して占有の侵奪があつたというべきであるが、原判決はこれを工場外に搬出したとき不法領得の実現行為があつたものと認定したものである。これを証拠に照らし合わせて考えてみても、被告人等が争議期間中の労働者の賃金支払等に充てるために売却する目的を以て、会社側の許可なくしてこれを工場外に運び出し、自己の事実上の支配内に收めた行為は、正に不法領得の意思を以て会社の所持を奪つたものというべきであつて、原判決が窃盗罪にあたるものとしたのは当然である。
六 論旨は生産管理が同盟罷業と性質を異にするものでないということを理由として、生産管理も同盟罷業と同様に違法性を阻却される争議行為であると主張する。しかしわが国現行の法律秩序は私有財産制度を基幹として成り立つており、企業の利益と損失とは資本家に帰する。従つて企業の経営、生産行程の指揮命令は、資本家又はその代理人たる経営担当者の権限に属する。労働者が所論のように企業者と並んで企業の担当者であるとしても、その故に当然に労働者が企業の使用收益権を有するのでもなく、経営権に対する権限を有するものでもないい。従つて労働者側が企業者側の私有財産の基幹を揺がすような争議手段は許されない。なるほど同盟罷業も財産権の侵害を生ずるけれども、それは労働力の給付が積務不履行となるに過ぎない。然るに本件のようないわゆる生産管理に於ては、企業経営の権能を権利者の意思を排除して非権利者が行うのである。それ故に同盟罷業も生産管理も財産権の侵害である点においては同様であるからとて、その相違点を無視するわけにはゆかない。前者において違法性が阻却されるからとて、後者においてもそうだという理由はない。
七 論旨は、憲法が労働者の争議権を認めたことを論拠として、従来の市民法的個人法的観点を楊棄すべきことを説き、かような立場から労働者が争議によつて使用者たる資本家の意思を抑圧してその要求を貫徹することは不当でもなく違法でもないと主張する。しかし憲法は勤労者に対して団結権、団体交渉権その他の団体行動権を保障すると共に、すべての国民に対して平等権、自由権、財産権等の基本的人権を保障しているのであつて、是等諸々の基本的人権が労働者の争議権の無制限な行使の前に悉く排除されることを認めているのでもなく、後者が前者に対して絶対的優位を有することを認めているのでもない。寧ろこれ等諸々の一般的基本的人権と労働者の権利との調和をこそ期待しているのであつて、この調和を破らないことが、即ち争議権の正当性の限界である。その調和点を何処に求めるべきかは、法律制度の精神を全般的に考察して決すべきである。固より使用者側の自由権や財産権と雖も絶対無制限ではなく、労働者の団体行動権等のためある程度の制限を受けるのは当然であるが、原判決の判示する程度に、使用者側の自由意思を抑圧し、財産に対する支配を阻止することは、許さるべきでないと認められる。それは労働者側の争議権を偏重して使用者側の権利を不当に侵害し、法が求める調和を破るものだからである。
八 論旨は、原判決を以て、生産管理の本質を誤り、生産管理が争議権行使の一方法であることを否認し、争議権行使の方法を制限した違法あるものとして、非難すると共に、生産管理が労働関係調整法第七条にいわゆる「その他」の行為の中に含まれるということを論拠として、労働者が争議方法として生産管理を行うことには何等の制限を受くべきでないと主張する。しかし右の法条は争議行為の定義を掲げただけであつて、争議行為又はそれに伴う諸々の行為がすべて適法又は正当であると言つているのではない。従つて生産管理が右の「その他」の行為の中に含まれるとしても、そのことだけから、生産管理を行う自由があると即断することはできない。具体的争議行為の適法性の限界については、別個の観点から判断されなければならない。
裁判
最高裁判所大法廷 昭和25年11月15日 昭和23(れ)1049
登載
刑集 第4巻11号2257頁
参照法条
労働関係調整法7条,刑法235条,刑法252条,刑法35条,労働組合法1条2項,労働組合法1条,憲法12条,憲法28条,憲法29条
論点15第7条労働関係調整法

時限ストライキ等の争議行為のため受注を返上せざるを得なくなったことなどにより損害を被った生コンクリート製造販売業者のしたロックアウトが使用者の正当な争議行為と認められた事例

裁判要旨生コンクリート製造販売業者が時限ストライキ等の争議行為に対しロックアウトをした場合において,上記時限ストライキの態様から,上記業者は,取引慣行上,その日の受注の全部を返上するなどして,終日事実上休業の状態にせざるを得ず,時限ストライキが解除された後に従業員が提供した労務は,就労しなかった時間に係る減額がされた後の賃金にも到底見合わないものであったこと,上記業者は,上記争議行為が開始された後,受注が減少して資金繰りが著しく悪化し,納入先の信用も損なわれ,甚大な損害を被ったこと,上記争議行為における従業員らの要求は,同人ら全員が以前所属していた組合と上記業者との間に成立していた合意を,同人らが上記組合を脱退した直後に覆そうとするものであることなど判示の事情の下では,上記ロックアウトは,衡平の見地からみて,上記争議行為に対する対抗防衛手段として相当であり,使用者の正当な争議行為と認められる。
裁判
最高裁判所第三小法廷 平成18年4月18日 平成15(受)723
登載
民集 第60巻4号1548頁
参照法条
労働組合法8条,労働関係調整法7条
原

条文原文

原文ママ

e-Gov法令検索から取得した原文を、号・イロハまで省略せずに掲載しています。

労働関係調整法 第1条 詳細ページ
第一条この法律は、労働組合法と相俟つて、労働関係の公正な調整を図り、労働争議を予防し、又は解決して、産業の平和を維持し、もつて経済の興隆に寄与することを目的とする。
労働関係調整法 第2条 詳細ページ
第二条労働関係の当事者は、互に労働関係を適正化するやうに、労働協約中に、常に労働関係の調整を図るための正規の機関の設置及びその運営に関する事項を定めるやうに、且つ労働争議が発生したときは、誠意をもつて自主的にこれを解決するやうに、特に努力しなければならない。
労働関係調整法 第3条 詳細ページ
第三条政府は、労働関係に関する主張が一致しない場合に、労働関係の当事者が、これを自主的に調整することに対し助力を与へ、これによつて争議行為をできるだけ防止することに努めなければならない。
労働関係調整法 第4条 詳細ページ
第四条この法律は、労働関係の当事者が、直接の協議又は団体交渉によつて、労働条件その他労働関係に関する事項を定め、又は労働関係に関する主張の不一致を調整することを妨げるものでないとともに、又、労働関係の当事者が、かかる努力をする責務を免除するものではない。
労働関係調整法 第5条 詳細ページ
第五条この法律によつて労働関係の調整をなす場合には、当事者及び労働委員会その他の関係機関は、できるだけ適宜の方法を講じて、事件の迅速な処理を図らなければならない。
労働関係調整法 第6条 詳細ページ
第六条この法律において労働争議とは、労働関係の当事者間において、労働関係に関する主張が一致しないで、そのために争議行為が発生してゐる状態又は発生する虞がある状態をいふ。
労働関係調整法 第7条 詳細ページ
第七条この法律において争議行為とは、同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行ふ行為及びこれに対抗する行為であつて、業務の正常な運営を阻害するものをいふ。
労働関係調整法 第8条 詳細ページ
第八条この法律において公益事業とは、次に掲げる事業であつて、公衆の日常生活に欠くことのできないものをいう。
一運輸事業
二郵便、信書便又は電気通信の事業
三水道、電気又はガスの供給の事業
四医療又は公衆衛生の事業
2内閣総理大臣は、前項の事業の外、国会の承認を経て、業務の停廃が国民経済を著しく阻害し、又は公衆の日常生活を著しく危くする事業を、一年以内の期間を限り、公益事業として指定することができる。
3内閣総理大臣は、前項の規定によつて公益事業の指定をしたときは、遅滞なくその旨を、官報に告示するの外、新聞、ラヂオ等適宜の方法により、公表しなければならない。
労働関係調整法 第8_2条 詳細ページ
第八条の二中央労働委員会及び都道府県労働委員会に、その行う労働争議の調停又は仲裁に参与させるため、中央労働委員会にあつては厚生労働大臣が、都道府県労働委員会にあつては都道府県知事がそれぞれ特別調整委員を置くことができる。
2中央労働委員会に置かれる特別調整委員は、厚生労働大臣が、都道府県労働委員会に置かれる特別調整委員は、都道府県知事が任命する。
3特別調整委員は、使用者を代表する者、労働者を代表する者及び公益を代表する者とする。
4特別調整委員のうち、使用者を代表する者は使用者団体の推薦に基づいて、労働者を代表する者は労働組合の推薦に基づいて、公益を代表する者は当該労働委員会の使用者を代表する委員(行政執行法人の労働関係に関する法律(昭和二十三年法律第二百五十七号)第二十五条に規定する行政執行法人担当使用者委員(次条において「行政執行法人担当使用者委員」という。)を除く。)及び労働者を代表する委員(同法第二十五条に規定する行政執行法人担当労働者委員(次条において「行政執行法人担当労働者委員」という。)を除く。)の同意を得て、任命されるものとする。
5特別調整委員は、政令で定めるところにより、その職務を行ふために要する費用の弁償を受けることができる。
6特別調整委員に関する事項は、この法律に定めるものの外、政令でこれを定める。
労働関係調整法 第8_3条 詳細ページ
第八条の三中央労働委員会が第十条のあつせん員候補者の委嘱及びその名簿の作成、第十二条第一項ただし書の労働委員会の同意、第十八条第四号の労働委員会の決議その他政令で定める事務を処理する場合には、これらの事務の処理には、使用者を代表する委員のうち行政執行法人担当使用者委員以外の委員(第二十一条第一項において「一般企業担当使用者委員」という。)、労働者を代表する委員のうち行政執行法人担当労働者委員以外の委員(第二十一条第一項において「一般企業担当労働者委員」という。)並びに公益を代表する委員のうち会長があらかじめ指名する十人の委員及び会長(第二十一条第一項及び第三十一条の二において「一般企業担当公益委員」という。)のみが参与する。この場合において、中央労働委員会の事務の処理に関し必要な事項は、政令で定める。
労働関係調整法 第9条 詳細ページ
第九条争議行為が発生したときは、その当事者は、直ちにその旨を労働委員会又は都道府県知事に届け出なければならない。
出

一次情報

原文ママ

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