論点1第644条民法
一 当座勘定取引契約において取引印として届け出られていない実印を使用して偽造された手形小切手の支払いをした銀行に過失があるとされた事例
二 債権者の従業員のした行為が債務不履行の原因となつている場合と過失相殺
裁判要旨一 銀行は、当座勘定取引契約において取引印として届け出られていない実印を用いて振り出された手形、小切手を支払うにあたつては、当該実印が右契約の締結及び取引印の届出に際し使用されていたとしても、取引先に対し支払委託の有無を確認すべき注意義務があり、これを尽くすことなく偽造手形、偽造小切手の支払をしたときは、過失の責を免れない。
二 銀行が取引印として届け出られていない実印の押捺された偽造に係る手形、小切手の支払をしたことが当座勘定取引契約に基づく債務の不履行となる場合において、右手形、小切手の偽造が右取引契約の取引先の経理担当事務員によつてされたものであり、しかも右事務員は、取引先の売掛金、買掛金の記帳、集計、小口現金払等及び取引印の押捺以外の手形、小切手の振出事務を担当し、手形、小切手用紙及び実印が保管されている金庫の番号を記憶し、かつ、その鍵を所持していたなど、判示の事情があるときには、右事務員がした手形、小切手の偽造は、債務不履行に基づく損害賠償責任及びその金額を決するにあたつて取引先と同視すべき者の有責行為として斟酌すべきである。
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 昭和58年4月7日 昭和56(オ)57
- 登載
- 民集 第37巻3号219頁
- 参照法条
- 民法415条,民法418条,民法644条
論点2第644条民法
振出日白地の確定日払の為替手形の取立委任を受けた銀行に白地補充等の義務がないとされた事例
裁判要旨振出日白地の確定日払の為替手形の取立委任を受けた銀行と取立委任者との間に白地補充について特段の合意がなく、かつ、各種金融機関が取立委任を受ける確定日払の手形には振出日白地のものが多数あり、金融機関は、手形所持人に白地補充を促したり、自ら補充したりしないでそのまま取立に回すのが慣習であり、手形交換所の定めにおいても確定日払の手形の振出日の白地は「形式的不備」に該当しないものとされていたなど、原判示の事実関係のもとにおいては、銀行は委任者に対し、右白地の補充を促し又は自ら補充する義務を負うものではない。
- 裁判
- 最高裁判所第三小法廷 昭和55年10月14日 昭和54(オ)771
- 登載
- 集民 第131号1頁
- 参照法条
- 手形法1条7号,手形法10条,手形法18条,民法644条
論点3第644条民法
一 中小企業等協同組合法に基づく企業組合の脱退組合員に対する払戻持分の計算のための組合財産の評価に当たり将来退職する組合役員・従業員に支払われるべき退職慰労金・退職金につき当期末現在で算出したその相当額を負債として計上することの可否
二 中小企業等協同組合法に基づく企業組合の理事全員の協議により組合の経理業務を担当することとされた理事の事務処理に非違があつた場合と同法三八条の二第一項所定の損害賠償責任
裁判要旨一 中小企業等協同組合法に基づく企業組合の脱退組合員に対する払戻持分の計算のため組合財産を評価するにあたり、将来退職する組合役員・従業員に支払われるべき退職慰労金・退職金につき当期末現在の状態を基準として算出したその相当額を負債として計上することはできない。
二 中小企業等協同組合法に基づく企業組合の理事会の全員の協議によつて右組合の経理業務を担当するものとされた理事にその事務処理について故意又は過失に基づく非違があつたときは、右理事は、業務担当理事として負担すべき善良な管理者の注意義務ないし忠実義務に違反するものとして、組合に対し、同法三八条の二第一項所定の損害賠償責任を負担するものと解すべきである。
- 裁判
- 最高裁判所第二小法廷 昭和54年2月23日 昭和50(オ)326
- 登載
- 民集 第33巻1号125頁
- 参照法条
- 中小企業等協同組合法20条,中小企業等協同組合法38条の2第1項,中小企業等協同組合法42条,商法254条3項,商法254条の2,民法644条
論点4第644条民法
登記権利者及び登記義務者双方から登記手続の委託を受けた司法書士が登記義務者から登記手続に必要な書類の返還を求められた場合における登記権利者に対する委任契約上の義務
裁判要旨登記権利者及び登記義務者双方から登記手続の委託を受け、右手続に必要な書類の交付を受けた司法書士は、手続の完了前に登記義務者から右書類の返還を求められても、登記権利者に対する関係では、同人の同意があるなど特段の事情のない限り、その返還を拒むべき委任契約上の義務がある。
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 昭和53年7月10日 昭和51(オ)102
- 登載
- 民集 第32巻5号868頁
- 参照法条
- 民法644条,民法651条,司法書士法1条
論点5第644条民法
商品の先物取引において仲買人が委託者の指図に従う義務
裁判要旨商品の先物取引において、仲買人は、商品の売付け又は買付けの委託を受けた場合に、取引が終了するまでは、反対売買等につき新たな合意を要することなく、委託者の指図に従う義務がある。
- 裁判
- 最高裁判所第三小法廷 昭和50年7月15日 昭和47(オ)334
- 登載
- 集民 第115号419頁
- 参照法条
- 商法552条2項,民法644条
論点6第644条民法
商法二六六条一項五号と同法二五四条三項、民法六四四条〈受任者の注意義務〉
裁判要旨商法二六六条一項五号には、取締役が同法二五四条三項、民法
六四四条〈受任者の注意義務〉の定める注意義務に違反した場合も含まれる。
- 裁判
- 最高裁判所第三小法廷 昭和47年4月25日 昭和45(オ)375
- 登載
- 集民 第105号843頁
- 参照法条
- 商法266条1項5号,商法254条3項,民法644条
論点7第644条民法
一、銀行が当座勘定取引契約に基づき手形の印影を照合するにあたつて尽くすべき注意義務の程度
二、印影照合についての銀行の注意義務と免責約款の効力
三、当座勘定取引契約に基づき手形の支払委託をうけた銀行が振出日欄白地の約束手形を支払つた場合における取引先に対する効力
裁判要旨一、銀行が、当座勘定取引契約に基づき、届出の印鑑と手形上の印影とを照合するにあたつては、銀行の照合事務担当者に対して社会通念上一般に期待されている業務上相当の注意をもつて慎重に行なうことを要し、右事務に習熟している銀行員が右のような注意を払つて熟視するならば肉眼で発見しうるような印影の相違が看過されて偽造手形が支払われたときは、その支払による不利益を取引先に帰せしめることは許されない。
二、銀行が手形の印影と届出印鑑とが符合すると認めて支払をした場合は責任を負わない旨の当座勘定取引契約上の免責約款は、銀行が手形の印影照合にあたつて尽くすべき前項の注意義務を軽減する趣旨のものではない。
三、当座勘定取引契約上の支払委託は、特段の事情のないかぎり、振出日欄白地の確定日払の約束手形の支払を含む趣旨とは解されず、銀行が、支払委託の有無を確認するための相当な方法をとることなく、右白地手形の支払をしたときは、その結果を取引先に帰属させることは許されない。
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 昭和46年6月10日 昭和42(オ)64
- 登載
- 民集 第25巻4号492頁
- 参照法条
- 民法644条,手形法10条,手形法75条,手形法77条2項
論点8第644条民法
一、政治資金の寄附と会社の権利能力
二、会社の政党に対する政治資金の寄附の自由と憲法三章
三、商法二五四条ノ二の趣旨
四、取締役が会社を代表して政治資金を寄附する場合と取締役の忠実義務
裁判要旨一、会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎり、会社の権利能力の範囲に属する行為である。
二、憲法三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものであるから、会社は、公共の福祉に反しないかぎり、政治的行為の自由の一環として、政党に対する政治資金の寄附の自由を有する。
三、商法二五四条ノ二の規定は、同法二五四条三項、民法
六四四条〈受任者の注意義務〉に定める善管義務をふえんし、かつ、一層明確にしたにとどまり、通常の委任関係に伴う善管義務とは別個の、高度な義務を規定したものではない。
四、取締役が会社を代表して政治資金を寄附することは、その会社の規模、経営実績その他社会的経済的地位および寄附の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内においてなされるかぎり、取締役の忠実義務に違反するものではない。
- 裁判
- 最高裁判所大法廷 昭和45年6月24日 昭和41(オ)444
- 登載
- 民集 第24巻6号625頁
- 参照法条
- 民法43条,民法644条,商法166条1項1号,商法254条ノ2,商法254条3項,憲法3章
論点9第644条民法
一 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式を取得することと商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)二一〇条
二 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式の売買により損失を被った場合と乙会社に生じる損害
裁判要旨一 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式を取得することは、商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)二一〇条にいう自己株式の取得に当たる。
二 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の指示により同社の株式を売買して買入価格と売渡価格の差額に相当する損失を被った場合、乙会社の取締役は、特段の事情のない限り、その全額を乙会社に生じた損害として、賠償の責めに任ずる。
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 平成5年9月9日 平成1(オ)1400
- 登載
- 民集 第47巻7号4814頁
- 参照法条
- 商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)210条,商法254条3項,商法266条1項5号,民法415条,民法644条
論点10第644条民法
証券会社の従業員の無断売買によつて生じた差損などを顧客の信用取引口座から曳き落とす処理がされた場合と顧客の損害発生の有無
裁判要旨証券会社の従業員が顧客の信用取引口座を利用して無断売買をし、その結果生じた差損などに相当する金員をその顧客の信用取引口座から引き落とす処理がされたとしても、顧客に右金員相当の損害が生じたものということはできない。
- 裁判
- 最高裁判所第二小法廷 平成4年2月28日 昭和63(オ)386
- 登載
- 集民 第164号113頁
- 参照法条
- 民法415条,民法644条,商法552条,証券取引法49条
論点11第644条民法
債務整理に係る法律事務を受任した弁護士が,特定の債権者の債権につき消滅時効の完成を待つ方針を採る場合において,上記方針に伴う不利益等や他の選択肢を説明すべき委任契約上の義務を負うとされた事例
裁判要旨債務整理に係る法律事務を受任した弁護士が,当該債務整理について,特定の債権者に対する残元本債務をそのまま放置して当該債務に係る債権の消滅時効の完成を待つ方針を採る場合において,上記方針は,債務整理の最終的な解決が遅延するという不利益があるほか,上記債権者から提訴される可能性を残し,一旦提訴されると法定利率を超える高い利率による遅延損害金も含めた敗訴判決を受ける公算が高いというリスクを伴うものである上,回収した過払金を用いて上記債権者に対する残債務を弁済する方法によって最終的な解決を図ることも現実的な選択肢として十分に考えられたなど判示の事情の下では,上記弁護士は,委任契約に基づく善管注意義務の一環として,委任者に対し,上記方針に伴う上記の不利益やリスクを説明するとともに,上記選択肢があることも説明すべき義務を負う。
(補足意見がある。)
- 裁判
- 最高裁判所第三小法廷 平成25年4月16日 平成24(受)651
- 登載
- 民集 第67巻4号1049頁
- 参照法条
- 民法415条,民法644条
論点12第644条民法
A社が事業再編計画の一環としてB社の株式を任意の合意に基づき買い取る場合において,A社の取締役に上記株式の買取価格の決定について善管注意義務違反はないとされた事例
裁判要旨不動産賃貸あっせんのフランチャイズ事業等を展開するA社が,事業再編計画の一環としてB社を完全子会社とする目的で同社の株式を任意の合意に基づき買い取る場合において,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,株式交換に備えて算定された上記株式の評価額が1株当たり6561円ないし1万9090円であったとしても,上記株式の買取価格をB社の設立時の株式の払込金額を基準として1株当たり5万円とする決定をしたことについて,A社の取締役が取締役としての善管注意義務に違反したということはできない。
(1) B社の株主には,A社が事業の遂行上重要であると考えていた上記フランチャイズ事業の加盟店等が含まれる。
(2) 非上場株式である上記株式の評価額には相当の幅があり,事業再編の効果によるB社の企業価値の増加も期待できた。
(3) 上記の決定に至る過程で,A社の役付取締役全員により構成される経営会議において検討がされ,弁護士の意見も聴取されるなどの手続が履践された。
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 平成22年7月15日 平成21(受)183
- 登載
- 集民 第234号225頁
- 参照法条
- 会社法330条,会社法355条,会社法423条1項,会社法847条,民法644条
論点13第644条民法
特定の種類の商品先物取引について差玉向かいを行っている商品取引員が,専門的な知識を有しない委託者との間で締結した商品先物取引委託契約上,委託者に対して負う説明義務及び通知義務
裁判要旨特定の種類の商品先物取引について差玉向かいを行っている商品取引員が専門的な知識を有しない委託者との間で商品先物取引委託契約を締結した場合,商品取引員は,上記委託契約上,商品取引員が差玉向かいを行っている特定の種類の商品先物取引を受託する前に,委託者に対し,その取引について差玉向かいを行っていること及び差玉向かいは商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務を負い,委託者が上記の説明を受けた上で上記取引を委託したときにも,自己玉を建てる都度,その自己玉に対当する委託玉を建てた委託者に対し,その委託玉が商品取引員の自己玉と対当する結果となったことを通知する義務を負う。
※差玉向かい:板寄せ(商品取引所の立会において,同一限月の各商品につき,売付けと買付けの数量が合致したときに,そのときの値段を単一の約定値段とし,同数量の売付けと買付けについて売買約定を締結させる競争売買の方法)による取引について,商品の種類及び限月ごとに,委託に基づく売付けと買付けを集計し,売付けと買付けの数量に差がある場合に,この差の全部又は一定割合に対当する自己玉を建てることを繰り返す商品取引員の取引方法
※自己玉:商品取引員が自己の計算をもってする取引※委託玉:商品取引員が委託に基づいてする取引
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 平成21年7月16日 平成20(受)802
- 登載
- 民集 第63巻6号1280頁
- 参照法条
- 商法551条,商法552条2項,民法644条,民法645条,商品取引所法213条,商品取引所法214条9号,商品取引所法217条1項4号,商品取引所法施行規則103条2号,商品取引所法施行規則104条1項8号
論点14第644条民法
農業協同組合の代表理事が,補助金の交付を受けることにより同組合の資金的負担のない形で堆肥センター建設事業を進めることにつき理事会の承認を得たにもかかわらず,その交付申請につき理事会に虚偽の報告をするなどして同組合の費用負担の下で同事業を進めた場合において,資金の調達方法を調査,確認することなく,同事業が進められるのを放置した同組合の監事に,任務のけ怠があるとされた事例
裁判要旨農業協同組合の代表理事が,補助金の交付を受けることにより同組合の資金的負担のない形で堆肥センター建設事業を進めることにつき理事会の承認を得たにもかかわらず,補助金の交付申請につき理事会に虚偽の報告をするなどして同組合の費用負担の下で同事業を進めた場合において,代表理事が,(1)理事会において,それまでの説明に出ていなかった補助金の交付申請先に言及しながら,その申請先や申請内容について具体的な説明をすることなく,補助金の受領見込みについてあいまいな説明に終始した上,(2)その後の理事会においても,補助金が入らない限り同事業に着手しない旨を繰り返し述べていながら,補助金の受領見込みを明らかにしないまま,同組合の資金の立替えによる建設用地の取得を提案したなど判示の事実関係の下においては,代表理事に対し,補助金の受領見込みに関する資料の提出を求めるなどして,建設資金の調達方法を調査,確認することなく,同事業が進められるのを放置した同組合の監事は,その任務を怠ったものというべきである。
- 裁判
- 最高裁判所第二小法廷 平成21年11月27日 平成19(受)1503
- 登載
- 集民 第232号393頁
- 参照法条
- 農業協同組合法(平成17年法律第87号による改正前のもの)33条1項,農業協同組合法(平成17年法律第87号による改正前のもの)33条2項,農業協同組合法(平成17年法律第87号による改正前のもの)39条1項,農業協同組合法(平成17年法律第87号による改正前のもの)39条2項,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)254条3項,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)274条1項,民法644条,会社法381条1項
論点15第644条民法
A銀行が,県から要請を受け,県において再建資金の融資を計画していたB社に対し,上記融資が実行されるまでのつなぎ融資をした後に,B社に追加融資をしてもその回収を容易に見込めない一方で,これをしなければB社が破綻,倒産する可能性が高く,上記つなぎ融資まで回収不能となるおそれがある状況の下で,B社に対して追加融資をした場合において,その追加融資の一部につき,これを決定したA銀行の取締役らに善管注意義務違反があるとされた事例
裁判要旨A銀行が,県から要請を受け,県において再建資金の融資を計画していたB社に対し,上記融資が実行されるまでのつなぎ融資として9億5000万円を融資した後に,B社に追加融資をしてもその回収を容易に見込めない一方で,これをしなければB社が破綻,倒産する可能性が高く,県のB社に対する融資により回収することを予定していた上記つなぎ融資まで回収不能となるおそれがある状況の下で,B社に対し,約3年の間に数十回にわたり合計8億5000万円余りの追加融資をした場合において,(1)上記追加融資を続ける過程で,A銀行は,県の担当者から,知事がB社の創業者であるC及びその親族をB社の経営から排除することを県のB社に対する融資の条件とする意向を示している旨の連絡を受けたこと,(2)その当時,法的手続を通じてC及びその親族をB社の経営から排除することは困難な状況にあり,その後も,同人らを排除することができない状況が続いたこと,(3)その間,A銀行は,県に対し,2度にわたり期限を定めて県のB社に対する融資の実行を求めたにもかかわらず,県は2度目の期限も徒過し,その時点で,上記(1)の連絡を受けてから10か月以上が経過していたこと,(4)上記時点までには,A銀行自身も,資産査定において,B社の債務者区分を要注意先から破綻懸念先に変更するに至っていたことなど判示の事情の下では,上記時点以後は,A銀行の取締役らにおいて,上記つなぎ融資の回収原資をもたらす県のB社に対する融資が実行される相当程度の確実性があり,その実行までB社を存続させるために追加融資をした方が,追加融資分が回収不能になる危険性を考慮しても全体の回収不能額を小さくすることができると判断することは,著しく不合理であり,上記時点以後の3億0500万円の追加融資については,これを決定したA銀行の取締役らに善管注意義務違反がある。
- 裁判
- 最高裁判所第二小法廷 平成21年11月27日 平成19(受)1056
- 登載
- 集民 第232号353頁
- 参照法条
- 商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)254条3項,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)266条1項5号,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)267条,民法644条,会社法423条1項,会社法847条
論点16第644条民法
1 銀行が,第三者割当増資を計画する企業から新株引受先として予定された当該企業の関連会社に対する引受代金相当額の融資を求められ,これを実行した場合において,融資を決定した取締役らに忠実義務,善管注意義務違反があるとされた事例
2 銀行が,積極的な融資の対象であったが大幅な債務超過となって破たんに直面した企業に対し,同企業を数か月延命させる目的で追加融資を実行した場合において,追加融資を決定した取締役らに忠実義務,善管注意義務違反があるとされた事例
裁判要旨1 A銀行が,第三者割当増資を計画するB社から,発行する新株の相当部分を引き受ける予定のB社の関連会社に対する引受代金相当額の融資を求められ,これを実行した場合において,次の(1)〜(4)など判示の事情の下では,A銀行の取締役らが上記求めに応じて融資を決定したことは,当該融資が,A銀行が当時採用していた企業育成路線の一環としてされたものであったとしても,A銀行の取締役としての忠実義務,善管注意義務に違反する。
(1) 当該融資は,引受予定のB社の新株を担保とし,弁済期に当該株式を売却した代金で融資金の返済を受けることを予定したもので,保証人となるB社代表者の資産も大部分はB社の株式であり,債権の回収は専らB社の業績及び株価の動向のみに依存するものであった。
(2) 当該融資の額は200億円近い巨額のものであった。
(3) 新株発行後のB社の発行済株式総数に占める担保株式の割合等に照らし,融資先が弁済期に担保株式を一斉に売却すれば株価が暴落するおそれがあることは容易に推測できた。
(4) A銀行が以前に行った調査において,B社につき,財務内容が極めて不透明であり,借入金が過大で財務内容は良好とはいえないとの報告がされていた。
2 A銀行が,新興企業育成路線に基づく積極的な融資の対象であったが大幅な債務超過となり破たんに直面するに至ったB社に対し,もはやB社の存続が不可能であるとの認識を前提に,B社がA銀行から資金の融資を受けて継続中の大規模なリゾート開発事業が完成する予定の数か月後までB社を延命させる目的でそれに必要な資金409億円の追加融資を実行した場合において,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,A銀行の取締役らが追加融資を決定したことは,A銀行の取締役としての忠実義務,善管注意義務に違反する。
(1) 追加融資に際し新たに担保を設定した不動産等の担保価値は到底追加融資相当額に見合うものではなく,追加融資の大部分は当初から回収の見込みがなかった。
(2) 上記事業は,完成したとしてもその採算性が疑わしく,中長期的にも,上記事業を独立して継続させることにより追加融資に見合う額の債権回収が期待できたということはできない。
(3) B社を数か月間延命させたとしても,それにより関連企業の連鎖倒産を避けられたとも,B社に多額の資金を融資していた信用組合が破たんしてA銀行に支援要請が来る事態を回避できたとも考え難い。
- 裁判
- 最高裁判所第二小法廷 平成20年1月28日 平成17(受)1440
- 登載
- 集民 第227号105頁
- 参照法条
- 商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)254条3項,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)254条ノ3,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)266条1項5号,民法644条,会社法423条1項
論点17第644条民法
1 いわゆる仕手筋として知られるAが大量に取得したB社の株式を暴力団の関連会社に売却するなどとB社の取締役であるYらを脅迫した場合においてAの要求に応じて巨額の金員を交付することを提案し又はこれに同意したYらの忠実義務,善管注意義務違反が問われた行為について過失を否定することができないとされた事例
2 会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為と商法(平成12年法律第90号による改正前のもの)294条ノ2第1項にいう「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」利益を供与する行為
裁判要旨1 いわゆる仕手筋として知られるAが,大量に取得したB社の株式を暴力団の関連会社に売却するなどとB社の取締役であるYらを脅迫した場合において,売却を取りやめてもらうためAの要求に応じて約300億円という巨額の金員を融資金の名目で交付することを提案し又はこれに同意したYらの忠実義務,善管注意義務違反が問われた行為について,Aの言動に対して警察に届け出るなどの適切な対応をすることが期待できないような状況にあったということはできないという事情の下では,やむを得なかったものとしてその過失を否定することはできない。
2 会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で,当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は,商法(平成12年法律第90号による改正前のもの)294条ノ2第1項にいう「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」利益を供与する行為に当たる。
- 裁判
- 最高裁判所第二小法廷 平成18年4月10日 平成15(受)1154
- 登載
- 民集 第60巻4号1273頁
- 参照法条
- (1につき)商法254条3項,商法254条ノ3,商法266条1項5号,民法644条 (2につき)商法(平成12年法律第90号による改正前のもの)294条ノ2,商法(平成15年法律第134号による改正前のもの)266条1項2号
論点18第400条民法
家屋賃借人の敷地利用が賃借家屋およびその敷地の使用収益権の範囲を逸脱しその保管義務に反することはないとされた事例
裁判要旨家屋賃借人がその敷地に家屋を無断築造した場合であつても、現在の家主が賃貸人となつた当時、すでに右賃借人が地主の承諾をえて敷地の一部に約三坪の居宅兼物置を築造しており、その後約一二年をへて、右賃借人が右居宅兼物置を撤去した跡にそれと面積、位置をほぼ同じくして、木造トタン葺板壁の簡単な構造の作業場を新築したにすぎず、右新築による賃借家屋の損傷の程度や作業場の利用状況等が判示のとおりであるときには、右作業場の設置をもつて、家屋賃借人の敷地利用が賃借家屋およびその敷地の使用収益権の範囲を逸脱し、その保管義務に反するものということはできない。
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 昭和46年7月1日 昭和44(オ)508
- 登載
- 集民 第103号335頁
- 参照法条
- 民法400条,民法594条1項,民法616条
論点19第400条民法
賃貸家屋の無断改造工事が賃貸借の目的物保管義務に違反しないとされた事例。
裁判要旨賃借人が賃借家屋の無断改造工事をした場合でも、それが容易に復元できる簡易なものであり、もしくは浸水を防止するため必要であつた等、原判示の事情(原判決理由参照)がある場合には賃貸借の目的物保管義務に違反しないものと解すべきである。
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 昭和40年3月11日 昭和39(オ)1310
- 登載
- 集民 第78号267頁
- 参照法条
- 民法400条,民法594条
論点20第400条民法
賃借人に著しい不信行為があるとして無催告の土地賃貸借契約解除が有効とされた事例。
裁判要旨土地賃借人が賃貸人の申し入れた地代値上の交渉をことさらに回避し、かつ、地下室の建設を禁ずる旨の約定があったのにこれを無視して地下室建設工事に着手し、賃貸人において工事中止もしくは原状回復の催告をしたとしても賃借人がこれに応じたとは到底認め得ないような事情(原判決理由参照)があるときは、賃貸人は、賃借人に著しい不信行為があることを理由として、催告なしに賃貸借契約を解除することができる。
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 昭和39年6月4日 昭和37(オ)601
- 登載
- 集民 第74号11頁
- 参照法条
- 民法400条,民法541条,民法543条