労働安全衛生法 / テーマ別まとめ

機械等並びに危険物及び有害物に関する規制/危険物及び有害物に関する規制

危険物及び有害物に関する規制の条文と、裁判所が付した判示事項から整理しています。

原文解釈このページは論点を軸に条文と判例を横断して整理したものです。論点の名称と構成は当サイトの整理であり、条文上の区分ではありません。リード文・要点・比較表も当サイトによる解釈です。条文原文と判例の判示事項・裁判要旨は転記です。

労働安全衛生法55条から58条は、労働者に重い健康障害や危険を生じさせるおそれのある物質について、製造そのものの禁止・許可制、容器への表示、譲渡・提供時の情報提供(文書交付・通知)、事業者による自主調査、国による調査指示・援助という一連の規制を定めています。実務担当者は、扱う化学物質がどの規制段階に該当するかを確認し、表示・通知(SDS)・届出などの義務を洗い出す必要があります。

危険物及び有害物に関する規制
規制対象物義務の内容主な例外
製造等の禁止(55条)黄りんマッチ・ベンジジン等製造・輸入・譲渡・提供・使用禁止試験研究目的で政令要件該当時
製造の許可(56条)ジクロルベンジジン等厚労大臣の許可を得て製造―
表示(57条1項)危険物・ベンゼン等/56条1項物容器・包装に名称等を表示一般消費者向け容器は対象外
文書交付(57条2項)表示対象物を表示以外で譲渡事項記載文書を相手方に交付一般消費者向け容器は対象外
通知/SDS(57条の2)通知対象物成分・取扱注意等を通知一般消費者向け製品は対象外
自主調査(57条の3)57条1項物・通知対象物危険性・有害性等を調査―
新規物質届出(57条の4)新規化学物質有害性調査を行い厚労大臣に届出試験研究目的等は届出不要
調査指示(57条の5)がん等重度健康障害のおそれ物質厚労大臣が調査・報告を指示―
  • 55条の例外は試験研究目的で製造・輸入・使用し、かつ政令で定める要件に該当する場合に限られる
  • 56条は許可基準に適合しない設備・作業方法への是正命令、法令違反時の許可取消しが定められている
  • 57条の表示義務・57条の2の通知義務は、いずれも主として一般消費者の生活の用に供する製品には適用されない
  • 57条の2第3項により、秘密として管理される成分は相手方に明示した上で代替化学名等の通知で代えられる
  • 57条の4の届出は、ばく露のおそれがない旨等の確認を受けた場合や試験研究目的の製造・輸入等では不要
  • 57条の4・57条の5で意見を求められた学識経験者は秘密保持義務を負うが、健康障害防止のためやむを得ない場合は例外
1

危険物及び有害物に関する規制

危険物及び有害物に関する規制について、条文は何を定めているか。

第55条製造等の禁止重度健康障害物は製造等を禁止1項判例なし
  • 黄りんマッチ・ベンジジン等政令指定物は製造・輸入・譲渡・提供・使用が禁止
  • 試験研究目的での製造・輸入・使用は政令要件に該当すれば例外的に可能
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第56条製造の許可重度健康障害のおそれある物は許可制6項判例なし
  • ジクロルベンジジン等政令指定物の製造には厚労大臣の許可が必要
  • 許可を受けた製造者は設備・作業方法を基準に適合させ続ける義務がある
  • 基準不適合には是正命令、法令違反には許可取消しがありうる
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第57条表示等危険物・有害物は容器に表示2項・2号判例 2件
  • 爆発性・発火性・引火性物やベンゼン等・56条1項〈製造の許可〉物は容器包装に名称等を表示
  • 表示以外の方法で譲渡・提供する場合は事項を記載した文書を交付
  • 一般消費者の生活用の容器包装は表示・文書交付の対象外
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第57_2条文書の交付等通知対象物はSDSで情報を通知9項・7号判例なし
  • 名称・成分・性質・人体影響・取扱注意・事故時応急措置等を相手方に通知
  • 変更が生じた場合は変更後の事項を速やかに通知するよう努める
  • 秘密成分は明示の上で代替化学名等を通知することで代替可能
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第57_3条第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物について事業者が行うべき調査等事業者は危険性・有害性を自ら調査4項判例なし
  • 57条1項〈表示等〉の政令指定物・通知対象物の危険性又は有害性等を調査する義務がある
  • 調査結果に基づき法令上の措置のほか必要な措置を講ずるよう努める
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第57_4条化学物質の有害性の調査新規化学物質は事前に届出が必要5項・4号判例なし
  • 既存物質以外の新規化学物質を製造・輸入する前に有害性調査を行い厚労大臣に届出
  • 調査結果に基づき健康障害防止に必要な措置を速やかに講じる
  • ばく露のおそれなしの確認等を受けた場合や試験研究目的なら届出不要
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第57_5条国が有害性調査の実施・報告を指示できる5項判例なし
  • がん等重度健康障害のおそれがある化学物質は厚労大臣が調査・報告を指示できる
  • 指示を受けた事業者は調査結果に基づき必要な措置を速やかに講じる
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第58条国の援助等国が有害性調査の実施を援助1項判例なし
  • 国は施設整備・資料提供その他有害性調査の実施に必要な援助に努める
  • 国自らも有害性調査を実施するよう努める
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論

主要な論点と判例

原文ママ

論点の見出しと結論は、裁判所が付した判示事項・裁判要旨をそのまま転記しています。文中の〈 〉内は条文の見出しを当サイトが補ったものです。

論点1第57条労働安全衛生法

1 労働大臣が建設現場における石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが屋内の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した労働者との関係において国家賠償法1条1項〈目的〉の適用上違法であるとされた事例
2 労働大臣が建設現場における石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが屋内の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者のうち労働者に該当しない者との関係において国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例
3 被害者によって特定された複数の行為者のほかに被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為をした者が存在しないことは,民法719条1項後段の適用の要件か
4 石綿含有建材を製造販売した建材メーカーらが,中皮腫にり患した大工らに対し,民法719条1項後段の類推適用により,上記大工らの各損害の3分の1について連帯して損害賠償責任を負うとされた事例
5 石綿含有建材を製造販売した建材メーカーらが,石綿肺,肺がん又はびまん性胸膜肥厚にり患した大工らに対し,民法719条1項後段の類推適用により,上記大工らの各損害の3分の1について連帯して損害賠償責任を負うとされた事例

裁判要旨1 屋根を有し周囲の半分以上が外壁に囲まれ屋内作業場と評価し得る建設現場の内部における建設作業(石綿吹付け作業を除く。)に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより石綿肺,肺がん,中皮腫等の石綿関連疾患にり患した場合において,次の⑴~⑷など判示の事情の下では,石綿に係る規制を強化する昭和50年の改正後の特定化学物質等障害予防規則が一部を除き施行された同年10月1日以降,労働大臣が,労働安全衛生法に基づく規制権限を行使して,通達を発出するなどして,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として,石綿含有建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること並びに石綿含有建材の切断等の石綿粉じんを発散させる作業及びその周囲における作業をする際には必ず適切な防じんマスクを着用する必要があることを示すように指導監督をせず,また,同法に基づく省令制定権限を行使して,事業者に対し,上記の屋内作業場と評価し得る建設現場の内部において上記各作業に労働者を従事させる場合に呼吸用保護具を使用させることを義務付けなかったことは,上記の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した労働者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法である。
⑴ 昭和50年当時,建設現場は石綿粉じんにばく露する危険性の高い作業環境にあったところ,国による石綿粉じん対策は不十分なものであり,建設作業従事者に石綿関連疾患にり患する広範かつ重大な危険が生じていた。
⑵ 昭和33年には,石綿肺に関する医学的知見が確立し,昭和47年には,石綿粉じんにばく露することと肺がん及び中皮腫の発症との関連性並びに肺がん及び中皮腫が潜伏期間の長い遅発性の疾患であることが明らかとなっていた。
⑶ 国は,昭和48年には,石綿のがん原性が明らかとなったことに伴い,石綿粉じんに対する規制を強化する必要があると認識し,昭和50年には,石綿含有建材を取り扱う建設作業従事者について,石綿関連疾患にり患することを防止する必要があると認識していた。
⑷ 国は,昭和48年頃には,建設作業従事者が,当時の通達の示す抑制濃度を超える石綿粉じんにさらされている可能性があることを認識することができたのであり,建設現場における石綿粉じん濃度の測定等の調査を行えば,石綿吹付け作業に従事する者以外の上記の屋内作業場と評価し得る建設現場の内部における建設作業従事者にも,石綿関連疾患にり患する広範かつ重大な危険が生じていることを把握することができた。
2 屋根を有し周囲の半分以上が外壁に囲まれ屋内作業場と評価し得る建設現場の内部における建設作業(石綿吹付け作業を除く。)に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより石綿肺,肺がん,中皮腫等の石綿関連疾患にり患した場合において,次の⑴~⑷など判示の事情の下では,石綿に係る規制を強化する昭和50年の改正後の特定化学物質等障害予防規則が一部を除き施行された同年10月1日以降,労働大臣が,労働安全衛生法に基づく規制権限を行使して,通達を発出するなどして,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として,石綿含有建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること並びに石綿含有建材の切断等の石綿粉じんを発散させる作業及びその周囲における作業をする際には必ず適切な防じんマスクを着用する必要があることを示すように指導監督をしなかったことは,上記の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者のうち同法2条2号において定義された労働者に該当しない者との関係においても,国家賠償法1条1項の適用上違法である。
⑴ 昭和50年当時,建設現場は石綿粉じんにばく露する危険性の高い作業環境にあったところ,国による石綿粉じん対策は不十分なものであり,建設作業従事者に石綿関連疾患にり患する広範かつ重大な危険が生じていた。
⑵ 昭和33年には,石綿肺に関する医学的知見が確立し,昭和47年には,石綿粉じんにばく露することと肺がん及び中皮腫の発症との関連性並びに肺がん及び中皮腫が潜伏期間の長い遅発性の疾患であることが明らかとなっていた。
⑶ 国は,昭和48年には,石綿のがん原性が明らかとなったことに伴い,石綿粉じんに対する規制を強化する必要があると認識し,昭和50年には,石綿含有建材を取り扱う建設作業従事者について,石綿関連疾患にり患することを防止する必要があると認識していた。
⑷ 国は,昭和48年頃には,建設作業従事者が,当時の通達の示す抑制濃度を超える石綿粉じんにさらされている可能性があることを認識することができたのであり,建設現場における石綿粉じん濃度の測定等の調査を行えば,石綿吹付け作業に従事する者以外の上記の屋内作業場と評価し得る建設現場の内部における建設作業従事者にも,石綿関連疾患にり患する広範かつ重大な危険が生じていることを把握することができた。
3 被害者によって特定された複数の行為者のほかに被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為をした者が存在しないことは,民法719条1項後段の適用の要件である。
4 Y1,Y2及びY3を含む多数の建材メーカーが,石綿含有建材を製造販売する際に,当該建材が石綿を含有しており,当該建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること等を当該建材に表示する義務を負っていたにもかかわらず,その義務を履行しておらず,大工らが,建設現場において,複数の建材メーカーが製造販売した石綿含有建材を取り扱うことなどにより,累積的に石綿粉じんにばく露し,中皮腫にり患した場合において,次の⑴~⑷など判示の事情の下では,Y1,Y2及びY3は,民法719条1項後段の類推適用により,上記大工らの各損害の3分の1について,連帯して損害賠償責任を負う。
⑴ 上記大工らは,建設現場において,石綿含有スレートボード・フレキシブル板,石綿含有スレートボード・平板及び石綿含有けい酸カルシウム板第1種という種類の石綿含有建材を直接取り扱っていた。
⑵ 上記の各種類の石綿含有建材のうち,Y1,Y2及びY3が製造販売したものが,上記大工らが稼働する建設現場に相当回数にわたり到達して用いられていた。
⑶ 上記大工らが,上記の各種類の石綿含有建材を直接取り扱ったことによる石綿粉じんのばく露量は,各自の石綿粉じんのばく露量全体のうち3分の1程度であった。
⑷ 上記大工らの中皮腫の発症について,Y1,Y2及びY3が個別にどの程度の影響を与えたのかは明らかでない。
5 Y1,Y2及びY3を含む多数の建材メーカーが,石綿含有建材を製造販売する際に,当該建材が石綿を含有しており,当該建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること等を当該建材に表示する義務を負っていたにもかかわらず,その義務を履行しておらず,大工らが,建設現場において,複数の建材メーカーが製造販売した石綿含有建材を取り扱うことなどにより,累積的に石綿粉じんにばく露し,石綿肺,肺がん又はびまん性胸膜肥厚にり患した場合において,次の⑴~⑷など判示の事情の下では,Y1,Y2及びY3は,民法719条1項後段の類推適用により,上記大工らの各損害の3分の1について,連帯して損害賠償責任を負う。
⑴ 上記大工らは,建設現場において,石綿含有スレートボード・フレキシブル板,石綿含有スレートボード・平板及び石綿含有けい酸カルシウム板第1種という種類の石綿含有建材を直接取り扱っていた。
⑵ 上記の各種類の石綿含有建材のうち,Y1,Y2及びY3が製造販売したものが,上記大工らが稼働する建設現場に相当回数にわたり到達して用いられていた。
⑶ 上記大工らが,上記の各種類の石綿含有建材を直接取り扱ったことによる石綿粉じんのばく露量は,各自の石綿粉じんのばく露量全体のうち3分の1程度であった。
⑷ 上記大工らの石綿肺,肺がん又はびまん性胸膜肥厚の発症について,Y1,Y2及びY3が個別にどの程度の影響を与えたのかは明らかでない。
裁判
最高裁判所第一小法廷 令和3年5月17日 平成30(受)1447
登載
民集 第75巻5号1359頁
参照法条
(1,2につき)国家賠償法1条1項,労働安全衛生法22条,労働安全衛生法23条, 労働安全衛生法27条,労働安全衛生法57条1項 (3~5につき)民法719条1項後段
論点2第57条労働安全衛生法

1 厚生労働大臣が建設現場における石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが屋外の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者との関係において国家賠償法1条1項〈目的〉の適用上違法とはいえないとされた事例
2 建材メーカーが,自らの製造販売する石綿含有建材を使用する屋外の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者に対し,上記石綿含有建材に当該建材から生ずる粉じんにばく露すると重篤な石綿関連疾患にり患する危険があること等の表示をすべき義務を負っていたとはいえないとされた事例

裁判要旨1 屋外の建設現場における石綿含有建材の切断,設置等の作業に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより中皮腫にり患した場合において,次の⑴~⑸など判示の事情の下では,国が,平成13年から平成16年9月30日までの期間に,上記作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたとはいえず,厚生労働大臣が,平成14年1月1日から平成16年9月30日までの期間に,労働安全衛生法に基づく規制権限を行使して,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として,石綿含有建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患にり患する危険がある旨を示すこと等を義務付けなかったことは,上記作業に従事する者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえない。
⑴ 平成13年から平成16年9月30日までの期間において国が法令により定めていた石綿粉じん濃度の規制値は管理濃度としての2本/㎤であった。
⑵ 日本産業衛生学会が平成13年に勧告した過剰発がん生涯リスクレベル10-3(10のマイナス3乗)に対応する評価値としての0.15本/㎤は,法令上の規制値ではなく学会により勧告されたものであり,その意味は,労働者が1日8時間,週40時間程度,50年間にわたり0.15本/㎤のクリソタイルのみの石綿粉じんにばく露したときに,1000人に1人,過剰発がんリスクが発生するというものである。
⑶ 上記⑴の期間までに公表等がされていた上記作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果には,0.15本/㎤以上のものがあるが,それらは主に石綿含有建材の切断作業をする者につきその作業をする限られた時間の個人ばく露濃度を測定したもの等である。
⑷ 上記測定結果には,0.15本/㎤を下回るものがある。
⑸ 上記測定結果は,全体として屋内の作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果を大きく下回るところ,これは,屋外の作業場においては,屋内の作業場と異なり,風等により自然に換気がされ,石綿粉じん濃度が薄められるためであることがうかがわれる。
2 屋外の建設現場における石綿含有建材の切断,設置等の作業に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより中皮腫にり患した場合において,次の⑴~⑸など判示の事情の下では,建材メーカーが,平成13年から平成15年12月31日までの期間に,自らの製造販売する石綿含有建材を使用する上記作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたとはいえず,平成14年1月1日から平成15年12月31日までの期間に,上記の者に対し,上記石綿含有建材に当該建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患にり患する危険があること等の表示をすべき義務を負っていたとはいえない。
⑴ 平成13年から平成15年12月31日までの期間において国が法令により定めていた石綿粉じん濃度の規制値は管理濃度としての2本/㎤であった。
⑵ 日本産業衛生学会が平成13年に勧告した過剰発がん生涯リスクレベル10-3(10のマイナス3乗)に対応する評価値としての0.15本/㎤は,法令上の規制値ではなく学会により勧告されたものであり,その意味は,労働者が1日8時間,週40時間程度,50年間にわたり0.15本/㎤のクリソタイルのみの石綿粉じんにばく露したときに,1000人に1人,過剰発がんリスクが発生するというものである。
⑶ 上記⑴の期間までに公表等がされていた上記作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果には,0.15本/㎤以上のものがあるが,それらは主に石綿含有建材の切断作業をする者につきその作業をする限られた時間の個人ばく露濃度を測定したもの等である。
⑷ 上記測定結果には,0.15本/㎤を下回るものがある。
⑸ 上記測定結果は,全体として屋内の作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果を大きく下回るところ,これは,屋外の作業場においては,屋内の作業場と異なり,風等により自然に換気がされ,石綿粉じん濃度が薄められるためであることがうかがわれる。
裁判
最高裁判所第一小法廷 令和3年5月17日 平成31(受)290
登載
集民 第265号201頁
参照法条
(1につき)国家賠償法1条1項,労働安全衛生法22条,労働安全衛生法23条,労働安全衛生法27条,労働安全衛生法57条 (2につき)民法709条
原

条文原文

原文ママ

e-Gov法令検索から取得した原文を、号・イロハまで省略せずに掲載しています。

労働安全衛生法 第55条(製造等の禁止) 詳細ページ
(製造等の禁止)
第五十五条黄りんマツチ、ベンジジン、ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で、政令で定めるものは、製造し、輸入し、譲渡し、提供し、又は使用してはならない。ただし、試験研究のため製造し、輸入し、又は使用する場合で、政令で定める要件に該当するときは、この限りでない。
労働安全衛生法 第56条(製造の許可) 詳細ページ
(製造の許可)
第五十六条ジクロルベンジジン、ジクロルベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずるおそれのある物で、政令で定めるものを製造しようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、あらかじめ、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。
2厚生労働大臣は、前項の許可の申請があつた場合には、その申請を審査し、製造設備、作業方法等が厚生労働大臣の定める基準に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。
3第一項の許可を受けた者(以下「製造者」という。)は、その製造設備を、前項の基準に適合するように維持しなければならない。
4製造者は、第二項の基準に適合する作業方法に従つて第一項の物を製造しなければならない。
5厚生労働大臣は、製造者の製造設備又は作業方法が第二項の基準に適合していないと認めるときは、当該基準に適合するように製造設備を修理し、改造し、若しくは移転し、又は当該基準に適合する作業方法に従つて第一項の物を製造すべきことを命ずることができる。
6厚生労働大臣は、製造者がこの法律若しくはこれに基づく命令の規定又はこれらの規定に基づく処分に違反したときは、第一項の許可を取り消すことができる。
労働安全衛生法 第57条(表示等) 詳細ページ
(表示等)
第五十七条爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物若しくはベンゼン、ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は前条第一項の物を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、その容器又は包装(容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときにあつては、その容器)に次に掲げるものを表示しなければならない。ただし、その容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては、この限りでない。
一次に掲げる事項
イ名称
ロ人体に及ぼす作用
ハ貯蔵又は取扱い上の注意
ニイからハまでに掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
二当該物を取り扱う労働者に注意を喚起するための標章で厚生労働大臣が定めるもの
2前項の政令で定める物又は前条第一項の物を前項に規定する方法以外の方法により譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、同項各号の事項を記載した文書を、譲渡し、又は提供する相手方に交付しなければならない。
労働安全衛生法 第57_2条(文書の交付等) 詳細ページ
(文書の交付等)
第五十七条の二労働者に危険若しくは健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は第五十六条第一項の物(以下この条及び次条第一項において「通知対象物」という。)を譲渡し、又は提供する者(次項、第三項及び第九項並びに第百条第一項において「通知対象物譲渡者等」という。)は、文書の交付その他厚生労働省令で定める方法により通知対象物に関する次の事項(前条第二項に規定する者にあつては、同項に規定する事項を除く。)を、譲渡し、又は提供する相手方に通知しなければならない。ただし、主として一般消費者の生活の用に供される製品として通知対象物を譲渡し、又は提供する場合については、この限りでない。
一名称
二成分及びその含有量
三物理的及び化学的性質
四人体に及ぼす作用
五貯蔵又は取扱い上の注意
六流出その他の事故が発生した場合において講ずべき応急の措置
七前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
2通知対象物譲渡者等は、前項の規定により通知した事項に変更を行う必要が生じたときは、文書の交付その他厚生労働省令で定める方法により、変更後の同項各号の事項を、速やかに、譲渡し、又は提供した相手方に通知するよう努めなければならない。
3通知対象物譲渡者等は、通知対象物に関する第一項第二号の成分(労働者に危険又は健康障害を生ずるおそれの程度を勘案して厚生労働省令で定める化学物質である成分に限る。)の情報が、秘密として管理されている製品の情報その他の事業活動に有用な情報であつて、公然と知られていないものである場合には、その旨を当該通知対象物を譲渡し、又は提供する相手方にあらかじめ明示した上で、当該成分の化学名における成分の構造又は構成要素を表す文字の一部を省略し、若しくは置き換えた化学名又は厚生労働省令で定める事項(以下「代替化学名等」という。)を定め、これを通知することをもつて前二項の規定による通知に代えることができる。
4前項の規定に基づき代替化学名等の通知を行つた者(次項及び第百三条第四項において「代替化学名等通知者」という。)は、厚生労働省令で定めるところにより、当該通知に係る通知対象物の成分、通知した代替化学名等その他の厚生労働省令で定める事項を記録しなければならない。
5代替化学名等通知者は、通知対象物による健康障害が生じ、又は生ずるおそれがある場合において、医師による診断、治療その他の厚生労働省令で定める行為のために必要があるときは、当該医師の求めに応じて、厚生労働省令で定めるところにより、当該通知対象物の成分の情報を当該医師に開示しなければならない。
6第三項の規定により通知対象物の成分について代替化学名等を通知された者は、当該通知対象物を譲渡し、又は提供する場合には、当該通知対象物の成分について代替化学名等を通知された旨を当該通知対象物を譲渡し、又は提供する相手方にあらかじめ明示した上で、代替化学名等を通知することをもつて第一項又は第二項の規定による通知に代えることができる。この項の規定により代替化学名等を通知された者についても、同様とする。
7前各項に定めるもののほか、第一項及び第二項の通知に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
8厚生労働大臣は、第三項及び第六項の代替化学名等の通知の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
9厚生労働大臣は、前項の指針に従い、通知対象物譲渡者等に対し、必要な指導等を行うことができる。
労働安全衛生法 第57_3条(第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物について事業者が行うべき調査等) 詳細ページ
(第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物について事業者が行うべき調査等)
第五十七条の三事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物による危険性又は有害性等を調査しなければならない。
2事業者は、前項の調査の結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。
3厚生労働大臣は、第二十八条第一項及び第三項に定めるもののほか、前二項の措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
4厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる。
労働安全衛生法 第57_4条(化学物質の有害性の調査) 詳細ページ
(化学物質の有害性の調査)
第五十七条の四化学物質による労働者の健康障害を防止するため、既存の化学物質として政令で定める化学物質(第三項の規定によりその名称が公表された化学物質を含む。)以外の化学物質(以下この条において「新規化学物質」という。)を製造し、又は輸入しようとする事業者は、あらかじめ、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣の定める基準に従つて有害性の調査(当該新規化学物質が労働者の健康に与える影響についての調査をいう。以下この条において同じ。)を行い、当該新規化学物質の名称、有害性の調査の結果その他の事項を厚生労働大臣に届け出なければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときその他政令で定める場合は、この限りでない。
一当該新規化学物質に関し、厚生労働省令で定めるところにより、当該新規化学物質について予定されている製造又は取扱いの方法等からみて労働者が当該新規化学物質にさらされるおそれがない旨の厚生労働大臣の確認を受けたとき。
二当該新規化学物質に関し、厚生労働省令で定めるところにより、既に得られている知見等に基づき厚生労働省令で定める有害性がない旨の厚生労働大臣の確認を受けたとき。
三当該新規化学物質を試験研究のため製造し、又は輸入しようとするとき。
四当該新規化学物質が主として一般消費者の生活の用に供される製品(当該新規化学物質を含有する製品を含む。)として輸入される場合で、厚生労働省令で定めるとき。
2有害性の調査を行つた事業者は、その結果に基づいて、当該新規化学物質による労働者の健康障害を防止するため必要な措置を速やかに講じなければならない。
3厚生労働大臣は、第一項の規定による届出があつた場合(同項第二号の規定による確認をした場合を含む。)には、厚生労働省令で定めるところにより、当該新規化学物質の名称を公表するものとする。
4厚生労働大臣は、第一項の規定による届出があつた場合には、厚生労働省令で定めるところにより、有害性の調査の結果について学識経験者の意見を聴き、当該届出に係る化学物質による労働者の健康障害を防止するため必要があると認めるときは、届出をした事業者に対し、施設又は設備の設置又は整備、保護具の備付けその他の措置を講ずべきことを勧告することができる。
5前項の規定により有害性の調査の結果について意見を求められた学識経験者は、当該有害性の調査の結果に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。ただし、労働者の健康障害を防止するためやむを得ないときは、この限りでない。
労働安全衛生法 第57_5条 詳細ページ
第五十七条の五厚生労働大臣は、化学物質で、がんその他の重度の健康障害を労働者に生ずるおそれのあるものについて、当該化学物質による労働者の健康障害を防止するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該化学物質を製造し、輸入し、又は使用している事業者その他厚生労働省令で定める事業者に対し、政令で定める有害性の調査(当該化学物質が労働者の健康障害に及ぼす影響についての調査をいう。)を行い、その結果を報告すべきことを指示することができる。
2前項の規定による指示は、化学物質についての有害性の調査に関する技術水準、調査を実施する機関の整備状況、当該事業者の調査の能力等を総合的に考慮し、厚生労働大臣の定める基準に従つて行うものとする。
3厚生労働大臣は、第一項の規定による指示を行おうとするときは、あらかじめ、厚生労働省令で定めるところにより、学識経験者の意見を聴かなければならない。
4第一項の規定による有害性の調査を行つた事業者は、その結果に基づいて、当該化学物質による労働者の健康障害を防止するため必要な措置を速やかに講じなければならない。
5第三項の規定により第一項の規定による指示について意見を求められた学識経験者は、当該指示に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。ただし、労働者の健康障害を防止するためやむを得ないときは、この限りでない。
労働安全衛生法 第58条(国の援助等) 詳細ページ
(国の援助等)
第五十八条国は、前二条の規定による有害性の調査の適切な実施に資するため、化学物質について、有害性の調査を実施する施設の整備、資料の提供その他必要な援助に努めるほか、自ら有害性の調査を実施するよう努めるものとする。
出

一次情報

原文ママ

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