論点1第511条民法
一 不渡異議申立手続の委託に伴う預託金の返還請求権が手形債権者に転付きれた場合と支払銀行が手形債務者に対して有する反対債権をもつてする相殺の許否
二 第三債務者が民訴法六〇九条に基づき被差押債権の存在を認め支払意思を表明したことと相殺権の放棄
裁判要旨一 支払銀行に対し、手形の不渡異議申立手続を委託した手形債務者から異議申立提供金に見合う資金として支払銀行に交付された預託金の返還請求権が手形債権者に転付された場合に、支払銀行が右債権の差押前から手形債務者に対して有する反対債権をもつて被転付債権と相殺することが、預託金返還請求権の性質上制限されるものと解すべき理由はない。
二 民訴法六〇九条に基づき、第三債務者が、差押裁判所に対してした陳述において、被差押債権の「存在を認めて支払の意思を表明し将来において相殺する意思がある旨を表明しなかつた場合でも、その後、これを受働債権として相殺に供すること又は時効により消滅したと主張することを妨げるものではない。
- 裁判
- 最高裁判所第二小法廷 昭和55年5月12日 昭和54(オ)1134
- 登載
- 集民 第129号637頁
- 参照法条
- 手形法38条,民法511条,民法646条1項,民訴法609条,民訴法748条
論点2第511条民法
手形割引依頼人が仮差押の申請を受けたことを手形買戻請求権の取得及び弁済期到来の事由とする銀行取引約定書による合意の第三者に対する効力
裁判要旨手形割引依頼人が仮差押の申請を受けたときは通知催告がなくても銀行に対し割引手形の買戻債務を負い直ちに弁済する旨の銀行取引約定書による合意に基づいて手形割引がされた場合に、割引依頼人の債権者が割引依頼人の銀行に対する債権につき仮差押をし差押・転付命令を得たときは、銀行は、特段の事情のない限り、右仮差押の申請があつた時に割引依頼人に対し手形買戻請求権を取得しその弁済期が到来したものとして、右手彩買戻請求権をもつて被転付債権と相殺することができる。
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 昭和51年11月25日 昭和46(オ)457
- 登載
- 民集 第30巻10号939頁
- 参照法条
- 民法511条,民訴法598条1項,民訴法601条,民訴法750条2項,手形法第1編第6章,手形法第1編第7章
論点3第511条民法
金融機関が手形貸付債権又は手形買戻請求権をもつて転付された預金債権を相殺した場合と手形の返還先
裁判要旨金融機関が預金者から第三者に転付された預金債権を右預金者に対する手形貸付債権又は手形買戻請求権をもつて相殺した結果預金債権が転付前に遡つて消滅した場合には、金融機関は、手形貸付けについて振り出された手形又は買戻の対象となつた手形を右預金者に返還すべきであり、預金債権の転付を受けた第三者に返還すべきではない。
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 昭和50年9月25日 昭和46(オ)1110
- 登載
- 民集 第29巻8号1287頁
- 参照法条
- 民法468条,民法511条,民訴法601条,手形法39条,手形法50条,手形法77条
論点4第511条民法
債権の差押前から債務者に対して反対債権を有していた第三債務者が右反対債権を自働債権とし被差押債権を受働債権としてする相殺の効力
裁判要旨債権が差し押えられた場合において、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたときは、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、右債権および被差押債権の弁済期の前後を問わず、両者が相殺適状に達しさえすれば、第三債務者は、差押後においても、右反対債権を自働債権として、被差押債権と相殺することができる。
(最大判昭和四五年六月二四日民集二四巻六号五八七頁と同趣旨。大塚裁判官が判決に加つているので、裁判集に登載。)
- 裁判
- 最高裁判所第二小法廷 昭和48年5月25日 昭和47(オ)1316
- 登載
- 集民 第109号269頁
- 参照法条
- 民法511条
論点5第511条民法
債権の仮差押前から債務者に対して反対債権を有していた第三債務者が右反対債権を自働債権として被仮差押債権を受働債権としてする相殺の効力
裁判要旨債権の仮差押がされた場合において、第三債務者が債務者に対し反対債権を有していたときは、その債権が仮差押後に取得されたものでないかぎり、右債権および被仮差押債権の弁済期の前後を問わず、両者が相殺適状に達しさえすれば、第三債務者は、仮差押後においても、右反対債権を自働債権として、被仮差押債権と相殺することができる。
(反対意見がある。)
- 裁判
- 最高裁判所第二小法廷 昭和46年11月19日 昭和46(オ)115
- 登載
- 集民 第104号413頁
- 参照法条
- 民法511条,民訴法598条1項,民訴法750条2項
論点6第511条民法
一、銀行の貸付金債権についてされた期限の利益喪失約款の差押債権者に対する効力
二、手形の不渡異議申立手続に関し手形債務者が支払銀行に預託する預託金の返還債務の履行期
裁判要旨一、銀行の貸付金債権について、債務者に対し強制執行、仮差押等の手続が開始されたときは、なんらの通知、催告を要せず、右債務が当然期限の利益を失う旨の合意は、右貸付金債権を差し押えた者に対しても、その効力を対抗しうる。
二、手形の不渡異議申立手続に関し、手形債務者が支払銀行に預託する預託金の返還債務の履行期は、支払銀行が、手形交換所から、当該手形の不渡異議提供金の返還を受けた時に到来すべきものと解すべきである。
(一、について意見がある。)
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 昭和45年8月20日 昭和42(オ)900
- 登載
- 集民 第100号333頁
- 参照法条
- 民法511条,民法646条,民訴法598条,手形法58条
論点7第511条民法
一、債権の差押前から債務者に対して反対債権を有していた第三債務者が右反対債権を自働債権とし被差押債権を受働債権としてする相殺の効力
二、相殺に関する合意の差押債権者に対する効力
裁判要旨一、債権が差し押えられた場合において、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたときは、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、右債権および被差押債権の弁済期の前後を問わず、両者が相殺適状に達しさえすれば、第三債務者は、差押後においても、右反対債権を自働債権として、被差押債権と相殺することができる。
二、銀行の貸付債権について、債務者の信用を悪化させる一定の客観的事情が発生した場合には、債務者のために存する右貸付金の期限の利益を喪失せしめ、同人の銀行に対する預金等の債権につき銀行において期限の利益を放棄し、直ちに相殺適状を生ぜしめる旨の合意は、右預金等の債権を差し押えた債権者に対しても効力を有する。
- 裁判
- 最高裁判所大法廷 昭和45年6月24日 昭和39(オ)155
- 登載
- 民集 第24巻6号587頁
- 参照法条
- 民法511条,民訴法598条1項
論点8第511条民法
いわゆる不渡異議申立提供金の預託金の返還請求権が手形債権者に転付された場合と支払銀行が手形債務者に対して有する反対債権をもつてする相殺の許否
裁判要旨いわゆる不渡異議申立提供金の預託金の返還請求権が手形債権者に転付された場合に、支払銀行が右債権の差押前から手形債務者に対して有する反対債権をもつて被転付債権と相殺することは許される。
- 裁判
- 最高裁判所第二小法廷 昭和45年10月23日 昭和45(オ)125
- 登載
- 集民 第101号155頁
- 参照法条
- 民法646条1項,民法511条,手形法38条
論点9第511条民法
受働債権につき国税滞納処分として差押がなされた場合と相殺の意思表示の相手方
裁判要旨国が国税滞納処分として債権を差し押さえ、その取立権を取得した場合において、第三債務者が債務者に対する反対債権をもつて被差押債権と相殺するには、債務者に対しても相殺の意思表示をすることができる。
- 裁判
- 最高裁判所第三小法廷 昭和40年7月20日 昭和37(オ)743
- 登載
- 集民 第79号893頁
- 参照法条
- 民法511条,旧国税徴収法(昭和34年法律147号による改正前のもの)23条の1
論点10第511条民法
一 債権差押の第三債務者が差押前に取得し差押後に相殺適状を生じた反対債権と被差押債権との相殺の効力。
二 相殺に関する契約の対外的効力。
裁判要旨一 甲が乙の丙に対する債権を差し押えた場合において、丙が差押前に取得した乙に対する債権の弁済期が差押時より後であるが、被差押債権の弁済期より前に到来する関係にあるときは、丙は右両債権の差押後の相殺をもつて甲に対抗することができるが、右両債権の弁済期の前後が逆であるときは、丙は右相殺をもつて甲に対抗することはできないものと解すべきである。
二 債権者と債務者の間で、相対立する債権につき将来差押を受ける等の一定の事由が発生した場合には、両債権の弁済期のいかんを問わず、直ちに相殺適状を生ずる旨の契約および予約完結の意思表示により相殺することができる旨の相殺予約は、相殺をもつて差押債権者に対抗できる前項の場合にかぎつて、差押債権者に対し有効であると解すべきである。
- 裁判
- 最高裁判所大法廷 昭和39年12月23日 昭和36(オ)897
- 登載
- 民集 第18巻10号2217頁
- 参照法条
- 民法511条,民訴法598条1項
論点11第511条民法
受働債権につき取立命令がなされた場合と相殺の意思表示の相手方。
裁判要旨債権の差押債権者が差押債権の取立命令をえた場合に、第三債務者は、差押前に債務者に対し取得した反対債権をもつて差し押えられた債権と相殺するには、右取立命令をえた差押債権者に対しても相殺の意思表示をすることができる。
- 裁判
- 最高裁判所第三小法廷 昭和39年10月27日 昭和37(オ)212
- 登載
- 民集 第18巻8号1801頁
- 参照法条
- 民法511条,民訴法600条
論点12第511条民法
甲乙間でされた甲の乙に対するA債権と乙の丙に対するB債権とを相殺することができる旨の相殺予約に基づく相殺をもって丙がB債権の差押債権者丁に対抗することができないとされた事例
裁判要旨甲乙間で、甲の乙に対するA債権と乙の丙に対するB債権とを相殺することができる旨の相殺予約をしたが、乙の債権者丁がB債権を差し押さえた後に甲が右相殺予約に基づき乙に対して相殺の意思表示をしたなど原判示の事実関係の下においては、丙は、右相殺をもって丁に対抗することはできない。
- 裁判
- 最高裁判所第三小法廷 平成7年7月18日 平成3(オ)906
- 登載
- 集民 第176号415頁
- 参照法条
- 民法505条,民法511条
論点13第511条民法
賃料債権に対する抵当権者の物上代位による差押えと当該債権への敷金の充当
裁判要旨敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合において,当該賃貸借契約が終了し,目的物が明け渡されたときは,賃料債権は,敷金の充当によりその限度で消滅する。
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 平成14年3月28日 平成12(受)836
- 登載
- 民集 第56巻3号689頁
- 参照法条
- 民法304条1項,民法372条,民法511条,民法619条2項,民事執行法193条
論点14第509条民法
同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間における相殺の許否
裁判要旨双方の過失に起因する同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても、相殺は許されない。
(反対意見がある。)
- 裁判
- 最高裁判所第二小法廷 昭和54年9月7日 昭和53(オ)1198
- 登載
- 集民 第127号415頁
- 参照法条
- 民法509条,民法709条
論点15第509条民法
不法行為の加害者が被害者に対する自己の債権を執行債権として自己に対する被害者の損害賠償債権について受けた転付命令の効力
裁判要旨不法行為の加害者が被害者に対する自己の債権を執行債権として自己に対する被害者の損害賠償債権について受けた転付命令は、民法
五〇九条〈不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止〉の規定を潜脱するものとして無効である。
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 昭和54年3月8日 昭和53(オ)970
- 登載
- 民集 第33巻2号187頁
- 参照法条
- 民法509条,民訴法601条
論点16第509条民法
一 民訴法一九八条二一の損害賠償義務と民法五〇九にいう「不法行為ニ因リテ生シタ」債務
二 民訴法一九八条二項の原状回復及び損害賠償が別訴で請求された場合にその債務者が前訴請求債権と請求の基礎を同じくする債権をもつてする相殺
裁判要旨一 民訴法一九八条二項の損害賠償義務は、民法
五〇九条〈不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止〉にいう「不法行為ニ因リテ生シタ」債務にあたらない。
二 民訴法一九八条二項の原状回復及び損害賠償が別訴で請求された場合には、その債務者は、前訴の請求債権と請求の基礎を同じくする債権であつても、これを自働債権とする相殺をもつて債権者に対抗することができる。
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 昭和53年12月21日 昭和53(オ)436
- 登載
- 民集 第32巻9号1749頁
- 参照法条
- 民訴法198条2項,民法505条,民法509条
論点17第509条民法
同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間における相殺の許否
裁判要旨双方の過失に基因する同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても、相殺は許されない。
- 裁判
- 最高裁判所第三小法廷 昭和49年6月28日 昭和47(オ)36
- 登載
- 民集 第28巻5号666頁
- 参照法条
- 民法509条,民法709条
論点18第509条民法
不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とし不法行為以外の原因による債権を受働債権とする相殺の許否
裁判要旨民法
第五〇九条〈不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止〉は、不法行為の被害者をして現実の弁済により損害の填補をうけしめるとともに、不法行為の誘発を防止することを目的とするものであり、不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とし、不法行為による損害賠償債権以外の債権を受働債権として相殺をすることまでも禁止するものではないと解するのが相当である。
- 裁判
- 最高裁判所第一小法廷 昭和42年11月30日 昭和40(オ)437
- 登載
- 民集 第21巻9号2477頁
- 参照法条
- 民法509条
論点19第509条民法
不法行為以外の原因により生じた債権に対し不法行為を原因とする債権をもつて相殺することの許否。
裁判要旨民法
第五〇九条〈不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止〉、不法行為以外の原因により生じた債務を負担する者が不法行為による損害賠償債権として相殺することを禁じる趣旨ではないと解すべきである。
- 裁判
- 最高裁判所第二小法廷 昭和40年11月5日 昭和40(オ)364
- 登載
- 集民 第81号37頁
- 参照法条
- 民法509条
論点20第509条民法
労働者の賃金債権に対し不法行為を原因とする債権をもつてする相殺の許否。
裁判要旨労働者の賃金債権に対しては、使用者は、労働者に対して有する不法行為を原因とする債権をもつても相殺することは許されない。
- 裁判
- 最高裁判所大法廷 昭和36年5月31日 昭和34(オ)95
- 登載
- 民集 第15巻5号1482頁
- 参照法条
- 労働基準法24条,労働基準法17条,民法505条,民法509条
論点21第509条民法
一 被害者に業務執行上の過失のある場合と民法第七一五条
二 民法第七一五条〈使用者等の責任〉による損害賠償義務者と相殺の許否
裁判要旨一 被用者たる運転手甲が自動車を運転して当該自動車を輸送する業務に従事中、その過失により自動車を衝突させ同乗していた乙を死亡させたものであるときは、乙が自動車輸送業務の共同担当者たる被用者で右衝突事故の発生につき同人にも過失があつたとしても、使用者は乙の死亡につき民法第七一五条による損害賠償責任を免れない。
二 民法
第七一五条〈使用者等の責任〉により損害賠償義務を負担している使用者は、被害者に対する不法行為による損害賠償債権を有している場合でも、相殺をもつて対抗することはできない。
- 裁判
- 最高裁判所第三小法廷 昭和32年4月30日 昭和30(オ)199
- 登載
- 民集 第11巻4号646頁
- 参照法条
- 民法715条,民法509条